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第八話

 明が次に目を覚ました時、二人の少女が布団に突っ伏し泣いていた。


「ごめんねぇー明!梅たちが焚きつけりしたからぁー!」

「すみません、こんなことになるなんて、思わなかったんです……っ!」


 上体を起こすと、一歩離れた席で、宵が意味ありげに笑っている。

 ここは客間だろうか。綺麗に整頓された部屋の真ん中に、布団を敷かれて寝かされていたようだ。

 布団は、掛布団も敷布団も、今までに触れたこともない上等なものだ。

 きょろきょろと見まわして状況を確認してから、自分の体のほうにようやく気がいった。


「傷が、治ってる……」


 体を起こしても、捻っても、痛くない。

 着物も綺麗なものになっており、捲って見れば腹に開いていた傷が綺麗に塞がっていた。薄く、引きつれたような痕が残ってはいるが、ここに穴がいていたとは思えない。


「吾が花嫁が血まみれでは困るからな。着替えさせたのはウメとモモだ。礼を言っておけ」

「そうか。すまない、二人とも。ありがとう」


 顔をあげた二人は、随分と人間くさい、涙と鼻水でぼろぼろの顔だった。

 すぐに明は身を正し、布団の上で頭を出来るだけ低くする。


「明様、もう二度と、死にたいなどとおっしゃらないでくださいね……」

「わかった」

「もうっ!明はまたわかったわかったって!本当に理解してるのぉー!?」

「大丈夫、もう、ちゃんとわかったから」


 二人の、同じ年頃の娘の泣き顔を見ても、あれほど胸が締め付けられることはなかった。

 この感情の名はわからないけれど、きっと、小梅や桃緒を大事にしたいと思う気持ちとは、違うことだけはわかる。


「そうだ、成欠(ナリカケ)は、どうなったんだ?」

「安心しろ。人里へは下ろしていない。お前が泣いて頼むから、今、鬼灯達が社の中で落ち着かせているよ」

「そうか。ありがとう」


 村では人を傷つけた馬や牛は殺されてしまうことが多いから、心配だったのだ。このあたりの考えが、人間は勝手だと神々に罵られるものなのだろう。

 明も思う。人間は勝手だと。

 あんなに死にたがっていたのに、いざ死に瀕すれば急に怖くなって生を懇願した。

 山神である宵からすれば、ただただ呆れてしまう存在だろう。


 宵は泣きやんだ少女二人を部屋から丁寧に出すと、明に向き合った。

 その心を読んだかのように、微笑む。

 あの時と同じ、月光のような包み込む笑みだ。


「それでいいんだ。死にたい人間なんて、いるものか。お前の幼馴染は高潔な魂を持っていたが……何も死ぬことはなかった。吾のもとへ来ていれば、アケルと二人とも、(めと)ってやったのに」


 そういった未来もあったのか、と、明は胸の奥が痛くなるのを感じた。

 自分たちは二人とも、生贄になることしか頭になかった。

 誰も望んでいなかったのに。他の方法を探しもしないで、勝手に先の可能性を狭めてしまった。

 あの子のためにできたのは、一緒に身を投げることでも、身代わりになることでもなかったのだ。


「俺、あの子の分も、アンタに尽くそうと思う」

「ほう」

「救ってもらった命だ。もう勝手に死ぬことはしない」


 少女の白い手へ、細い指先へ、跪く。


「宵様、あなたの為に、この身を捧げさせてください」


 宵の肯定の声に、明は初めて笑顔を見せた。

 姫神が月光のようであるのなら、少年は夜明けに瞬く星のような笑みだった。


「よし、傷も治ったし、今日は休め。祝言はし直しだ。良き日取りを探させておこう」


 宵はすぐさま立ち上がり、部屋の外へ声を掛ける。控えていたらしい雛罌粟(ひなげし)が、尾を揺らしながら入って来た。手には水差しを持っている。どうやら、不本意ながら明を看病してくれるらしい。

 どういった神通力を使ったのか体はもうなんともないので、世話を辞退しようと問答していると、宵が「吾が伴侶になるのだから有り難くもらっておけ」と笑った。


「どうして、そこまで俺を欲してくれるんだ?俺なんてなんの特技もない……心根だって汚い人間だ」

「そんなことはないさ、それに……」


 少女は考え込むそぶりをして、くるりと窓を向いたと思うと、頬を染めて振り返った。


「実はな、角隠しを取ったお前の顔に、ひとめぼれしてしまったのだ」


 桜色になった頬に、上目に見上げる瞳には、金にほんのりと淡い色が混じる。

 恋をはじめて告げる乙女のようだった。


「姫様は面食いですからのぉ」


 老女のその声にやっと意味が頭の中に入って来て、明も顔を同じ色に染めた。

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