1,それは突然始まった
初投稿です
「…………」
えーっと……何これ。
「おはよー、木下くん」
「ッ!? …お、おはよう、抽冬、さん」
下駄箱の中を覗いていると、隣から声が聞こえた。
こんなマズい物見られちゃダメだ!
音を大きく鳴らしてすぐに扉を閉じた。
抽冬さん、か。
簡単に言えば、ギャルっぽさ満載なのに優しくて、教師からは反感を買っているけど生徒からは信頼されていて、遂には生徒会に入った人。
……いや、長いな。
茶髪に短いスカートにメイクと、校則違反すれっすれを行く生徒会書記、か。
……うん、これがいい。
抽冬さんについて思い出して、警戒を強める。
とりあえずロッカーの前に立っとこう。こういう人には絶対にバレちゃダメだ。
「どしたの?」
「い、いや、何でもないです」
「ふーん」
抽冬さんは上履きに履き替えて階段へと向かって行った。たびたび不思議そうにこちらを見るので、会釈を返しておく。
さて、どうしようかな。
……果たし状とか、体育館裏に呼び出しとかだったら嫌だなぁ。
「——わっぷッ!?」
「ッ!?」
開けようとしたところで、階段から変な声が聞こえた。
「痛たたた」
抽冬さんが転けてた。
多分、こっちによそ見しながら上がってたんだろう。
起き上がってそれからは、こっちを見ることなく上がっていった。
「ふぅー……よし」
「——秀秋。靴、取りたいんだが」
「ッ!? …ど、どうぞ」
だ、誰ッ!? いつの間に後ろに!
後ろを振り向くと、見えたのは大きい体で、上に上に首を動かし————すぐに視線を逸らした。
いやぁ、怖い。何あの鋭い目。
サッと横に体を避ける。
「おう、悪いな」
「…………」
……ん? もしかして、知り合い?
さっき秀秋って下の名前で……
考えていると、いつの間にか居なくなっていた。……目の前の問題と比べれば、そんなことはどうでもいい。
今度は階段の方を確認、玄関を確認して……
「……でも、ここで開けるのは……」
上履きの上に乗っていた手紙を、鞄に突っ込んだ。
教室に入り、席につく。
普段、この時間は僕含め二人しかいない。
でも今は一人。
さっき会った抽冬さんは、荷物だけ置いて何処かへ行ったみたいだ。確か……生徒会で校門に集まって挨拶してるんだったっけ?
さて……とりあえず、今は一人だから手紙を読むのに丁度良い。ラブレターで周りから囃し立てられることも、不幸の手紙で笑われて同情されることもない。
しかし、鞄から取り出したのは良いものの、これが本当に僕宛てで良いのか怪しくなった。表にも裏にも、宛先や送り主が書かれていない。
もしかしたら、近くのロッカーと間違えたのかもしれない。うん、きっとそうだ。
「うーん……よしっ」
手紙を開封しようか悩んでいたが、開封することにした。
もし、これが何かの呼び出し状で僕宛てじゃ無かったら、行って「間違ってましたよ」と言えば良いだけ。そうじゃなくても、蝋で固めたわけじゃないんだから貼り直してこっそり入れればいいだけだ。
不幸の手紙だとしても、僕宛てじゃないから何も書かなくても祟られる訳はない。……万に一つ、僕宛てだったら燃やして捨てよう。
「開けよう」
元々、開ける理由を探していただけで、好奇心の方が勝っていたんだ。
黒いハートが描かれた丸いシールを慎重に剥がし、中に入っていた紙を読む。
[木下 秀秋君へ
君に用がある。
昼休みに体育館裏で待っているよ]
ぼ、僕に用……か。それに体育館裏……?
予想に反して僕宛ての手紙だった。とても驚いた……が、しかし安心できない。
体育館裏……つまりは人目のつかない所で、僕に用がある、か。
中身にも送り主の名前が書いていなかった。
————ガラガラ。
「ッ!?」
「ふぃー、疲れたぁー」
「これから授業はキツい」
「今日もあっついな、後でスプレー貸してくれ」
朝練組だ。今日はサッカー部。
手紙をさっと机に突っ込んだ。
朝練組が入ってきたのを潮目に、どんどん人が増えていく。僕は机で腕を組んで、その上に顔を突っ伏して考えていた。
体育館裏に行かなかったらどうなるだろう。
手紙の呼び出しが続くだけ? それとも諦める? ……諦めるかな。僕は恨まれることも……逆に好かれるようなこともしてない訳だから、僕に執着する意味がない。
ヤンキーの気まぐれなイジメは勘弁だが。
もし、体育館裏に行ったら。
……分からない。さっき言ったように、僕は何もしてない訳だから呼び出す理由が分からない。パシリにされるかもしれないし、カツアゲされるかもしれない。
そんな何が起こるか分からない所になんて行きたくない。
まぁ、行かないで良いかなぁ。
————ガラガラ。
「全員席に着いてー、ホームルーム始めるよー」




