8,二度あることは三度ある
————ガチャ。
おい。どうしてだ?
突然な不幸続きに心の中でつい愚痴る。
二度あることは三度ある、ってことわざを作った人をぶん殴りたい。…それでも現状は変わりないだろうけど、お門違いでもムカついてしまう。
「おっはよーっ、木下くんっ」
「ッ!? お、おはよう、ぬ……抽冬さん?」
「うん! 抽冬さん!」
おかしい、どういうことだ。
僕の目の前には抽冬さんは居ない。
居るのはいかにも清楚系な、眼鏡をかけた女の子。言っちゃ悪いけど、抽冬さんの対極に位置する人。黒髪をおさげにしていて、いかにもアレな女子。
加えて言うなら図書委員をしてそうだ。
抽冬さんの声は聞こえるのに姿は見えない。
まさか?
驚きすぎて、失礼ながらも目の前の人に指を差して聞いてしまう。
「抽冬さん?」
「ふふっ、なんで疑問形なの?」
「い、いやぁ、急に姿が変わったから、さ」
「変わったんじゃないの、元通りになっただけだよ」
「へ、へぇ」
もしかして、高校デビューでアレになっただけで、中学ないし小学校ではこういう感じだったのか。
いつも巻いていた茶髪がストレートな黒髪に、メイクも……多分、最小限になっていた。スカートも短くなく、なんか、ギャルっぽさ?が抜けて、美しい?というか、綺麗だ。
今なら生活指導の先生も、模範生徒だ、って言うんじゃなかろうか。もはや、声を聞かなければ、ほとんどの人が抽冬さんと気付けない。
……いや、じっくり見れば、目元は変わっていないから、そこで分かる人には分かるだろう。
そこまでの劇的な変化。先生からの株は急上昇待ったなし。
……おお、まさかそれを狙いで?
「……は、恥ずかしいな」
「あ、ごめん」
ついジッと見てしまっていた。
「どう、かな?」
「ど、どうって?」
「もうっ、似合ってるかどうか聞いてるの!」
そうか。突然色々変えたら周囲からの評価も気になりはするか。僕なんかの意見で良いのかと思うが、率直な感想だけ言っておこう。
「似合ってると思うよ」
「そう? 良かった!」
美的センスのないと自負する僕の回答に納得して、上履きに履き替えて階段へ向かっていった。
うん、今までは物っ凄く話し辛かった。それが今や、少し話しても良いかな、という具合だ。
もちろん、自分からは話しかけたりしない。
「——わぁっ!? ととっ…ふぅー、危なかったぁ」
玄関と廊下の間にある小さな段差で躓いたようだ。転けてはいない。
……姿形が変わったとて、抽冬さんは変わらないようだ。今の姿も、最初は驚かれるだろうが徐々に受け入れられるに違いない。何か、特殊なオーラでも出てるんだろう。
抽冬さん(新)は置いといて……そろそろ降りかかった不幸に目を向けようか。
「………なんで? ……なんで三日連続?」
見間違いであって欲しい、そう願いながらロッカーを開ける。
願いは叶うこともなく、上履きを隠すように手紙が置かれていた。紙質はザラ半紙……よく学校で配られるプリントだ。あの柔らかいザラザラしたやつ。
「またか」
「ッ!? え、えーっと……依木君、おはよう」
「おう、おはよ。また姉さんからか」
「あ、あはは、そうかな?」
多分違うと思う。今までのことを考えたらそうだ。
朝は、手紙発見からの抽冬さんと依木君との挨拶。
昼は、手紙の呼び出し。
ずっとこのループだ。
だから分かる。この送り元は知らない人だ。
……まだ二回と半分だけど、絶対違う。これは、先輩でも、抽冬さんでもない。
また…誰か、会ったことのない人が。
もしかしたら、先輩である可能性もあるが、名も知らぬ依木君のお姉さんかもしれない。
「俺も見ていいか?」
「え……ま、良いよ」
こんな早い時間には僕たち以外いないし、お姉さんだったら依木君にも関わりがあるかもしれない。
お姉さんの詳細について聞くこともできる。
シール閉じされていない紙を広げる。
[一年A組木下君へ
昼休みに生活指導室に来てね♡]
「姉さんじゃないな」
「そ、そうみたいだね」
依木君は即答だった。
それだけ姉のことを理解しているんだろう。先輩も……ハートマーク付けるような人じゃないよな。抽冬さんは……もう手紙は出してこないと思うし、さっき会ったから違うだろう。
また、当然の如く差出人の名前が書いていない。そもそも、ハートマークを書く理由ってあるのか? あざとさ100%だ。
しかも、生活指導室ってなぁ……いよいよ自分が何かやらかしてしまったのかと疑ってしまう。
諦めない優等生「やったぁ! 木下くんが褒めてくれたっ! ……でも、思ってた通りこれじゃまだ足りないみたい。昼休みには次の手を打たないと……」




