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08:嫌な予感



(仕事を受けるかどうかは別としてとりあえずお代はいただかないと)


イールと昼食をとった日から数日が経った日、そう思いながらエリィは身支度を整えていた。

窓の外はすっかり砂の風も止んだ良い時期の始まりと言わんばかりの天気だ。



髪が少し伸びてきた。

そう鏡に映る自分の黄金色の髪を見て思う。

いつも顎の少し下、首が隠れるくらいの長さで揃えているがそれよりも長くなり始めている。

今日帰宅したら揃えてしまおう、そう思って家を出た。




天気が良く街は賑わっているようだった。

これからの季節は旅人も増える。

エリィの稼ぎ時なのだからもう流石に家で塞ぎ込んでいても仕方がない。

そう思わせてくれるような気候だった。



イールが滞在する宿に出向きこの前と同じ部屋を小さくノックする。

一応宿主にまだ同じ部屋か確認したところ変わっていないと言っていたが、返事がない。


ノックが聞こえなかったかと思い先ほどより少し強めにもう一度ノックをしてみたがやはり返事はない。

どこかへ出かけたのかと思いどうしようかと考える。

とりあえずここにいても意味はなさそうだ、日を改めようかと思った瞬間、エリィに嫌な予感が浮かぶ。



(まさかあの廟に行ってるんじゃ……)



そうなんとなく思いついた。

『青の回廊』の話をするくらいな彼ならやりかねない。

それに手帳に気になるところは書き留めていると言っていた。

流石にあの入り組んだ道を覚えてメモできるとは思いたくはないが、一度気になると気になってしまう。


はぁっと小さくため息をついてエリィは先日イールを連れていった廟へ行くことにした。


誰もいなければそれを確かめられれば良い。それだけだ。


小さな路地の中を進んで行く。途中には階段を上る箇所や降りる箇所、行き止まりと見紛う場所、それらを慣れた足取りで歩いていき、その扉の前に到着した。



ノックは不要だろう。

人などいないのが普通なのだから。

そう思ってそっと扉を開けた。


(誰もいないか)


静寂がそこにはあった。

けれども奥まで見ないことにはエリィの気はすまない。

そっと足を進め、アーチのような柱を抜け奥の部屋へ入ろうとすると、僅かにこの前綺麗に掃き出したはずの砂の感覚があった。


その感覚に心の中でため息をつきながら先へ進むと、そこにはもう見慣れた焦茶の髪をした彼がいた。



「何をされてるんですか?」


「あぁエリィか。やっぱりここが気になってな」


その言葉にはエリィは答えずじっと彼の顔を見た。


「そんな怖い顔をするな。何もしてない」


そうイールが笑って言う。


「何もしてないのなら何故ここに?」


「この文様をまた見たくて。繊細で美しい。それに床のタイルも」


そう目線を下に落として彼が言う。


「……あなたは何を知っているんですか?」



「それは俺がこの前君に聞いたことだ。エリィはどこまで知ってる?と」


睨み合うように二人の目が合う。


「……とりあえず、そこから離れていただけませんか?」


先に口を開いたのはエリィだった。


「何故?」


「何があるかわかりませんので」


その言葉にイールは首を傾げた。


「何か起こるのか?」


「わかりません。ただ建物自体古いので不用意に触れたりされると困ります」


そうエリィが答えるとイールの口元には笑みが浮かんだ。


「わかりませんって説得力のない案内人だな……けど大事な場所なんだな」


そう言って祭壇のような場所から離れエリィの目の前に立った。

ちょうどエリィより頭ひとつ分背が高いイールが、エリィを覗き込むようにして続ける。


「わかった。俺が知ってることを話す。そうしたらエリィの知っていることを話してくれるか?」



「それは案内人の仕事ではありません」


そう言うとイールはニッと口角を上げた。


「じゃあ案内人に頼む。『青の回廊』に連れていってくれ」


「……申し訳ありませんが他を当たってください」


「あるのか?本当に」


イールが問いかけるがエリィはじっと彼の目を見るだけで何も答えなかった。

その様子を見てイールはお手上げだという風に両腕を上げ話し始めた。


「わかった。俺が知っていることを全部話す。それからどうするかは考えてくれ。立ち話もなんだが……あまり人に聞かれたくない。どこか良い場所はあるか?」



「人の少ない、店主も口の固い店があります。それでも気になるようならば私の自宅でも」


その提案にイールは悩む様子もなく答えた。


「人はいない方が良い。エリィもそうだろう?自宅で頼む」


そう言って二人、エリィの自宅へと向かった。

イールの足取りはこの場所でももう慣れたものだった。どうしたらそんな風になるのだろうとエリィは思いながら自分の前を歩く彼の背中を見ていた。


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