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バス

作者: xyz

不思議なバースッ!でっす

 気が付いた時には、もう乗っていた。

 いつから乗っていたのか、どう乗り込んだものかその記憶は定かではないが。

 けれど確かに、私はこのバスに乗っている。


 「バスに乗っている」とはいっても、これが本当にバスなのかも定かではない。

 ただ何となく、バスであると私がそう認識しているに過ぎない。

 

 だからもしかしたら。

 これは乗用車なのかもしれないし、線路を走る電車だったり、空を飛ぶ飛行機であるのかもしれない。

 山を上ったり下ったりするマウンテンバイクや、或いは川を行き来する小船なのかもしれない。

 

 結局何かよく分からない乗り物(これ)を、私は一時的に便宜上バスと呼んでいた。

 


 このバスは不思議だ。

 知っているようで知らない。

 知らないようで知っている乗客が、月の満ち欠けによって乗り降りし増減を繰り返している。


 バスがどこをどう走っているのか皆目検討も付かないが、どこで拾い上げてきたのか、一度私の初恋だった者が私の座席の前、或いは後ろに素知らぬ顔で座っていた事もあった。


 ()くも不思議なバスである。

 何が起こっても不思議ではないのだ。


 

 乗客の観察を一通り終えると、飽いた私は退屈凌ぎに窓の外を眺める。

 薄ぼんやりとした雲がかかった夜空の中を、丸く実りかけた月がもんやりと発光しながら泳いでいるところだった。

 その月を縦断するように、二羽の(からす)が夜にも関わらず駆け抜けていった。

 (からす)はそのまま雲の中へと突っ込み、夜空の中へと溶けて私からは見えなくなった。

 

 私は窓からその光景をただただ呆然と見ていた。

 見とれていた、と言ってもいいのかもしれない。

 少なからず、私は(からす)のあの姿に感銘を覚えたのは確かなのだから。


 そしてそれは本来の私の姿でもある。


 「次は乙女座満月、乙女座満月」

 唐突にバスのアナウンスが車内に響いた。

 実にバスらしい事を、このバスもするものである。


 けれどこのバスは不思議なバスで、何が起こっても不思議ではないのだ。

 そしてそれは多分、私自身が起こしている。


 もうすぐ月が満ちて、望月となる。

 その知らせをするのは、きっとはなむけだ。

 

 今の私から、次の私へのはなむけだ。

メタモルフォーゼ!

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