EP 魔法使い
一体あれから何日が過ぎただろうか。
気が付けば一月が終わっていた。
紅音はあれから三日後に目覚めた。
そして、その第一声は「あなた誰?」だった。
紅音は今までの人格を全て失い、次に起きたときには、記憶喪失のようになっていた。
どうやら、思い出はなくなってしまっているようだが、今までの知識というものは残っているらしく、全ての経緯を説明すると、一応納得してくれた。
それから、優貴は紅音のアパートに通い、彼女の世話をしている。
彼女の両親は既に死んでいて、今までは書類上保護者になってもらっていた伯父さんを頼ることにした。
紅音の伯父さんは、魔術師ではないが、存在は知っており、事情を説明すると、快く世話をしてくれることになった。来週から一緒に暮らすことになっている。
学校には、原因不明の記憶喪失として報告して、来年度からまた通うということになった。
◇
放課後。
携帯電話が震える。
見ると、紅音からのメールだった。
「引越しの準備してたら、机から手紙が見付かったよ。たぶんあたしが書いたもの」
「!」
それを見た優貴の心が一気に高ぶった。
紅音の手紙──。
そして、気が付けば、全速力でアパートに向かって走り出していた。
アパートに付くと、勢い良くドアを開けて、紅音の元に駈けた。そして、紅音からひったくるように封筒を受け取り、封を切る。
折られた紙を広げると、そこには懐かしい彼女の文字が記されていた。
ユキへ。
この手紙を読んでいるということは、全て終わったんだよね。
実は、ちょっと前からこうなるかもしれないって思ってて、この手紙を書いておいたの。
なんて言えばいいのかな。
ありがとう。
そう言うべきかな?
そして、これからも『遠野紅音』をよろしく。
ちょっと、昔の話をするね。
両親が死んで、絶望のふちにいたあたしの前に現れたユキは、魔法使いでした。
私が昔見たアニメでね、主人公の女の子が、こんなことを言っていました。
魔法はね、誰かを幸せにするものなんだよ。
誰かを幸せにするのが魔法。だから、あたしにとってユキは魔法使いでした。
最後に一言だけ。
ユキ、大好きです。ずっと。ずっと、大好きです。
紅音
手紙を読み終わったときには、涙が澪になるほど流れていた。
それを『遠野紅音』が心配そうに見つめる。
気が付けば、優貴は『遠野紅音』を抱きしめていた。
KsR
King side Rook
side story
春の眠り