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36:本当に面倒な客


「本当、嫌味も文句も言い続けないと気がすまないです」


そうエリィが不機嫌に歩きながら言う。


「そんな言うなって」


隣を歩くイールが笑って答える。


「墓に向かっていったところで変わんないだろ?」


「……わかってますけど、そのくらいやらないと」


「あっちの世界で笑われて終わるだけだろ?」



街の東の外れの墓地へと二人並んで向かっていた。

手には3冊の本とこの街では高価な花が二輪あった。


エリィの父親、レンの墓に着くと手に持っていた本と一輪の花を墓の前に置く。


「ちゃんと見つけました」

イールが言う。


「大迷惑な父親ですね」

エリィが言う。


本、レンの日記を二人は読んだ。まだまだ読み込めてはいないもののざっと二人で全てに目を通していた。

そこには何故『青の回廊』にレンの日記が置いてあったのか、ダンジュに頼んでいた内容、そして旅路での出来事、レンが生きた証が書き留められていた。


そして、古の宝物を売り払った金は旅先の学校に寄付していたということも。



「ダンジュさんに人を入れるなと言わせていたのがレンさんだったなんてな……」


そしてその理由がそれを越えてまで入ってこれる人間だけが読める資格があるのだからだと日記でレンは豪語していた。


イールが呆れた笑顔で続ける。


「笑えてくるよな。前にサマルタに行った時にシナンさんがダンジュさんとは『共犯者』だって言ってけど、レンさんのこれ読んだらその言葉の意味が理解できた気がするな」


イールが一度墓の前に置いたレンの日記を手に取りパラパラとページをめくる。


レンはシナンに『青の回廊』に辿り着きそうな旅人を試す遊びを持ちかけよう思っていると日記に書いていた。

目ぼしい旅人にそっとターランの秘密を少しだけ教え、唆して遊んでやろう、と。

きっとシナンはその遊びを楽しめるから、と。


けれどもそれをシナンに持ちかける前に殺されてしまったのだろう。

ダンジュがその話を聞いていて、シナンにやってくれないかと依頼をし、二人はレンの遊びに付き合った共犯者となったのだろう。



「どれだけ仲良しなんですかね」

エリィが呆れて言う。



「なぁエリィ、やっぱり砂の時期、サマルタに行こう」


「シナンさんに会いにですか?」


「あぁ。もちろん帰ってくる」


その言葉にエリィは首を傾げる。


「……前も思ったんですけれど、私は確かに帰ってきますけど、あなたはまたどこかへ旅に出るんじゃないんですか?」


エリィの言葉にイールはニッと笑って、一枚の便箋を見せつけてくる。


「それ、父からあなた宛の?」


「あぁ。正直、俺もここの秘密が解けたらまたどっか旅に出るんだと思ってた。けど……俺はここに残る。いや、残るって言うのは語弊があるな……砂の時期はエリィを連れて旅に出る。気候の良い時期は俺もこの街でエリィの仕事手伝う」


思わずエリィは薄い目をしてイールを見る。


「……私の意見は…?というか父からの手紙と何の関係があるんですか?」



「レンさん、誰かにつけられてたの気づいてたみたいだ。で、万が一はないとは思うけれどってここに書いてあった」


「何をですか?」


「『俺にはひとり、娘がいる。覚えているはずもない母親に似たのかたまに素直じゃないけど、まぁ可愛い子だ。万が一俺に何かあった時は歳も近いだろうから気にかけてやってくれ。惚れても良いけど、誑かすなよ』って」


エリィは思わずイールの手から手紙を奪い取る。


「『これを読んでるってことは人でなしではないだろうからな』……ってまたふざけたことを……」


父親のやったあれこれにエリィはうんざりしていた。

悪戯にしてはことを大きくしすぎだし、遊びにしては手がこみすぎてる。


けれども同時に笑ってしまう。

何をしてくれたんだと呆れた笑いも、そんなことに手を尽くしていたのかと言う驚きも、いなくなってから10年以上経ったのにすぐそこにいるかのように思えてくる喜びも、全部含めた笑いだ。



「だから俺はエリィのことを気にかけなければいけない訳だ。で、エリィ、サマルタ行くだろ?」


イールが優しく笑いながらエリィに聞く。


「……隣町くらいなら、行ってもいいですけど」


エリィが少し口を尖らせながら言うとイールがニッと笑ってエリィの頭に軽く一度手を乗せる。


「じゃ、決まりだな」


前よりも少しだけ、隣町に出かけるということが楽しみになってきていることにエリィは気づきながら、はっと別のことを思い出した。


「……お代……まだいただいてないです」


その言葉にイールはハハッと笑う。


「大丈夫、それ以上のもの旅先で見せてやるから」


そう言う問題ではないとは思いつつ、これ以上あの部屋を使われ続けたらたまらない。

宿に人が入り切らない時にだけ貸している部屋とは言えども収入源が一つ減っているのだ。

少し前にも宿から連絡があったが泣く泣くお断りしたのだ。


「……帰ってきてもあの部屋使う気ですか?」


少しだけイールを睨みながらエリィが言う。


「いや、あの部屋はもう大丈夫」


「宿とるんですか?」


その言葉にイールはニッと笑って答えた。


「良い場所を思いついたんだ。二人で暮らせるくらいの広さなのに住んでるのは一人で、キッチンの使い勝手も悪くない。それに本も沢山ある」


エリィの口元が引き攣る。


「それに何より、俺が惚れた女が住んでる。父親にも惚れても良いって許可はもらってるし」


思わずエリィがため息をつくと人懐こい顔でイールが見てくる。

その顔にエリィは口を尖らせ言った。


「……夕食は……」


「作るって。だからお代はチャラだろ?」


「……今後の態度によります」



エリィが不機嫌に言ったその言葉にイールはまたニッと笑ってエリィの頭に手を乗せた。


「ダンジュさんのところにも行こう。挨拶しとかないと」


数歩前に進んだイールの背中をエリィは見ていた。


(本当、面倒な客)


エリィの目線は一度父親の墓に向く。


(でもまぁ……お父さんのおかげか)


イールが振り返りエリィに声をかける。


「エリィ、早く来いよ」


エリィの口元には小さな笑みが浮かび、小走りでイールの横へと駆け寄った。



砂の風の時期は、もうすぐそこだ。



おわり


こんにちは、旭岡りらです。

たまたま見かけた何処かもわからない1枚の街の写真からぼやんと書き始めた物語。

ブックマークつけてくださった方、ありがとうございました!通りすがりの方も、ありがとうございました。


また何処かでお会いしましょう。



・・✥・・・・✥・・・・✥・・・・✥・・


私が書いたものじゃなくても、あなたがまた、あなたを楽しませてくれる物語に出会えますように。


柔らかな季節近づく2021年の弥生に。

旭岡りら


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