Game 27
『【ギャンビット・ゲーム】の生き残りのあなたにお願いしたいことがあります。いかがでしょう?』
生還しないかわりに、コーセイは審判の女神の使徒になることにした。しかしてその実態は刺客。異世界に行って転生者を【ゲーム】で裁き、その魂を刈り取る死神だ。
「それで、何で先生は生還なかったんだ?」
「先生なんて柄じゃないわ。どうせ仮の姿だもの」
アイコの正体は【夜翁】の財産を狙っていた女詐欺師だ。その仕込みのためにわざとトールにつかまり、奴隷に落ちたふりで彼に近づいたのだ。
「それにあなたにはパートナーが必要でしょう? 異世界でも持ちつ持たれつでいきましょうよ」
「ついて来る気かよ。それでオレからは幾らふんだくるつもりなんだ?」
「人聞きの悪い。あれは正当な報酬でしょうよ」
アイコは生還する代わりに、自分の【権能】を使って希望者に3年の時間を売った。そしてその代金として一人につき3億円を要求したのだった。
だがその3年は望む者にとってはまさに値千金だ。ユキの父親の会社は倒産を免れ、ユキは売られることは無かったかもしれない。カジミヤは事故に遭わず現役を続けていたかもしれない。クラブの子供達は努力してさらに上を目指せたかもしれない。
クリハラは娘を殺されなかったかもしれず、トールは両親を失わず、あるいは表社会で力をつけて正々堂々と【夜翁】に挑んでいたかもしれない。
「女神が教えてくれたよ。時を操る聖女ってところか。それでその金でどうする? 向こうで国をひっくり返して、聖女を使い捨てにした奴らに復讐するのか」
「そんなくだらないことはしないわ。それこそ時間の無駄よ」
異世界のアイコは予知を得意とする聖女だった。しかし皆が欲しがったのは彼女の【時戻し】だった。そのせいでアイコは教会に金蔓として幽閉され飼い殺しにされ、最期は王国のクーデターをリセットするために命を散らされた。そして地球に転生したのだ。
「まあ地球は魔力が少なかったから、女神に満タンにしてもらってようやく使えるようになったんだけど。でもあなたも私の素性に気づいてたんでしょう? どこで分かったの?」
「石塔の神様の名前だ。オレも最初は忘れてたんだがな。正方形に組んだ綴りを時計回りに読むなんてのはよ」
「えっ? じゃああなたも……転生者?」
「いや、オレは違う。錬金術師だって嘯くホームレスの爺さんに教わったんだ。面倒を見た代わりのちょっとした手品と一緒にな」
そう言ってコーセイはその【権能】の一端をアイコに見せた。
「へえ、便利なものね……ねえ、どうせならもう一稼ぎしてから異世界に行かない? せっかく仕込んでおいたのも無駄にしたくないのよ。トールには許可を貰っているわ」
「何をしようってんだ? ……まさか【夜翁】殺しか?」
「ご名答。【夜翁】の息の根を止めてやるつもりよ。勝てば本当に国が買える大金が手に入るわ」
そう言ってアイコは勝負師の顔を見せる。
(その実はトールとリンが追っ手を気にせず、平穏無事に暮らせるようにって餞別だよな。そういうところはさすがに先生だな)
「……なるほど。じゃあよろしくな、先生」
「もう先生はやめて。四月一日藍子よ。あなたは?」
「やっぱりタヌキじゃねぇか。オレは金名木恒生だ」
「あら、そっちはキツネ? いいコンビになりそうね」
「ちっ、だから言いたくなかったんだよ。オレはコーセイでいい」




