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獣人を愛でてたら衝撃の事実を告げられました

 ラトラという獣人が、おずおずといった調子で紹介をしたリーオという子は、ベースが人で、虎の尻尾と耳が生えているというコスプレとも思える獣人の女の子だった。


「かわいいー!」

「えっ……えっ? きゃっ」

「ちょっ、イヴさん!」


 冷静沈着クールビューティーかと思っていたイヴさんが、黄色い悲鳴を上げながらリーオに抱き着いている。いや、マジで可愛いよ獣人可愛い。マリッサさんも美人だけど、やっぱりケモミミ最高ですわ。あっ、ちょっ、イヴさん耳とか尻尾とかいじくりまわして、うらやま……じゃなくて嫌がられちゃうんじゃないか?


「あぁぁ、イヴさんやめなって。ほんとすいません。はーなーれーてー!」

「いーやー!」


 困惑するリーオから引き離すべくイヴをひっぱるものの、すごい力で抱き着いていて離さない。ちょっとキャラ崩壊してますよ! ラトラさんもマリッサさんも微笑ましく見守ってないで手伝ってー!


「うん……そうか、よかった」

「えぇ、あなた」


 それどころかしんみりしつつ目尻に涙まで溜めてるんですが。俺も耳と尻尾とか触れたいんだけど、まじうらやましい。そしてラトラさんとマリッサさんがこっちを見てる。はいはい、わかってますよ男が娘にそうそうほいほい触ったら……。あるぇ? 


 どうやら俺が思っている視線と毛色が違うことに気付く。警戒されないように遠巻きに距離を離したらめちゃくちゃ哀しそうな表情で俺の事を見る。試しにそぉっと手を伸ばすと目をキラキラさせながら期待の眼差しをこちらへと向け、ひっこめるとあぁっ! と声が聞こえそうな程哀しそうな表情を浮かべるんですが。えっと、とりあえずそうだな。ここは乗るしかない。駄目元で行ってみよう。間違えていたら全力で謝ればいいや。


「リーオちゃんだっけ?」

「えっと……はい」

「俺も耳と尻尾触らせて?」

「あの、えっと……いいよ……?」


 正直絵面的には不審者っぽかったと思う。でも仕方ないと思うんだ。ケモミミ少女が目の前にいたら耳とか尻尾とかに触りたいって思うのが普通だと思うんだよね。特に拒否なく触らせてくれるリーオちゃんマジ天使。ふわふわの触り心地でした。決していやらしい感情で触ってないよ? 何故か嫌がるどころか目を潤ませながらケモミミ少女を撫でる俺はどう見ても事案ってことは、努めて気にしないようにした。ちなみにラトラさんにもイヴと一緒に触らせてもらったのは言うまでもない。毛並みすごい良かったよ。うん。マリッサさんが妙に誇らしげだったよ。


 その後、獣人は人族から迫害に近い感情を持たれていることや、ラトラさんとマリッサさんが夫婦であること、特に二人の子供であるリーオのような人族よりのハーフは、どちらからも忌子として嫌われる存在であることなどを聞いた。本人の前で言っていいことなのか気になったが、色々と経験しているらしく、今更隠すことではないとのことだ。うーん、テンプレって感じだな。先ほどの反応は、迫害故に触れあいさえまともに出来なかったリーオちゃんにとっては感動的な出来事だったらしい。こんな可愛い子を迫害とか現地人に出会うのが不安でしかない。


 ラトラさんが狩ったという動物の肉をご馳走になり、腹を満たしたら出るものも出る為、トイレをどうするかですったもんだあったものの、すっかりラトラさんたち家族とはいつの間にか打ち解けていた。いや、イヴさんがもじもじし出した時正直察したもののどうしようかわからなかったので、現地の女性陣がいたのは非常に助かった。俺もラトラさんと連れ立って用を足したが、こればかりは慣れそうにないな。別に聞きたくないだろうから詳細は省く。


「そうか、色々と大変だろう。ここで会ったのも大自然の思し召しだ。お前たちがいいのであればしばし共にあろう」

「いいんですか?」

「えぇ、なんだか貴方達を見ていると、昔を思い出すようでね……。挫けちゃだめよ? きっと大丈夫だから。リーオもいいでしょう?」

「うん! お兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒がいい!」

「よろしくお願いします」


 イヴさんが俺達のことをかいつまんで説明した。意識を失っていたのか気づいたら平原に倒れていたこと。記憶が曖昧であり世間一般の常識に自信がないこと。持ち合わせが何もない状態で、当てもなく歩いていたこと。俺達は同郷の人間であること、などなど。嘘は全くと言っていい程言っていない。途中ピクリとしたことから、また交渉術が上昇したアナウンスでも流れたのだろう。


 マリッサさんとラトラさんは話を聞いた後顔を見合わせると、何かを決意したかのような表情を浮かべて協力を申し出てくれたのだった。あまりにも快く迎えてくれたので、ふと興味本位に訊ねてみると、ばつが悪そうな顔をしてラトラさんが言う。


「すまないが、鑑定をしてもいいだろうか?」

「えっ! 鑑定って出来るんですか! 是非!」

「うむ、やはり嫌だとは……えっ? あっ、いいのか?」

「認識に違いがないのであれば、ですが。鑑定とは対象のことを調べる事ですよね?」


 俺が二つ返事で答えたことにラトラさんが面食らい、呆れたようにしてイヴが質問を投げかけてくれた。うーん。名称と認識の違いがあるかもだもんなぁ。いやいや、失敗した。


「あぁ、そうだ。別にされてどうこうなるわけではないが。マナーとしてはいいものではないからな。自分のことを無遠慮に曝け出されるのは気持ちのいいことではあるまい?」

「そうね。プライバシーもなにもあったもんじゃないわね」

「ぷらいばしー? というものが何かはわからないけど、鑑定されたなってわかるぐらいの感覚はあるから、何も言わずにするのは敵意を向けるのと同じなのよ」

「わざわざ聞いてからやってくれるんですし、そんな風にとりませんよ。むしろお願いします!」

「よし、では、行くぞ」


 ラトラさんにじっと見つめられると、身体中から中まで視線にさらされたような怖気を感じる。思わず身体を強張らせるが、その波は一瞬で引いていく。なるほどこれは、いきなりこんなことをすれば敵意とされてもしかたないな。鑑定を終えたのだろうか、なぜかラトラさんとマリッサさんの、心配とも、悲痛とも思える視線が俺とイヴを捉えている。


「そうか、やはり……」

「あななたちも、神から見捨てられし者だったのね」

「「へ?」」


 予想外の言葉に、俺とイヴさんの間抜けな声が重なり反響した。


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