無人島におけるイケメンランキング
「ねぇ、アヤノ」
「なに? ハルカ」
「アタシの雑誌どこに行ったかな?」
「雑誌ってイケメン特集の?」
「そうそれ。あたいらがさ、この島に流れ着いてもう1年になるじゃん?」
「そうね。最初の頃は絶望的かと思ったけれど、なんとかなってるわね」
「そいでさ、あのクソ豚いるじゃん?」
「豚先輩ね」
「ちょっと気になる事があってさ、あの雑誌見たいんだけど」
「えーっと、あ、あったわ。はい、イケメンを特集しているファッション誌」
「これこれ」
*
「あの豚さ、ほんとに役に立たなかったじゃん?」
「何をさせても、ブヒブヒ言って泣いてたわね」
「見ているだけでイライラしてさ、もう何度罵倒したか覚えてないわけ」
「尻を蹴り飛ばしたこともあったわね」
「最近さ、なんか罵倒してなくない?」
「そうね」
「やっと、クソ豚からただの豚に進化したのかと思ってさ」
「あなたが何を言いたいのかさっぱり分からないわ。私達がなにか見落としてるっていうの?」
『できる男の条件特集』
「あった」
「それがどうかしたの?」
「いやさぁ、なんかもうあの豚しか見てないっしょ?」
「三人しかいないものね」
「男の基準が豚になってないか心配になってさ」
『管理がスマートで仕事が早い』
「どう?」
「まぁ、言われる前に出来るようにはなったかもね」
「あの豚さ、なんか最近うまく仕事してる気がするわけ」
「少なくとも力仕事については、私たちよりは効率いいわね」
「これは、○っと」
『レディーファーストが出来る』
「これは躾の問題よね」
「アタシらに怯えているだけっしょ」
『相手を立てる事ができる』
「毎日、美人だとは言うわね」
「それは、挨拶として必ず褒めろって強制したからっしょ」
『周りの人をかばえる』
「こないださ、拠点に野犬が入ってきたじゃん?」
「あれは怖かったわ」
『できる男は土壇場や修羅場から逃げない』
「でも、あの豚が追い払ってくれたじゃん?」
「教育の成果が出たわね」
『即座に行動できる』
「躊躇なく飛びかかったわね」
「ちょっと怖いくらいで、笑ったっしょ」
『やさしい、気遣いが出来る』
「怪我は無いですか! って。お前のほうが危なかったてーの」
「意外と強かったわね」
「それなんだけど、全然負けてる感じじゃなかったじゃん?」
『この夏は細マッチョできめろ』
「豚さ、なんか細くなったというかデカくなったというか、なんか違くね?」
「そうかしら?」
「あんた、マッチョ好きだったじゃん?」
「そうね。男は頼りがいが大事だわ」
「この雑誌のマッチョはどう?」
「え? うーん、イマイチというか、ただのガリガリね」
「タイトル見てみ?」
「夏に向けて筋肉を鍛え上げろ、理想の細マッチョ……いや、こんなの豚のほうがまだマシでしょ」
『180センチ以下は人権なし』
「あら、以外ね。豚って人権ありそう」
「いやいや、一年前はアタシらとかわんななったっしょ」
「そういえば、そうかもね。いまさら伸びるとか豚は違うわ、ウケる!」
『ワイルドでシャープな魅力』
「あなた、ワイルド系好きでしょ? こんなのとか」
「え? そうなんだけど、おかしいなぁ。このモデルってワイルド?」
「都会の甘ったれ坊っちゃんに見えるわ」
「これならまだ、豚のほうが10倍はマシっしょ」
「ここまでで、一度まとめてみましょう。ブタ先輩の人物像をどうぞ」
「えーと、長身マッチョのワイルド系。仕事が早くイザというときは頼りがいがあって、そのくせアタシらには超優しい?」
「なにかおかしいわね」
「おかしいしょ?」
「まさか、あの豚が?」
「いや、ないない、超ウケるんですけど」
『イケメン、トップ10』
「こ、これと比較してみよ」
「既に嫌な予感しかしてないけれど、やるの?」
「だ、大丈夫っしょ。相手は芸能人だし」
『10位』
「どっち?」
「豚?」
「あいつの勝ちね」
「まぁ、所詮は10位だし。あいつが勝つこともあるっしょ」
『9位』
「こういうのは、ほら。好みの差もあるから」
「で、どっちなの?」
「まぁ、あいつ……かな?」
『8、7、6、5、4、3、2』
「視力落ちたかも」
「私は無人島生活のおかげで裸眼で生活できるようになったわ」
「顔面だけなら敵わないけどさイケメンって、外見だけじゃないと思うんだよね」
「まぁ、雰囲気イケメンとかいるわね」
「そりゃね、顔面だけなら芸能人と比べるのはおかしいっしょ」
『1位』
「ほら見ろ! 1位! 流石は1位、これは確定っしょ」
「そうね。流石は1位ね」
「はい、これでおーわり!」
「それで、あなたの好みはどっちなの?」
「え?」
「どっちがイケメンなの?」
「ほら、せっかく決勝まで来たわけじゃん? 身内びいき? みたいな?」
「義理ってこと?」
「そう、義理。義理チョコみたいな感じで義理投票」
「じゃ、無人島イケメンランキング一位は彼ってこと?」
「大げさっしょ、だって男がアイツしか居ない島じゃん」
