19,五回目の正直
「…………」
何度見たであろうかこの光景。
ああ、五度目だ。もう驚かない。二度あることは三度ある、とはよく言ったものだが、四度あることも五度あるらしい。はぁ……今時、こうやって手紙を出すことは珍しいはずなのに、どうして五通も……
裏面を見ると、昨日と同じ果たし状の文字が見えた。
筆で書かれたみたいだ。凄い達筆。
[本日昼休み
出迎えに参る
一年C組 鈴原快斗]
………出迎えに参る?
参るって…古風な。
「よっ、秀秋」
「あ、おはよう、依木君……そうだ、鈴原快斗って人知ってる? C組の」
「鈴原……C組のやつなら確か…剣道部、だったか。なんでも、二年生を押し除けて、冬の団体戦メンバーに選ばれたらしいぞ」
「へ、へぇ」
あのマッチョな先輩に引き続き剣道部かぁ……どうしてこんな羽目に。
「それがどうかしたのか?」
「……これ、その人から果たし状が送られてきてさ……」
「マジか。…先生に言ったらどうだ?」
「大丈夫大丈夫、逃げるから。大事になりたくないしね」
団体戦が何か分からなかったが、それでも強いことは分かった。
………喧嘩なんてやだなぁ。
「………お前、ほんと変わんねーのな…」
「今日は席替えをします! くじを作ってきたので、廊下の窓側から順に引きに来てください!」
……今度も窓側でありますように。今まで計三回、この列を保ってきたんだ。次だって……南無三。
唐突な席替えに、ただ祈るばかりだった。
あー、窓側。確かに窓側です、はい。廊下側の窓だけどね。それも一番後ろ、出入り口近くの席から一つ横にいった所。
……妙に嫌な席だ。人の出入りが激しくて避けなければいけない。
「木下君、よろしくお願いします」
「う、うん、よろしく?」
突然、左隣の人に挨拶された。
隣の人は……うーん、黒髪で顔が隠れてよく分からない。ものっすごく長い黒髪としか特徴が……
席替えをするとこういうことが起こるのだろうか。抽冬さん以外のクラスメイトに話しかけられたのは久しぶりだ。
「本の貸し出し期限はもう過ぎてますよ? 早く手続きに来てくださいね」
「…あっ、うん。すっかり忘れてたよ。ごめん」
先週の月曜日に借りたんだった。
借りたのは普通のと比べると分厚い文庫本だ。買うには少し高くて、何回か借り続けてやっと半分まで読んだ。
最近は読む暇が無くて放ってしまっていた。それに、この一週間が波瀾万丈で、本のことなんか綺麗さっぱり忘れてた。
「今日は持ってきてないから、明日でも大丈夫かな?」
「はいっ、大丈夫ですよ。……明日はずっと待ってますね」
話は終わって前を向く。
「…………」
……そういえば、隣の人って誰だろう?
どうして本を借りたことを知ってるんだ? 今まで話したことあったっけ?
会話をした後にそんな事は聞けなかった。もし知り合いだったら気まずい。
「うぁーっ! ふぅー」
やっと昼休み。欠伸が止まらない。
さてさて、お迎えが来るらしいし、弁当持って早く部室に避難を——
「——木下秀秋はどこだッ!」
「うっ」
来た。それも右隣に。
チャイムが鳴って五分も経っていないのに早すぎる。
僕が誰か知らないってことは、まだ気付かれていない。このまま無関係を装って教室の外に。
「あ、すみません。外に出たいんで、ちょっと退いてもらって」
「そいつです」
「…………」
担任「(ふっふっふ、木下君が最後に引くようにできたわ。五番と十一番だけ後でささっと入れましょ。そうすれば絶対にあの二人が隣同士に……不正? いいえ、これは偶然にして必然なのよ。そうよ、私がこの二枚の紙を忘れていただけだわ)」
生徒1「先生、何笑ってるんですか?」
担任「いやー、私も席替えは楽しみにしてたって思い出してね。好きなあの子の隣になれないかって悶々としていたわ(隣にはなれたのだけど、結局、その子には彼女が居て……はぁ、思い出したくないわね)」
生徒2「…せ、先生は、彼氏さんがいらっしゃるんでしょうか!」
生徒1「いや、いるだろ流石に」
担任「いないわよ」
生徒1&2「えぇッ!?」
担任「(あぁっ、あのオタクだった過去。あのせいで私はこのまま生き遅れて……お義兄ちゃんに誰か紹介してもらえないかしら。…ソニアの写真で釣れるかもしれないわ。……でも、今は、ソニアが私と同じ道に進まないように頑張らないと。お義兄ちゃんに怒られたとしても、あの二人をくっつけてやろうじゃない)」




