表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/27

Game 10

 リンとトールが手をつないで2人で審判台に向かう。グレンツェン側からも1人、スーツ姿の会社員の男が向こうの審判台に向かって歩いてくる。

「この一戦が大事だってことはリンにもわかるよね? 向こうの基本戦略、弱い駒から出して来るのか、最初から強い駒で強攻に短期決戦を狙っているのか。リンはそれを見極める試金石になるんだ。僕のためにその役目を果たしてほしい」

 トールがつないだリンの手は冷たい。

「それに運がよければ1度くらいは勝てるかもしれない……ああ、そんなつもりじゃなかったんだ。ごめん、不安を煽るようなことばかり言ってしまうね……それならせめて最後までリンのそばにいるよ。僕が勝てたら、いや必ず勝って連れて帰るよ。君だけじゃない。4人みんな一緒に、いや5人(・・)かな?」

 リンが一瞬立ち止まる。

「トール先輩? ……どうして?」

「知ってたよ。先生が教えてくれた……ありがとう。なんだか生きる勇気を貰った気がするよ。愛してる、リン」

 涙をこぼす彼女を抱き締めトールがそっと口づける。


 断崖にたどり着いて数分後、リンが「行きます」と小さくトールに別れを告げる。

『審判台に乗ったなら中央の石に手を置きなさい。それが【審判】の開始です』

 鐘が「カラーン」とひとつ鳴り、腰高の石柱にリンと対戦相手が同時に手を置く。それを合図に審判台は出現した【天秤】の腕木に乗せられ、バランスをとるように緩やかに上下動を始める。擦れて軋む金属音とともにその動きは大きくなっていく。


 リンの顔に不安が広がっていく。振り返らないつもりだったが、リンは思わず後ろのトールを見てしまう。

「トール先輩っ!」

 そこにまだトールはいた。しかしその口角は持ち上げられ弧を描いて嗤っていた。

「さようなら。もう会う気はないけど……向こうでも幸せになってくれ。その子がいれば淋しくないだろう?」

「ト、とーる……せん、ぱ……何でそんな……い嫌、一緒に、きゃあああ!」

【天秤】が止まり【審判】が下される。湯をこぼす鍋のように上皿がぐるりと傾き、リンが空中に投げ出される。


 絶望の叫びとともにリンが奈落へと落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