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9,当然と思ってたことが間違ってた時ほど、恥ずかしいことはない





 ————コンコンコン。

 

「失礼します。一年A組の木下です」

「あ、来てくれた。どうぞ、そこのソファに座って」

 

 僕を待ち構えていたのはあざとい系の女子………ではなく、外国人のような顔立ちをした女性————僕のクラスのコミュニュケーション英語を担当している先生で、()()でもある人だった。

 この春、この学校に来た新人の教師だ。もう、密かに生徒から告白されているとか、あの体育教師とできてるだとか、そういう噂が周囲から聞こえる。

 

 先生の指示に従って、向かいに座る。

 

 ないよな? まさか、また告白されるなんてことは……ないよな? よりにもよって先生に……

 

「昼ご飯は食べた?」

「食べてないです」

「そう……なら、早く終わらせたほうが良いよね————君、部活に入る気はない?」

「………部活?」

 

 ……恥ずかしいッ!

 穴があったら入りたい。なんて自意識過剰になってたんだ。自惚れも甚だしい。


 ただの進路指導だった。

 

「………入学式での話は覚えてるかな?」

「…すみません」

 

 寝てました。ぐっすりと、寝落ちじゃなくて自発的に寝てました。

 だって話が長いんですもん。

 

「……なら、ここの校風は?」

「…………」


 校風……も知らないな。そこまで興味無いことだし。

 入学前の学校紹介のパンフレットにそれとなく書いてた気もするけど覚えてない。

 

「そ、そう? コホン……ここは部活動を推進してるの」

「はぁ」

「この学校の八割ぐらいの子が部活に入ってるんだよ? 君も部活に入ってみない?」

「えっいや、部活は別に……」

 

 そんな急に、皆やってるから君もやるでしょ、みたいな感じで言われても。

 

「ならない? ……進路を決める時にも役立つよ?」

「進路って……」

 

 体育会系には入りたくないからスポーツ推薦とかは無しにして……文化系でそういうのは難しいと思うんですが? 一定の才能とかが必要になってくるだろ。

 

「これでも弱いか……そうだ、英語の内申点あげちゃうよ? 今ならなんと五十点分! これでテストで赤点取っても大丈夫!」

「先生……そんなこと言って大丈夫なんですか?」

「うっ、ごめん、忘れて。……んー」

 

 ここに先生以外居なくて良かったと思う。もし居たら、僕が出た後にこの人がこっ酷く怒られてただろうから。

 

 それにしても、結構よく悩んでますけど、何が出されたって入る気はありませんからね。紅葉との約束だってあるし、集団に入るなんてあんまりしたくない。

 

「パソコンとか興味ない?」

「……まぁ、ありますよ」

 

 パソコンに詳しいわけじゃないけど……最近、欲しくなることがある。

 

 スマホでPCゲームの実況動画を見て、欲しいなぁ、と。そのあとで、お金ない、貯めるにしてもお小遣い少ない、で諦めるの繰り返しだ。

 

 その少ないお小遣いもラノベを買うために使っているから、どうしても貯める気にはなれない。そもそも貯めたって、自由に使えるのは一ヶ月五千円だから……最高で十八万。

 この値段で推奨スペックのPCを買えるが、ゲーミングPCを買うなら、もっと高いのを買いたい。

 

 別に禁止されてるわけじゃないから、バイトもできるんだけど……それは緊張して手を出せない。

 

 あー、でも、これだとパソコンじゃなくてゲームに興味があることに……

 

「じゃあっ! コンピュータ研究部に興味はっ!」

「うーん……特にないです」

 

 学校の部活なんだから、ゲームなんてできないだろう。

 ……いや、でも、ソフトだけ買って、隠れて学校のパソコンで遊べる……必要な費用が減る……いやいや。

 見つかったら没収間違い無しだ。そんな危険な真似できない。そもそも、学校のパソコンがそこまで高性能なわけがない。

 

「げ、ゲームもできるよ?」

「えっ!?」

「っ! た、棚には古いのから最新のゲームまで揃えてる! なんならパソコン以外の有名な据え置きゲーム機も完備! ルーターも高いのを使ってるから遅延もそんなにないよ! 部室内だったらどれだけのゲームしてても良いし……どう?」

「…………」

 

 少し良いかもって思った瞬間に畳みかけてきた。

 どうしよう。凄く良い場所……部活だ。

 

 秤が入部に傾いたところで、ある懸念が脳裏に浮かぶ。

 

 ……紅葉との約束が……許してくれるかどうか。

 

「……仮入部でもいいですか?」

「もちろんだよ! あの子は、じゃなかった。部室は昼でも放課後でも空いてると思うから、行ってみてね」

 

 あの子? 部員の人?

 昼でも放課後でもって……そんなに盛んな部活なのか?

 

「ふぅ、話は終わりだよ。来てくれてありがとうね…あ、因みに顧問は私だから」

「そうなんですか……多分、明日行くと思うんでよろしくお願いします。では失礼します」

 

 部屋を出て、ホッとする。

 

「先輩居なくて良かったぁ」

 

 昨日のことを考えて、今日も待ち構えていると思ってた。どうやら杞憂だったみたいだ。


 あー、恥ずかしい恥ずかしい。

 

 ……あっ、あのハートマークのこと聞くの忘れてた。



英語教師「(木下君を呼び出すには……これでいいかしら。私が高校生の頃は、クラスの男子はこんなラブレターで浮足立っていたし…こう書けば男子は来るでしょ!)」


生活指導教員「あ、あの、先生? それは」


英語教師「あ、な、何でもないですよ。あははは」


生活指導教員「……そのラブレター、一体だ、誰に出すおつもりなのでしょうか」


生活指導「————ッ!?」


英語教師「(見られちゃったか…生徒を呼び出すための餌なんて言えないわね)……内緒です。でもー、実は、誰に出そうか迷っているんですよー」


生活指導「————ッ!?」

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