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妖精探偵と愛する密室  作者: 山本羊羽
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終章 大正解

「それでは、ユリウス君の家に行こうか。」

「ちょっと待って下さい」

「何かな」

「ついてきてください」

街道から外れ、家と家の間に入る。幅は、二人がなんとか並んで歩ける程度。

「私の質問に答えて貰えますか」

「もちろん、いいよ」

ここだ。ここで最後のピースが埋まる。

「シンゲン氏、ユリウス氏のユニークスキルをもう既にご存知なのでは?」

「ふふ、ショウゴ君。真相が分かってきたかな。」

「これだけ一緒に行動すればヒントだって色々と見ています」

「ではその質問、答えよう。答えは、イエス、だ。」

やはり。やはりだ。脳内にクリード氏の死体を浮かべ、そして、その姿になった瞬間を再生する。

「ではもう一つ。シンゲン氏のユニークスキルはズバリ、''魔力感知''ですね?遠くから魔力を感じ取る能力」

「イエスだ」

「そして、私の推理が正しければ、これからユリウス氏の家に行く必要は無い」

「それも、イエス」

シンゲン氏は薄い笑みだ。

「そうですよね。だって..」

そうだ。そうだったのだ。

「犯人は、ユリウス氏は、そこにずっと居るのだから」

鷹揚にシンゲン氏の懐を指差す。

「フフフ」

シンゲン氏はそこに手を入れる。

「御名答」

そこから出てきたのは、瓶。

私はこの瓶を見たことがある。

蓋を外し、地面に横向きに置く。

「出てきなよ、ユリウス君。悪い様にはしないから」

すると、彼は瓶の中から現れた。米粒程の大きさの彼が。

「そろそろ話をしようか。まずはその大きさを直してくれるかな」

すると、その小人は徐々に大きくなる。

顔を下に向け、肩は縮こませて。

金髪で容姿端麗、体の所々に包帯を巻いている。写真の彼だ。

「残念だが、身体縮小のユニークスキルでは俺から逃げる事は出来ない。そんな事をしようとしたら、君の体に穴が開くよ」

シンゲン氏は懐に手を伸ばす。

ユリウス氏は変わらず俯いたまま。

「わざとじゃ、ないんです。わざとじゃ..。」

こんな声だったのか。優しい声色だ。

「僕、クリードの事裏切って..だから、自殺しようとしたんです..。愛していた...彼の中で。」

予想通りだ。クリード氏と、このユリウス氏は、同性の恋人だったのだ。しかも、加虐趣味と被虐趣味の。

「クリード君だけを愛していたつもりだったが、誰か女性と関係を持ってしまったと」

力無く頷く。

「それで自殺しようとして、彼のカプセル剤の中に隠れた」

またしても頷く。

「だが、彼がそのカプセル剤を飲み込んだ後、なんと結界宿に行ってしまった。そして扉を閉めロックを掛け、発生した結界の中で魔法は使えないから、君のユニークスキルは解除され、一瞬で体の大きさが戻り、彼の腹を突き破ってしまった」

頷かなくなった。

「その部屋には女性が居たな。ユリさんだ。彼女は部屋の奥で血塗れの状態だった。それは、君の入れ知恵だろう。いつでも洗い流せたが、そうはしなかった。彼女が冤罪で犯人となってしまうのが君にとって最悪のケースだから、一見して犯人でないという印象を与えたかったんだ。その思惑通り、部屋を開けたオーナーはユリさんが犯人とは思わなかった。君はそのオーナーが開けた時に体を小さくし、脱出しようとしたが、オーナーがすぐにロックし直してしまったから、それは叶わなかった。そして、もう一度開いた時には、運悪く俺が居た。それが俺でなければ部屋から出られたかもしれなかったのにね。

ではなぜ君は逃げようとしたのか。それは、クリード君を殺したその時、恋に落ちたからだ。ユリさんと君がね。ユリさんは何も知らないと演技することで、君の存在を悟らせないようにしていた。それで彼女が解放された後で、ユリさんと君は何日にどこかで落ち合おうと決めていたのだろう。あの死体の部屋の中で。

ところで、なぜクリード君とユリさんは宿に泊まろうとしていたのだろうね」

そこで彼の体は崩れてしまった。


「ユリウス君の身は騎士団に預けてきた。

不慮の事故とはいえ、殺人は殺人だ。結界宿の名前は世間に出さないよう言っておいた。」

この世界には警察が居らず、罪人への処遇は騎士団の裁量によるらしい。

「これからユリさんと話をして、クリード君の母とポルコ君のところに行って、宿を綺麗にしてと、する事が多いな。」

「私は死体の処理なんて出来ませんよ」

「そこまで手伝わせようなんて思っていないよ、名探偵ショウゴ君。いや君の事はこう呼んだ方が良いかな、名探偵藍裏御朗先生?」

私は顎髭を擦る。

「参りましたね。まさか『転生者』の持っている本はその者自身の作品だったなんて。私は分かりませんでしたよ。最初から分かっていたというのに私を試すなんて、シンゲン氏も性格の悪い」

雑誌や教科書ではそこまで推理するに至らなかったのだ。

「それはお互い様だろう」

私はシンゲン氏が探偵と聞いた時、その腕前を確かめる為、私が藍裏御朗という事実を隠し、それを暴けるかという挑戦状を送り付けたのだが、とんだ無駄骨だった。

「いやいやしかし、魔力感知にまで気付くとは、流石名探偵だ。異世界に来て一日未満でここまでやれるとはね」

シンゲン氏もまた、この事件の真相と、自身のユニークスキルを隠し、私の探偵としての腕を試していたのだ。

「では結界宿に戻るまでの間、少し雑談でもしないかい。俺の家でしていた話がずっと気になっていたんだ」

シンゲン氏の家では最後何を話していたのだったか。思い出せない。

「昔話だよ。桃太郎に花咲かじいさん、そして」

ああ、そんな事を話していた気がする。

「一寸法師」

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