表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

長田桂陣 短編集

無人島におけるイケメンランキング

作者: 長田佳陣

「ねぇ、アヤノ」

「なに? ハルカ」

「アタシの雑誌どこに行ったかな?」

「雑誌ってイケメン特集の?」

「そうそれ。あたいらがさ、この島に流れ着いてもう1年になるじゃん?」

「そうね。最初の頃は絶望的かと思ったけれど、なんとかなってるわね」

「そいでさ、あのクソ豚いるじゃん?」

「豚先輩ね」

「ちょっと気になる事があってさ、あの雑誌見たいんだけど」

「えーっと、あ、あったわ。はい、イケメンを特集しているファッション誌」

「これこれ」



「あの豚さ、ほんとに役に立たなかったじゃん?」

「何をさせても、ブヒブヒ言って泣いてたわね」

「見ているだけでイライラしてさ、もう何度罵倒したか覚えてないわけ」

「尻を蹴り飛ばしたこともあったわね」


「最近さ、なんか罵倒してなくない?」

「そうね」

「やっと、クソ豚からただの豚に進化したのかと思ってさ」

「あなたが何を言いたいのかさっぱり分からないわ。私達がなにか見落としてるっていうの?」


『できる男の条件特集』


「あった」

「それがどうかしたの?」

「いやさぁ、なんかもうあの豚しか見てないっしょ?」

「三人しかいないものね」

「男の基準が豚になってないか心配になってさ」


『管理がスマートで仕事が早い』


「どう?」

「まぁ、言われる前に出来るようにはなったかもね」

「あの豚さ、なんか最近うまく仕事してる気がするわけ」

「少なくとも力仕事については、私たちよりは効率いいわね」

「これは、○っと」


『レディーファーストが出来る』


「これは躾の問題よね」

「アタシらに怯えているだけっしょ」


『相手を立てる事ができる』


「毎日、美人だとは言うわね」

「それは、挨拶として必ず褒めろって強制したからっしょ」


『周りの人をかばえる』


「こないださ、拠点に野犬が入ってきたじゃん?」

「あれは怖かったわ」


『できる男は土壇場や修羅場から逃げない』


「でも、あの豚が追い払ってくれたじゃん?」

「教育の成果が出たわね」


『即座に行動できる』


「躊躇なく飛びかかったわね」

「ちょっと怖いくらいで、笑ったっしょ」


『やさしい、気遣いが出来る』


「怪我は無いですか! って。お前のほうが危なかったてーの」

「意外と強かったわね」

「それなんだけど、全然負けてる感じじゃなかったじゃん?」


『この夏は細マッチョできめろ』


「豚さ、なんか細くなったというかデカくなったというか、なんか違くね?」

「そうかしら?」

「あんた、マッチョ好きだったじゃん?」

「そうね。男は頼りがいが大事だわ」

「この雑誌のマッチョはどう?」

「え? うーん、イマイチというか、ただのガリガリね」

「タイトル見てみ?」

「夏に向けて筋肉を鍛え上げろ、理想の細マッチョ……いや、こんなの豚のほうがまだマシでしょ」


『180センチ以下は人権なし』


「あら、以外ね。豚って人権ありそう」

「いやいや、一年前はアタシらとかわんななったっしょ」

「そういえば、そうかもね。いまさら伸びるとか豚は違うわ、ウケる!」


『ワイルドでシャープな魅力』


「あなた、ワイルド系好きでしょ? こんなのとか」

「え? そうなんだけど、おかしいなぁ。このモデルってワイルド?」

「都会の甘ったれ坊っちゃんに見えるわ」

「これならまだ、豚のほうが10倍はマシっしょ」


「ここまでで、一度まとめてみましょう。ブタ先輩の人物像をどうぞ」

「えーと、長身マッチョのワイルド系。仕事が早くイザというときは頼りがいがあって、そのくせアタシらには超優しい?」

「なにかおかしいわね」

「おかしいしょ?」

「まさか、あの豚が?」

「いや、ないない、超ウケるんですけど」


『イケメン、トップ10』


「こ、これと比較してみよ」

「既に嫌な予感しかしてないけれど、やるの?」

「だ、大丈夫っしょ。相手は芸能人だし」

『10位』

「どっち?」

「豚?」

「あいつの勝ちね」

「まぁ、所詮は10位だし。あいつが勝つこともあるっしょ」

『9位』

「こういうのは、ほら。好みの差もあるから」

「で、どっちなの?」

「まぁ、あいつ……かな?」

『8、7、6、5、4、3、2』

「視力落ちたかも」

「私は無人島生活のおかげで裸眼で生活できるようになったわ」

「顔面だけなら敵わないけどさイケメンって、外見だけじゃないと思うんだよね」

「まぁ、雰囲気イケメンとかいるわね」

「そりゃね、顔面だけなら芸能人と比べるのはおかしいっしょ」


『1位』

「ほら見ろ! 1位! 流石は1位、これは確定っしょ」

「そうね。流石は1位ね」

「はい、これでおーわり!」

「それで、あなたの好みはどっちなの?」

「え?」

「どっちがイケメンなの?」

「ほら、せっかく決勝まで来たわけじゃん? 身内びいき? みたいな?」

「義理ってこと?」

「そう、義理。義理チョコみたいな感じで義理投票」

「じゃ、無人島イケメンランキング一位は彼ってこと?」

「大げさっしょ、だって男がアイツしか居ない島じゃん」



「私、こんな話を聞いたことがあるの。男女のグループに銃が一丁。最初は仲間だったのに銃を持つ男が恐怖でグループを支配するの。そうしたらね、女達は我先に銃を持つ男に媚びを売って、寵愛を得たものは女王のように振る舞い、選ばれなかった女は奴隷のように扱われたそうよ」

