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26:宝探し


呼び出されたのはまたシナンの家だった。

ちょうどお茶の時間だ。けれどまたこの前の睡眠薬のようなものを飲まされたらたまったもんじゃない、そう思い、出されたものには一切手をつけずイールはシナンと向き合っていた。


「イール、これは私にとっては面白い話なんだがな」


何かの拍子ですぐに割れてしまいそうな繊細なカップを手にシナンが話始める。


「数多いる旅人の中でも選ばれる人間とそうでない人間がいる。君は一度選ばれた。けれど放棄した。なのにまたここにいる。どういうことか考えたんだ」


何の話をしているのかと思いながらもイールは黙ってシナンの話に耳を傾けていた。


「イール、お前は何かを知った。それは殺された旅人のこと。そして、きっと『青の回廊』のことも何か知ったんだろう?」


その言葉にイールは両肩を軽くあげるだけしてイエスともノーとも答えなかった。


「まぁそうだとして、知ったのならその秘密を明かせば良いだけだ。お前のような人間なら勝手にその秘密を暴いて満足するだろう?なのに私のところに来た。何か私が知っていることがあるのでは、と」


さっさと本題を話せと急かしたい気持ちを抑えながらイールはじっと話を聞いた。


「そんな中で案内人の訃報を私に知らせた。それはどういうことか。彼と私が知り合いだと言うことを知ったと言うことだ。あぁ、確かに彼とは知り合いだ。でもただの知り合いじゃない。共犯者だ」


その言葉にイールの眉間に皺が寄る。


「共犯者?」


「あぁ、何のとはまだ教えられない。イール、お前次第だ」


「俺に何をさせたい?」


「少しお前を試すようなことを」


そうシナンがニヤリと笑った。


「旅人には知恵と知識が必要不可欠だと昔友人が言っていてな」


そう言ってシナンが立ち上がり部屋の隅に置かれた机の引き出しから何かを取り出し持ってくる。


「それは?」


「この街の地図だ」


開かれた紙は確かにこの街サマルタの地図だった。


「私はある場所にあるものを隠している。それを見つけたら話してやってもいい。見つけられなかったら、まぁお前には知る資格がないと言うことだ。まずはこれでお前を試させてもらう」


「期限は?」


「明日の夕方までた。またここに来い。そんなに難しいことじゃない。ヒントは『水の流れ』」


「隠してるものは?」


「ここからは他言無用だ。古の時代の宝物だ。そんなに量は多くない」


「この地図に載っている場所にあると考えていいのか?」


「あぁ。物はな」


面倒だなと思ったがこれが解ければ目の前の人間は全て口を割るかもしれない。

仕方がなしにと思いイールは承諾し、地図を受け取りその部屋を後にしようとすると背中にシナンがまた声をかけてくる。


「イール、もう一度だけ聞かせてくれ」


「何を?」


「旅人になった理由は?」


「何度言えばわかる?面白そうだから、それだけだ」


そう答えるとシナンはそうかと何故か呆れたように笑ってイールを見送った。


***


街のちょうど真ん中にある広場の噴水の淵にイールは座り考えていた。


ヒントは『水の流れ』、そして渡された地図。

地図自体はなんら変哲のないただの地図のようだ。


この街には川がある。

水の流れと言うからにはきっと何かしら関係があるだろう。

そうイールは考えながら地図上の川を眺める。


(これだけじゃ何もわからないな)


そう思いイールは川沿いをしばらく歩くことにした。


川は街の東から西へと流れ、西寄りで分岐が始まり南に向かって垂れ込むように流れている。

分岐している場所あたりにはあまり行ったことがない。確認しに行きたいが行くとなるとそれだけで時間がかかってしまう。


(街のこととなると住んでいる人間に聞くのが手っ取り早いか)


そう思い、イールは川沿いにある大きな市場へ行くことにした。

確かここに来て2日目に会った商店の店主は子供の頃からこの街で育ったはずだ。

街のことなら詳しいかと思い彼の元へと足を運んだ。


市場は随分と賑わっていた。

その中で彼がよく店を出しているあたりを歩くと案の定いるから都合が良い。


「おぉ、イールどうした?」


「この前の果実、美味かった。ありがとう。この街を離れる時にでも買わせてくれ。で、今日は教えて欲しいことがあって」


「なんだ?珍しいな」


「すぐそこの川、街の西の方で分岐してるだろ?あの辺りには何がある?」


「ん?あぁ、あの辺は学校やら役場だな。旅人さんには馴染みがないだろうな」


「あぁ、全く」


「あの辺がどうした?」


「いや、ちょっと宝探しをしていてな」


そう言うと店主は少し馬鹿にしたようにハハッと笑う。


「楽しそうだな、旅人さんは」


「あぁ、楽しいぞ。やるか?」


「いんや、俺は遠慮しとく。ここらで慎まやかな生活してた方が楽しい」


そう言って店主は手に持っていた飲み物をごくりと飲んだ。


「なんだそれは?昼間から酒か?」


「まさか。この果物絞って、ちょっと水で薄めたもんだよ。飲むか?」


そう言って手際よく果実を絞り水差しに入れた水で薄めたものをイールに差し出してくる。

味はさっぱりしているものの柔らかな甘味が体に染み入るような感覚がして悪くないものだ。


「果実のままじゃ美味くないのか?何で水で薄める?」


「薄めなくても良いけど、果実だけだと贅沢だろう?商売にするには薄めるくらいがちょうど良い。この街はいくらでも水があるからな」


そう親指を立てて店主が川の方を指す。


「この街の飲水は川から?」


「あぁ、綺麗な川だからな」


「水は川に取りに行くのか?」


「なんだそんな川に興味持って。宝が川にでも眠ってんのか?」


「まぁそんなところだ。で、川に取りにいくのか?」


「あぁ、街の中心に住んでる奴ら以外はな」


「中心に住んでる人間はどうしてるんだ?」


「水路を引いてそっから使ってる。我々庶民のような人間は川に毎日行き来しないといけないがな。良い生活だよ、本当中心に住めるような金持ちはな」


その言葉にふとイールは持っていた地図を広げた。


(生活用の水路か……)


ただその地図には水路とはっきりわかるようなものは書いていないようだ。


「水路って何処を通っているかわかるか?」


「しらねぇな、けど街の至る所に水汲み場みたいなところがあるからそれ辿ってけば良いんじゃないか?お前も使ったことあるだろう」


それなら知っていると思い頷く。

この街の水資源の豊富さには当初驚いたのだからよく覚えていた。

誰も使っていないのに飲用できる水がずっと垂れ流されているのだ。

片道2日だけでこんなにもターランのような乾燥地帯とは水事情が違う。


「ありがとう、良いことを聞けた。今度はちゃんと買い物に来る」


そうニッとイールは笑ってその場を後にした。


生活水路がヒントになるという確信はない。

けれどイールの頭に少しだけ引っかかる言葉があったのだ。

シナンは、イールが宝物は地図上に載っている場所にあるのか?と聞いたときに「物は」と答えた。

ならそこにたどり着くまでの情報はこの地図には載っていない可能性があると考えたのだ。


(そういえばエリィの地図には地下水路が書いてあったな)


『青の回廊』とは関係がなかったらしいがよくもまぁそんなものまで調べて書いたもんだと感心しながら、彼女がいれば今イールの持つ地図に生活水路なんてすぐに書き込んでくれるのではないかと思う。


(エリィ、元気にしてるだろうか)


ふと愛想のない砂の風の吹く街に住む案内人を思い出す。


(さっさと終わらせて帰らないとな)



そう思いながら街を歩き出した。


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