第6章(仮) TRE×新物語
「――ということなんです」
「「「………………」」」
沖田ちゃんの説明を聞き終えると、僕ら一同は狙ったわけでもないのに、一斉に、そして同時に大きなため息を一つ付いた。
みんなはどう思っているかわからないけど、僕の心の中は結構なパニックと言うか、とにかく複雑な気持ちでいっぱいだった。
かぐや姫。僕――いや、日本人ならば一度は聞いたことのある昔話。そんな世界に僕達は呼ばれ、そして今からその物語の一部を任されるなんて、思ってもみない事が起ころうとしているんだ。あっちの世界とはまた違った緊張が襲っていた。
「どうでしょう? わたし達に協力してもらえないでしょうか?」
「アタイ達の事なのに悪いとは思っている。けど、これは将来的にはアンタ達のためにもなるんだ」
「僕達の?」
「この旅の最終目的は『奴』を倒すことです。という事は、回り回って皆さんのためにもなるんですよ」
「考えても見てください。かぐや姫……いや、日本昔話の主人公達が味方になってあんたらを助けて下さるんです。これ以上の助っ人がいるでしょうか?」
沖田ちゃんに言われてハッとした。そうだ。僕らの旅の目的は真王を殺す事だけど、更なる最終地点はメタスターシさんの……いや、全宇宙の敵である『奴』を倒すという事だ。真王を殺しても、最終的には『奴』を殺さないと元も子もないんだ。
『奴』とは以前戦ったことがあるけど、その力きたら、何をどうしたら勝てるのか? っと言ったレベルだ。この中で唯一傷を付けれたのは音破のみだけど、それでもほんの擦り傷くらいが限界だった。
僕らも今旅をしながら仲間を集めているけど、果たしてどれほどの仲間が集まるのか……いくらいても足りないくらいだ。けど、日本昔話の主人公達が味方になってくれるのであれば、鬼に金棒の百人力! ――となれば、ここで沖田ちゃん達に協力しておくのは正解かもしれない……
「わかりました。僕、手を貸しますよ」
「本当ですか!? ありがとうございます鉄操さん!」
「鉄操がやるってんなら俺もやるぜ!」
「………………!!」
「あまり賛成できないが、空想上の生物が見れるというのなら、科学者としては見過ごしたくないな! いいだろう! 私も力を貸そう!」
旋笑に音破。それにグラントライフさんまでも協力してくれるみたいだ。
「ありがとうございます皆さん!」
僕達は熱い握手を交わして、作戦会議が始まった。
「それで作戦はどんな感じですか?」
「作戦と言う程じゃないけど、かぐや姫の言う神器を――貴族より先に強奪して、偽物とすり替える! ……という具合ですね」
「なんだか盗人みたいですね……」
「小僧! なりふり構ってられねぇんだよ! これが上手くいかないと、かぐや姫は結婚しちまうし、物語も終わっちまうんだぜ!」
「いやまぁお気持ちはわかりますが……」
いや。世界を救うためだ。この際割り切ろう。それに人の命を奪うわけじゃないんだから、まだマシと思うようにしよう。
「それで? 配分はどうすんです?」
「それはもう考えていますわ」
「それぞれがゆかりのあるものに行こうと思ってすんだ!」
「それぞれにゆかりがある?」
沖田ちゃんは小さく頷く。
「アタイはツバメが生むという真珠さ。アタイの愛刀は濡れ燕って言うからね。柄のところに埋め込もうかと思うんだよ」
「あっしは仕込み杖の木が大分痛んできたんで、玉の枝を使って新しい仕込み杖を作ろうかと」
「わたしは新選組が消えた今、新しい勝負服を作ろうかと思って……家紋をそのままに、火ネズミの衣で造ろうかと」
「拙僧はこの打ち出の小づちで出来た手袋があれば何もいらんのだが、竜の玉……というのが気になってな!」
なるほど。もらうものは貰って、自分の装備にしちゃうんだ。ちゃっかりしてるなぁ……。でも、ちょっと面白いかも。歴史上の偉人が、日本昔話で出てくる道具を貰って、それを身につけるだなんて、凄い事を考えるなぁ……
「ってことは、俺達は皆さんの強奪作戦に同行して力を貸すって事だな!」
「その通りです。今回は貴族が5名同時に来るので、我々も同時に奪取します。わたしは先程申し上げた通り火ネズミの裘を」
「火ネズミの衣……。かぐや姫の中でも一番気になっていた物……。よし! その旅、僕にも同行させてください!」
「鉄操さんですか! よろしくお願いします!」
「あっしは東の海の蓬莱山にある玉の枝を……」
「よし。道さん。あんたには俺が同行しまっせ!」
「良いんですかい? あっしなんかで?」
「ああ。武人としてあんたに色々聞きたい事があったんですよ」
座頭道さんのパートナーは音破か。武人同士だから凄いお似合いだなぁ……
「アタイはつばめが生むという子安貝を」
「………………」
「お? アンタかい! 良いぜ! 女同士仲良くやろうぜ!」
旋笑は丹下右膳さんか。美女と美少女で目の保養に良い。……丹下右膳さんは着崩しが凄いけど……
「拙僧は竜の持っている玉を」
「竜? それは何だ?」
「竜と言うのは神の生き物でな?」
「神ぃ!? 面白い! そんな科学的に証明できない存在、私も是非見てみたい! 一寸法師! 私が共にいこう!」
「ご老人! それではともに行こうか!」
グラントライフさんは一寸法師さんとか。グラントライフさんはまるで子供みたいに目を輝かせているけど、科学者の性なのだろうか? ……という僕も竜は見てみたいなぁ……。
「天竺にある仏の御石の鉢は距離があるね。ぼくが責任をもって確保してくるよ」
天竺……確かインドにある場所だっけ? 確かにこの世界の船で向かったら時間が……いや、そもそも無事に航海できるかもわからない。その点メタスターシさんなら問題ないな。それに他のみんなも、テレポートで運んでくれるだろう。やっぱりこの人の能力は万能で、無敵で、便利だなぁ……
「よし! 作戦は決まった! それじゃ行動に移ろう!」
「みんな! ぬからないでね!」
「「「おう!」」」
僕らは拳を上に突き上げ、それぞれの目的地に向かうこととなった。さて……一体何が待ち受けているのやら……