コスモスに託す来世への願い
「会える、会えない、会える、会えない....」
美津子はコスモスの花を手に小さく呟きながら一枚一枚花びらをちぎる。
美津子の足元には何枚もの花びらと筒状花と呼ばれる真ん中の部分だけが残された何本ものコスモスが散乱していた。
美津子は周りに咲き乱れるコスモスを手折っては、祈るように何度も何度も花占いを繰り返していた。
美津子の頬にはいく筋もの涙の跡が伝い、「会えない...」と呟くたびにその筋は数を増して行く。
美津子が幼い頃から想いを寄せていた近所のお兄さん、正と婚約の運びになったのは、正に「赤紙」と呼ばれる徴収令状が来る本の2日前の事だった。
緊急事態に慌ただしく結婚し、それを実感する間も無く正は出征し.....僅か1ヶ月後、戦死の知らせが届いたのだ。
想いを寄せていた憧れの正との結婚、出征、そして戦死.....
あっという間の出来事に感情がついて行かない。
美津子はフラフラと家を出て、ふと気がつくと、結婚したその日の夜に初めて夫婦として訪れた野原に来ていた。
あの時もコスモスはサワサワと風に揺れていた。
『美津子さん、僕は戦争に行く。無事に帰って来られるかはわからない。結婚して早々、すまないが、後を頼む。』
正さんが申し訳なさそうに眉を寄せて言う。
正さんのせいじゃない。
こんなことはよくあること。
わたしはずっとあなたのお帰りをお待ちしています。
言葉にはならず、胸の前で組んだ両手をきつく握りしめた。
そんな美津子の手を自分のゴツゴツした大きな手の中にそっと収め、真剣な眼差しで美津子を見つめる。
『今世がダメでも....来世また産まれてきたら一緒になろう。その時こそずっと一緒だ』
美津子は頬に伝う涙をそのままに小さく微笑んで頷いて見せた。
「来世できっと....会える、会えない、会える......いえ....会える、絶対会える.....会えますよね?約束しましたもの....ね?」
美津子は足元に散らばるコスモスの残骸の中に崩れ落ちると大声を上げて泣き叫んだ。
風に煽られた一枚の花びらが高く高く空へと舞い上がり消えて行く。
その空は美津子の心境を表すかのように血のように真っ赤な夕日が辺り一面を染めていた。