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13,侵食される休日

キューピット「どの服で行こうかなー…好みを考えたら制服? よーしっ、今日はもう一段階進ませるぞーっ、おーっ!」


強面「姉さん、朝っぱらからうるさいよ。休日なんだから静かに————何で制服着てんの? 今日なんかあった?」


キューピット「……春樹、一ついい?」


強面「え、嫌——」


キューピット「——ありがと春樹ー、木下君の電話番号教えて」


強面「あいつ、番号変わってて…姉さんはまだ持ってないんだな」


キューピット「なんだ、使えない弟ね」


強面「……理不尽だ……」


キューピット「それじゃあ私はこれから木下君の家に行ってくるから」


強面「ちょっ、母さんに頼まれた卵はッ!? ……くそっ、また逃げやがった」





「んぁぁ……ふぅー」


 まだ眠い。

 結局、三時頃までやってしまった。途中で寝落ちしたせいで正確な時間までは分からない。

 今が何時か確認しようとしたが、スマホの電源は切れていて、近くの充電コードを刺して、またベッドに寝転ぶ。

 充電終わるまで暇だからもう一回寝ようかな……


「お兄ちゃーん、行ってきまーす!」

「………ん?」


 紅葉が家から出て行った。


 あれ? 今日、何かあったっけ?

 土曜日……


 リビングの壁に吊るされたカレンダーを思い出す。


 今日は……ああ、合宿と試合か。

 起きて弁当を作ってやれば…良かった……な……


 僕は睡魔に負けて目を閉じた。










「ふわぁぁー……起きた起きた」


 言葉に反して瞼は重いが、流石に三度寝はダメだろう。ベッドから抜け出せなくなる。

 枕横の携帯には十二時と表示された。

 次に寝たら十五時……なおさらダメだな。


「……ご飯でも食おう」


 一階のキッチンでお湯を作って、インスタントの焼きそばに注ぐ。

 紅葉が居ないから今日は買い置きしていたカップ麺だ。久しぶりでちょっと懐かしい。僕の徹夜の友だったカップ焼きそばは今も変わらず美味しそうだ。


 昼下がりの休日。学校であんなことがあったせいか、心の底からありがたみが出てくる。このままずっと休みだったらいいのに。


「ぷはぁッ! 牛乳美味しいッ!」

 

 今日はこれからゲームして、動画漁って、昼寝して——


 ————ピンポーン。


「ん?」


 何だ? 宅急便? 何も頼んでないと思うけど……紅葉のかな?

 玄関に向かってドアを開ける。


 ——この時、受話器を取らずにそのままドアを開けたことを後悔した。穴から覗くぐらいすればよかった。


 目に映ったのは制服姿の()()。学校でいつも会う姿となんら変わりない。

 扉の前でニコニコして待っていた。


「なん、で」

「来ちゃった」


 反射的に手が動いた。

 ドアノブを掴んだままの手を自分の方に引き寄せて閉め——


「——せっかく来たのに取り合ってもくれないのかい?」

「……足、退けてくれません?」

「嫌だ、君がドアを閉めるだろ?」


 閉めようとしたドアにローファーを入れられた。

 っ、閉まらない。力抜くと家に侵入される。


「…痛くないんですか?」

「痛いに決まってるじゃないか。……分かったよ、足を退けるから早く開けてくれ」

「はいはい」


 一瞬ドアを開けて、閉めよう————とした。


 開けようとして外側に力を込めると先輩の手がドア縁に現れて、気付けば僕の手を離れてドアが全開に。

 防御壁が無くなったことで玄関に侵入される。


 手がッ、手が滑ったぁッ!


「よっと。こんにちは…いや、おはよう、かな? 寝癖すごいね」

「……先輩、なんで家に来たんですか?」


 学校でもないのに何故制服なのか気になったが、それ以上に目的が気になった。


「デートに誘いに来たんだ」

「デートって……僕、今日は眠いんで家から出たくないんですよ」

「それじゃあ君の家でデートしよう」

「家でデートって……」


 デートって、外に行ってなんぼのもんじゃないのか?

 女子って買い物とか娯楽施設に行きたがるものだと思ってた……言われても家からは一歩も出ないけどね。


「言うじゃないか、お家デートって」

「そもそも、デートなんてただの友人がやるようなことじゃないですよ」

「……確かにそうだ」

「なら、今日は——」

「——僕は友人として遊びに来たことにするよ」

「…………」

「お邪魔しまーす」

「いや、ちょっと待ってくださいよ!」


 僕の静止の言葉を聞かず、脇をすり抜けて家の中に入っていく。

 行先はリビングだった。


「はぁ、せっかくの休日が」




「君、カップ麺を食べようとしてるのかい?」

「はい。今起きたとこなんで、軽く済ませようかと」


 僕は諦めて、先輩を客として扱うことにした。

 何を言っても出ていこうとしないし、女子を力尽くで外に引きずり出すなんて真似はしたくない。


「ちゃんと栄養に気を使いなよ」

「別に良いじゃないですか。簡単、美味しい、安いの三拍子ですよ?」

「簡単と安いはとにかく、美味しいのは塩分過多だからだ。健康に良くないよ。ちゃんと自分で考えられるように自炊しないと」

「作るのは面倒ですし」


 僕の健康なんて関係ないだろうに、どうしてそこまで言うんだろう?

 母さんか。先輩まで妹みたく母さんなのか。


「そう言うと思って……僕がお昼ご飯を作ってあげよう。今日のためにしっかりと勉強してきたんだ」

「カップ麺が無駄になるんでやめてください」


 キッチンに立とうとする先輩をどうにかリビングに押し退けて、お湯を切ってソースをかける。青のりを振りかけてマヨネーズをかけて箸で混ぜて……そのままずるっと食べる。

 んー、久しぶりのカップ焼きそば。独特の味の濃さが美味しい。


「ふーん、君、やっぱりこれ見てたんだ」

「んんッ!?」


 存在を忘れかけていた先輩は居間のテレビでビデオ録画を見ていた。

 ここ数日間の撮り溜めしていたアニメたちだ。


「勝手にやめてください。まだ一期の話見てないんです」


『「溢れる想いと、高鳴る気持ちでピュアなハートを狙い撃ち! 恋に導くキューピット、参上!」』


 アニメのキャラと同じようにくるりとターン。それからリモコンをステッキのように振り回し、締めの決めポーズをとった。

 いきなり何やってんだこの人。


「……っ!」

「照れるんですか」


 照れるならやらない方が良かったのにと思いつつ、リモコンを奪い取って停止させる。


「本当に何しに来たんですか?」

「あ、遊びに来たんだよ!」

「はぁ…もう……なら僕の部屋に……いや、ここで待っててください。飲み物入れますから」


 先輩を一人で上に残すとどうなるか……さっきみたく何かし始めるだろう。危険だ。



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