「な、何の話だよ」

「私達にとって、権力の象徴は彼に他ならないわね。先に寵愛を受けたほうが全てを得るのよ」

「そんな、あいつがアタシ達から一人を選ぶってのか?」

「可能だって話よ」

「彼、モテたことなんて無いでしょ? 先に告白したら私達のどちらでも受けるんじゃないかしら?」

「ミスコン優勝者のアタシと、告白された回数ナンバー1のあんたを? アイツが好きに選ぶっての?」

「その地位にいるわね」

「だいだいさ、告白って何だよ、アイツのこと好きなのかよ?」

「女王か奴隷の二択なら選択の余地はないでしょ?」

「怖いこと言うなよ」

「それに、私達から言わなくても彼はもう、一人を決めているかもよ?」

「あいつが? 冗談でしょ!」

「私は、彼が好きなのは貴女だと思うわ」



「ねぇ、起きてる?」

「もう寝たわ。だから、こっそり彼のところに行ってもいいわよ」

「その話さ、なんか解決策はないのかよ?」

「感情や理性で抑えられるものではないわね」

「……」

「好きなのかよ?」

「秘密」

「……」

「……」

「いやだよぉ、そんなの、いやだ」

「私、ここを出てゆくわ」

「……」

「島の反対側にも廃村があったでしょ? あそこなら生活できると思う」

「狩りとか出来るのかよ」

「出来るわ」

「野犬の群れは?」

「秘策があるの」

「……どんな?」

「……」

「ねぇ! どんな方法だよ!」

「秘密」

「そんな秘策ないでしょ?」


「彼、責任感を持つようになったわ。私達から一人なんて選ばないわよ」

「それでもいい。ずっと今の三人で居ようよ」

「三人とも不幸なんて非効率よ」



「いないよ! 何処にもいない!」

「私たちの会話を聞かれたかもしれない」

「だからアイツが消えるってこと?」

「水路も完成して、畑も順調にいってる。野犬よけの柵だって強化されてた」

「だからアイツは自分が居ないほうが良いって思ったの?」

「狩りに出ただけかもしれない」

「探しに行こうよ」

「私たちじゃ外の土地勘がなさ過ぎる。死ににいくのと同じよ」

「秘策は!?」

「……」


「何か音がする」

「あれ! 飛行機。おーい」

「聞こえはしないわ。何か燃やしましょう」

「まって、アイツが居ないのに帰れない」

「帰れるなら、彼も出てくるはずよ。ここに居なければ問題はおきないもの」


「帰ったら、アタシたちどうなるかな?」

「簡単よ。虐げられていた男と、我儘で性格の悪い女」

「ねぇ、飛行機、気づかなかったことにしよう?」

「残念。もう、遅いみたい」

「煙が………」

「彼が救助隊に狼煙をあげたのよ」



『行方不明の高校生、男女三人発見される』

『女子二人は学校でも有名な美女』

『ハーレム王の実態に迫る!』

『若者の爛れた無人島生活』


「ネット。名前と顔写真、動画も流れてる」

「こんな面白い事、黙って見過ごすわけがないでしょ」


『美女と野獣』


「美女だってさ」

「まぁ、嘘では無いわね」

「野獣だってさ」

「大嘘ね」


『性犯罪者だ』

『少女達を救済しろ』


「一年だからね。何も無いってほうが信じられないでしょ」

「やめて、プライドが傷つくわ」

「アタシ等に伝わらないようにしてくれているけど、取材の申し込みが殺到しているらしいよ」

「会わせて貰えないしね」

「なんで私らが病院で、アイツは警察なんだよ」

「どうやったら誤解がとけるかしら?」

「……アヤノってフラレたことある?」

「ハルカは?」

「フラレようか? 一緒に」


「スマホのカメラ、これでいいかな?」

「問題ないわ」



『おい、例の無人島の奴が生配信してるらしいぞ』

『マジかよ!』

『おぉ、すげえ可愛い、クッソ美人』

『こんな娘とハーレムなんて羨ましい』

『なに、話すんだ?』

『さぁ? 被害の告発とか?』


「はーい、みなさんコンチャー。噂の無人島美少女、ハルカちゃんだよ」

「はじめまして、アヤノと申します」

「アヤノってば堅いよ!」

「今日は話題の彼に、伝えたいことがあって動画配信をしています」

「会わせて貰えないんだよねぇ」


「この動画が貴方に届くと信じています」

「まぁ、勝手に拡散されて嫌でも見るっしょ」

「それでは、さっそくこの島のイケメンランキングを発表します」

「なんじゃそりゃー、うける。島って何処?」

「ノミネートは何名ですか?」

「約1億2千万人ですがぁ、残念! 一名以外は惜しくも選考から漏れました!」

「そういうワケで、いきなり第一位からの発表です」


「先輩」

「アタシたちは」

「君のことが」


おわり

評価を頂けると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