17,楽しみは束の間
『では、今からクイズを始めます! 問題と選択肢が画面に映し出されるので、正解の色にあったエリアに移動をお願いします! 問題は全部で10問あり、間違えた方は観客席に移動をお願いします!』
「さて、どんなクイズが出るか……」
『最初のクイズはーっ! これっ!』
【ダンテ・アリギエーリが著者である神曲においての問題です。地獄の門に記された文章は次の内のどちら?】
『………は?』
『さあ皆さん始まりですよーっ! 制限時間は二分、頑張ってくださいねーっ!』
は? なに? ダンテ? 神曲?
ダンテという人はルネサンスかなんかの芸術家だったことは覚えているが……神曲や地獄の門なんて知らない。
「簡単ね」
え、月美さん? これが簡単なんですか?
「こっち、だよ」
頭が混乱していると、ソニアさんに袖を引っぱられる。
そのまま身を任せて着いた所の回答を見る。
こっちは……【この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ】?
「……なんか、聞いたことあるような……」
「ゲームの、物語。最初の、プロローグに読まれる」
「………あぁっ!」
「ダンジョンの入り口、とか」
「普通に、ゲーム以外でもそれなりに有名なはずよ」
『だいせいかーいっ!』
同じ考え方をしたのか、元々知ってたのか、釣られたのか、それはともかく。
一回目で退場する人はいなかった。
『お次はこちらっ!』
【第八園悪意者の地獄において、次の内、仲間外れは何?】
【僧侶・盗賊・指揮官・魔術師】
「仲間外れ? …罪を贖う第八園で仲間外れなんて……」
罪を贖う?
まぁ、とりあえず月美さんも分からないみたいだ。
「第八園悪意者の地獄……悪意者の地獄は地下81階から90階のフィールド名」
……名前覚えてるんだ。
「…地下八階というと……確かジョブごとに強制デバフをうけるんだったっけ?」
「そう。僧侶は炎上、盗賊は…盗賊も炎上……指揮官、んー、マイナーな職。分かんない」
「魔術師は暗闇?」
「ん。魔術師メタ階層だから……あ、魔術師」
「魔術師なの?」
デバフ効果だけで決めて良いのかと思うけど、それ以外に判断材料が無い。
最初に、第八園悪意者の地獄において、って書いてあるんだから地下八階であることは関係あるはずだ。
『おやぁ? 別れましたね。正解はぁっ……魔術師でーっす!』
「……やっぱりゲームはよく分からないわ」
——それからというもの、この二人のおかげで正解続きだった。
『さて、残すところあと一問っ! 残ったのは……こちらの十六名です!』
壇上に登り、スポットライトを浴びる。
観客席や待機場には大勢の人がいて、さっきよりも注目される。
『なッ!?』
『開発者代表のリアムさん、どうかされましたか?』
『…いえ、細かい問題を何問か出していたので、十六名も残るとは思っていませんでした。嬉しい限りです』
『ふむふむ……つまりはこの場に立っている人たちはこのゲームを最高までやりこんでいる人たち! その方たちなら次の問題も解けるでしょう! では最後の問題です! レベル150に到達したプレイヤーに与えられる称号は次の内どれでしょう!』
一応補足しておくと、普通のガチ勢は昨日の昼にやっと到達していた。
そこから考えると、これに答えられるのはこの中でどれくらいの人だろう、そもそもいるのかって話になる。
でも、この、隣にいる引きこもり兼廃ゲーマーなら答えてくれる。
「ソニアさん、言ってやって」
「…………」
「ソニアさん?」
「だ、ダメよこの子、立ったまま気を失ってるわ!」
「……えぇー」
地元の駅に帰って来た。
結局、最後の問題は四分の一を外して正解できなかったんだ。
月美さんは分からないと言って、フードを深く被ったまんまだった。ソニアさんは今も、月美さんの背中ですやすや眠っている。
「私がソニアを送っていくから、木下君は気を付けて帰りなさいよ」
「はい、ソニアさんをよろしくお願いします」
「秀秋っ!」
「は、はい?」
まだ、駅からそう遠く離れていない時に名前が呼ばれた。いつもとは違って、はっきりと聞こえる声だった。
別れてすぐに起きたようだ。
「また今度も……その、遊びに、行ってくれる? 一緒に」
「…誘ってくれたらいつでも遊びに行くよ」
「うん、うんっ…ありがとっ!」
「え? …まぁ、そういうことだから、気軽に声をかけてくれ」
何にお礼を言われたか分からなかった。ただ普通に、受け答えしただけなのに。
「はぁー……やっぱり家って落ち着くなぁー」
妹が帰ってくるまで暇で、現在リビングのテレビ画面でゲーム中。
先輩とソニアさんに負けてられない。しっかり特訓しておかないと。
————ガチャ。
「お兄ちゃん、ただいまー…って寝てるかな」
「おかえり。起きてるよ」
「あれ? 珍しい…あっゲームして…クンクン……ん?」
「どうしたの?」
「……何でもないよ。着替えてくる」
ご飯はまだ作らないで大丈夫かな。
「お兄ちゃん、どこ行ってたの?」
「んー? …部活の人、とイベントに」
ソファに座ってネット対戦をしていたら妹からの質問が飛んでくる。
「……場所は?」
「えーっと……あの、たまにイベントやってる競技場。電車で数分のとこの、ゲームのイベント、行こってっ」
「ふーん……」
よしっ、パターンに入った。
これで勝てるっ!
「今日ずっと?」
「そうだね。朝から行ってっ、遊んでっ、たから」
「へぇ……嘘つかないんだ……でも、許せないよ」
ふぅ。勝った。中々の強敵だった。
ん? 再戦申し込み?
どうしよ——
「——私、勝手に女の子を家に入れないでって言ったよね?」
………断ろう。妹との話に集中しないといけない。
――どうして家に女子を入れてはダメか。
それは単に、掃除してない家を見せられないから、らしい。妹からそう言われた。
でも家はいつ見ても綺麗だ。今は僕が上から持ち出したゲーム類で散乱してるけど、それを除けば綺麗なはず。
そう考えると、紅葉は潔癖症なのかと今更ながらに思う。
……なんで先輩を家に入れたこと知ってるんだろう?
鎌をかけているだけか?
「ん、んーっと、何のこと? 僕は誰も入れてないよ」
「お兄ちゃんの部屋に…ううん、ここにも知らない女の人の匂いがするの」
「しょ、消臭剤を使ったからじゃないかな? あはは、最近のって案外匂いが残るもんなんだねー」
「お兄ちゃん、自分で柑橘系の持ってるんだ。意外だね」
「あー、うん、そうそう。前にスーパーで」
「それで、今匂ってるのはお花の匂いだと思うんだけど? バラかなぁ」
「…………」
バラなんて分かるか! そもそも匂いなんて残ってないだろ! ……くそぅ、先輩のせいだ。
「そっかぁ、目を逸らすんだ。当たりみたいだね。……それでさぁ、もう一つ聞きたいことがあるの。お兄ちゃんの体、良い匂いだね?」
「お、お風呂に——」
「——しかも違う匂いだから、会ってる人は違うよね? クンクン、甘ったるい蜜柑の匂いがするよ? こんなのお風呂に置いてないよね」
「…………」
ダメだ、話を聞いてくれない。
「なんで答えてくれないの?」
「——も、紅葉ちゃーん、そんなに怒っちゃダメだよー。若いうちから気を付けないと眉間に皺が」
「梓、静かにして」
「ひゃ、ひゃい」
「梓ちゃん、来てたんだ」
廊下からひょっこりと顔が出てきた。
紅葉と同じバレー部に入っている梓ちゃんだ。たまに遊びに来るから少しは仲が良いと思っている。
「っ! まだ話は終わってないよッ!」
「…………」
「お兄さんだって事情があったんだと思うよ?」
「女の子と抱き合う事情があるの?」
「う、うーん…転けかけたのを抱きとめたりとか、あるでしょ?」
「そ、そうなんだ。実は電車で人混みに飲まれて…それで……」
……そういえば、なんで、ソニアさんのことで怒っているんだ?
家のことで怒っているなら、このことは何も関係ない。
「ふーん」
まだちょっと怒ってるっぽいし、何も言わないでおこう。
馬鹿野郎「……何か忘れていることがあるような……約束…は違う。ゲームは…ウィークリー分は諦めてるから……他に何が…あッ!? 英作何もやってないッ! 一応明後日まで時間はあるけど……今夜は徹夜コースかぁ……あ、ゲームしながらしよう」




