第二章 夜はともに
第二章 夜は共に
「お邪魔します」
紅音が優貴に続いて部屋に入る。優貴は習慣で玄関脇のスイッチを押した。蛍光灯の柔らかい光が部屋を満たす。
「適当にベットにでも座って。うちソファーないから」
キッチンに入って、冷蔵庫からホイップクリームプリンを二つ取り出す。
「プリン食べるか?」
「あ、うん」
返事を聞いて、スプーンを二つ取り出し、ベット脇のテーブルに置いた。それから自分も、紅音と少し間を空けたところに腰掛けた。
部屋にビニールのふたを開ける音が二つ響いた。
「テレビでも見る?」
正直、やることが無いし、部屋で二人きりなんてまったく落ち着かない。
「ん? いいや。あたし普段テレビ見ないから」
そう言って、プリンを口に運ぶ紅音。
優貴も黙ってそれに習う。普段なら好物のホイップクリームも、大して味が分からない。というか、ホイップクリームに構っている心の余裕が無かった。
と、こちらを見た紅音が何かに気が付いて、笑った。
「ユキ、クリーム付いてるよ?」
「え?」
慌てて、唇の周りを確かめる。
「取れた?」
「取れてない」
さらにこする。
「取れた?」
「取れてない」
これだけ擦って取れないって、どこにあるんだ。
そう思って聞こうと思った刹那。
紅音の指が伸びてきた。
その手が唇に伸びると思ったが、それは顔を通り越して、首に触れた。自動的に近づいてくる紅音の顔。そして、そのまま紅音の手によって引き寄せられた。
触れ合う二人。仄かに香る柑橘の匂いとその柔らかい唇が優貴の神経を麻痺させる。
何も言うことが出来ない。
動けない。
ただ、その感触を感じることしか出来なかった。
しばらくして、ようやく唇が離れる。
「ユキ……女の子を部屋に入れるって意味わかる?」
紅音の甘い声は、色欲の悪魔の囁きのようで、ますます優貴の感覚をおかしくさせる。
「──紅音?」
「ごめん。マンションで工事ってのは嘘。ほんとは工事なんてしてない」
「え?」
意味が分からず聞き返す。
「ただ口実が欲しかっただけ」
「それはどういう……」
「こういう意味」
体重がかけられる。優貴はそのままベットに押し倒された。
「あたし──ユキが好き」
その囁き(ことば)が優貴の胸に突き刺って、広がった。
「……俺も……同じ」
そう言うと、紅音はそれに口付けで返した。
「今日は私が口で貰うだけじゃなくて──最後までやりたい」
その提案に優貴は黙って頷いた。