*
「私、こんな話を聞いたことがあるの。男女のグループに銃が一丁。最初は仲間だったのに銃を持つ男が恐怖でグループを支配するの。そうしたらね、女達は我先に銃を持つ男に媚びを売って、寵愛を得たものは女王のように振る舞い、選ばれなかった女は奴隷のように扱われたそうよ」
「な、何の話だよ」
「私達にとって、権力の象徴は彼に他ならないわね。先に寵愛を受けたほうが全てを得るのよ」
「そんな、あいつがアタシ達から一人を選ぶってのか?」
「可能だって話よ」
「彼、モテたことなんて無いでしょ? 先に告白したら私達のどちらでも受けるんじゃないかしら?」
「ミスコン優勝者のアタシと、告白された回数ナンバー1のあんたを? アイツが好きに選ぶっての?」
「その地位にいるわね」
「だいだいさ、告白って何だよ、アイツのこと好きなのかよ?」
「女王か奴隷の二択なら選択の余地はないでしょ?」
「怖いこと言うなよ」
「それに、私達から言わなくても彼はもう、一人を決めているかもよ?」
「あいつが? 冗談でしょ!」
「私は、彼が好きなのは貴女だと思うわ」
*
「ねぇ、起きてる?」
「もう寝たわ。だから、こっそり彼のところに行ってもいいわよ」
「その話さ、なんか解決策はないのかよ?」
「感情や理性で抑えられるものではないわね」
「……」
「好きなのかよ?」
「秘密」
「……」
「……」
「いやだよぉ、そんなの、いやだ」
「私、ここを出てゆくわ」
「……」
「島の反対側にも廃村があったでしょ? あそこなら生活できると思う」
「狩りとか出来るのかよ」
「出来るわ」
「野犬の群れは?」
「秘策があるの」
「……どんな?」
「……」
「ねぇ! どんな方法だよ!」
「秘密」
「そんな秘策ないでしょ?」
「彼、責任感を持つようになったわ。私達から一人なんて選ばないわよ」
「それでもいい。ずっと今の三人で居ようよ」
「三人とも不幸なんて非効率よ」
*
「いないよ! 何処にもいない!」
「私たちの会話を聞かれたかもしれない」
「だからアイツが消えるってこと?」
「水路も完成して、畑も順調にいってる。野犬よけの柵だって強化されてた」
「だからアイツは自分が居ないほうが良いって思ったの?」
「狩りに出ただけかもしれない」
「探しに行こうよ」
「私たちじゃ外の土地勘がなさ過ぎる。死ににいくのと同じよ」
「秘策は!?」
「……」
「何か音がする」
「あれ! 飛行機。おーい」
「聞こえはしないわ。何か燃やしましょう」
「まって、アイツが居ないのに帰れない」
「帰れるなら、彼も出てくるはずよ。ここに居なければ問題はおきないもの」
「帰ったら、アタシたちどうなるかな?」
「簡単よ。虐げられていた男と、我儘で性格の悪い女」
「ねぇ、飛行機、気づかなかったことにしよう?」
「残念。もう、遅いみたい」
「煙が………」
「彼が救助隊に狼煙をあげたのよ」
*
『行方不明の高校生、男女三人発見される』
『女子二人は学校でも有名な美女』
『ハーレム王の実態に迫る!』
『若者の爛れた無人島生活』
「ネット。名前と顔写真、動画も流れてる」
「こんな面白い事、黙って見過ごすわけがないでしょ」
『美女と野獣』
「美女だってさ」
「まぁ、嘘では無いわね」
「野獣だってさ」
「大嘘ね」
『性犯罪者だ』
『少女達を救済しろ』
「一年だからね。何も無いってほうが信じられないでしょ」
「やめて、プライドが傷つくわ」
「アタシ等に伝わらないようにしてくれているけど、取材の申し込みが殺到しているらしいよ」
「会わせて貰えないしね」
「なんで私らが病院で、アイツは警察なんだよ」
「どうやったら誤解がとけるかしら?」
「……アヤノってフラレたことある?」
「ハルカは?」
「フラレようか? 一緒に」
「スマホのカメラ、これでいいかな?」
「問題ないわ」
*
『おい、例の無人島の奴が生配信してるらしいぞ』
『マジかよ!』
『おぉ、すげえ可愛い、クッソ美人』
『こんな娘とハーレムなんて羨ましい』
『なに、話すんだ?』
『さぁ? 被害の告発とか?』
「はーい、みなさんコンチャー。噂の無人島美少女、ハルカちゃんだよ」
「はじめまして、アヤノと申します」
「アヤノってば堅いよ!」
「今日は話題の彼に、伝えたいことがあって動画配信をしています」
「会わせて貰えないんだよねぇ」
「この動画が貴方に届くと信じています」
「まぁ、勝手に拡散されて嫌でも見るっしょ」
「それでは、さっそくこの島のイケメンランキングを発表します」
「なんじゃそりゃー、うける。島って何処?」
「ノミネートは何名ですか?」
「約1億2千万人ですがぁ、残念! 一名以外は惜しくも選考から漏れました!」
「そういうワケで、いきなり第一位からの発表です」
「先輩」
「アタシたちは」
「君のことが」
おわり
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