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30:休日


休もうと決めたその日は午前中、エリィとイールは二人で商店の並ぶ通りに出かけ食材の買い出しに向かった。


あまりにイールがあれやこれや買おうとするので思わずエリィはジトっとした目で見ていたら、どうやらシナンに少しばかり資金援助をしてもらったらしく心置きなく買えると笑っていた。


エリィはそれなら自分にお代を払えと言ったもののそれは全部解決してからだと言われ、頬を膨らませていたらいつもの如くイールに笑われて薄い目をしてしまった。



「エリィ、昨日大丈夫だったのか?」


スパイスを多く取り扱う店の前で品定めをしていたらヘンスが声をかけてきた。

彼もちょうど買い物に出かけてきたところなのだろう、手には大きな紙袋をかかえている。


「えぇ、ご心配おかけしました」


「体調悪いなら無理するなよ、あっちでダンジュさんも心配するぞ」


「そうですね、気をつけます」


そう小さく笑ってヘンスに答える。


「イールは帰ってきてたんだな」


「あぁ、昨日ちょうど。またしばらくこの街にお世話になるつもりだからよろしくな」


「物好きだなぁ、ほんとに」


そうヘンスが言った後は軽く挨拶を交わし彼は家の方向へと向かっていった。


「ヘンスさんとも仲良くなられているようで」


エリィがイールに声をかける。


「あぁ、散策中に何度か会って。あの人良い人だな。色々教えてくれる」


散策中に会う程度で何故そんなに仲良くなるのかやはりエリィには理解ができなかったが彼にとってはそういうものなのだろうと思った。


昼食は外で取り、買い出しを終えて自宅に戻った。

イールも部屋に戻るのかと思いきやダンジュの本を読みたいと言ってエリィの自宅に入り浸っていた。


エリィはリビングのテーブルに、イールは普段エリィはあまり使っていないリビングの隅に置いてあるソファでくつろぎながら本を読んでいた。


微睡むような昼下がりの時間だ。

外の天気も良く、仕事もない。

のんびりと時間が進むその日はすごく長く感じ、心地よいものだった。


「……話しかけても良いですか?」


エリィがイールに声をかける。


「なんだ?」


本から目を外しエリィをイールが見る。


「サマルタで何があったのか……いや、朝のお話はわかったんですけど、シナンさんにどうやって会ったんだろうとか、その……」


イールが疲れていると言っていたのがエリィの頭の片隅に残り、何かあったのかと気になっていたのだ。


エリィの言葉にイールが口角を上げた後、彼はソファから立ち上がりエリィの座る向かいの椅子に座った。


「色々面白い話があるぞ?」


「何ですか?」


そうエリィが聞くとイールはサマルタであったことを話し始めた。


シナンが出してきた宝探しのこと、

そこにいく前に意味もなく睡眠薬入りの飲み物を飲まされたこと、

店で知らない旅人がひたすら話しかけてきたこと、

市場で懐かしい顔に会ったこと、

空いていた日に巡った街のこと。


その話のどれもが面白くって、気づけばエリィは夢中になってその話を聞いて頷き、驚き、時には笑っていた。


ひとしきり話をした後、イールは満足したかのようにソファへとまた座り本を手に取ってくつろぎはじめた。


夕方になりエリィは流石に今日は自分が夕食を作ろうと思いキッチンに立って準備を始めた。

食材を切り始め複数のスパイスを使う準備をし始めた時、ふと今日の朝食べたスープに入れたスパイスの種類を知りたくなりイールに聞こうと振り返ると、彼は本を抱えたままソファに寝転び眠ってしまっていた。


(疲れたって言ってたからな)


風邪でもひかれたらたまらない、そう思って肌掛けを取ってきて掛けてやった。


(そういえば、お父さんにも何度かやったことあるな)



幼い頃の記憶がエリィの頭の中に蘇る。

しばらく歩いた後やたくさん人と話した後、父は気づくと原っぱだろうと何処だろうと眠ってしまっていた時があった。

仕方がないので幼いエリィが荷物の中から野宿用の寝具を取り出しそれを掛ける、なんてことが何度かあった。

けれどその後、父の横でエリィも一緒になって眠り、気づくと父に背負われている最中に目を覚ます、そんな記憶だ。


まだキッチンで火は使っていない。

それなら良いかと思い、なんとなくイールの眠るソファの横の床に座り腕と頭だけをソファに乗せてみた。

懐かしくって、居心地が良くて、エリィはそっと目を閉じた。

そして気づけば幼い自分と同じように眠ってしまっていた。


だからエリィは気づかなかった。

エリィが眠り始めて少しした後、薄らと目を覚ましたイールがエリィに気づきそっとエリィの頭を撫でていたことに。


そんな久しぶりの、二人の休日だった。


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