初めての食糧は花で、川も見つけました
イヴ視点です。基本交互にいこうかなと思ってます。
アダムが驚きの声を上げると同時に、私の頭の中に無機質な声が響いた。
――アダムが理に触れたことにより、自動的に観察眼がアクティベートされます――
観察眼 10
「えっ? 何これ?」
一瞬だけ目の前に観察眼という項目が浮かんだと思うと、ふっと消えていってしまう。理解不能な出来事に思わずアダムに視線を移すと、驚きの声を上げたアダムがまじまじとむしりとった草をみていた。何か変化があったのは確かみたいね。
「ねぇ? 変な声が聞こえたんだけど、アダムさん何かした?」
「えっ……、あ、あぁ、鑑定みたいなことできないのかぁって思ってさ。この草はなんなんだよっって思いながら見てたら、詳細っぽいのが出た。全然詳細じゃないけど……。イヴさんにも声聞こえたんだ?」
「えぇ」
私は聞こえた声と状況をそのまま彼に伝える。すると、難しそうな顔をして草の臭いをかいだり、ちょっと口に咥えたりすると、何か納得のいったような顔をして答えた。
「今、観察眼11って出た。経験値ないし、熟練度っぽい感じかも?」
「へぇ? でも私は今度何も聞こえなかったわ。取得時だけみたいね」
つぼみのたくさんついたすずらんのような花を摘み、まじまじと見てみる。
・草原の花(食用)
???
うん、草原に生えてた花だってことはわかるわよ。いちいち表示しなくたって……。ん? ちょっと待って。これ!
「アダムさん! これよく見て!」
「えっ? お、おぉぉぉ! 食用って出てるじゃん!」
「だよねだよね? どう食べるのかわからないけど……」
「う~ん、まだそこらに生えてるし、俺が味見してみてもいい? 毒味も兼ねてさ? 結構お腹丈夫なんだよね」
「えっ? 大丈夫? 無理しないでね?」
出会ったばかりだけど、アダムは道中遅れてないか目配せしたり、足元の悪いところを避けたりと私のことを気配ってくれているのがわかる。今回も食用と見て喜んだものの、食べて大丈夫か表情に出てたのかもしれない。率先して味見をかって出てくれた。なんだか申し訳ないなぁ。大丈夫か聞いたらサムズアップしていい笑顔で答え、迷わずつぼみを一つ千切ると咀嚼し始めた。
「おぉ、ほんのり甘い。蜜の味って感じ、大丈夫そうだよ?」
「ほんと? じゃぁ私も……。あっ、ほんとだ! 甘い……」
二人して花のつぼみをゆっくりと噛みしめる。異世界っぽいところに来て初めて出会った食糧が花って何よ。あの神様には今度あったら文句の一つでも言ってやらないとね。じんわりと水分と甘みが口に広がったことで、安心から目尻に涙が溜まった。同じような気持ちだったようで、お互いに目尻の涙は見て見なかったふりをした。少し霞む視界に観察眼11とでていたけど、今はどうでもいい気分だった。
それから夜の蚊帳が降りないうちにと、歩き始めると、切り立った崖のような岩場が目に入る。似たような光景に嫌気がさしていた私達は、やっと起きた変化に目を輝かせた。しかもだ。
「水の音がする……」
「なんとか……生き延びれそうね……」
手当たり次第に摘んだ花を握りしめながら感慨に耽るが、安全が確保できたわけではないので頬を張って気を引き締める。
「飲めるかどうか試さないとな。また俺から試そうか?」
「あはは、さすがに喉がカラカラ。見た目危なげじゃない限りは飲むわよ」
苦笑しながら、気持ち足早になり近づくと、夕暮れに照らされ茜色に輝く小さな川がそこにある。お互いにじっっと水面を見つめる。
・きれいな水(川の水)
???
きれいなって……。汚いとか危ないってついてないから大丈夫ねきっと。手で掬い上げると、がぶがぶと水を飲む。食用の花を食べたといっても、僅かな水分では口渇は収まらなかった。けど、冷たくてこの水は美味しい。ばしゃばしゃと顔を洗って気分まですっきりさせると、ばしゃんとそのまま浅い川に座り込んでしまった。
「うぉっ! 大丈夫?」
「ごめん、水かかっちゃった? もう足がパンパン! 今日はこのあたりまでかな?」
「全身自分から浴びてたし問題ないって。俺もさすがに疲れた。限界だよ」
困ったような顔をしながら足を擦るアダムさん。私は後ろからついていっていただけだけど、周囲や後ろの様子まで気にかけながら歩いていた精神的負担は計り知れないだろう。今も私の様子から自分も限界だって言って気遣わせないようにしたみたいね。気づかいはできるけど嘘が下手な人だなぁ。
「さって、あとはまともな食料と火か。どうしたもんかね」
「花だけじゃお腹は膨れないし、火を起こすにも道具らしい道具もないしね。この岩場の先から木がチラホラ見えるから、枯木ぐらいなら集められそうだけど」
周囲をお互いにキョロキョロと探って、これからどうしようか思案していると、あたりが暗くなったことで、川の上流のほうにうっすらと灯りが見える。彼も気づいたみたいで、真剣な表情で私の眼を見ながら言った。
「人がいるのであれば、接触してみよう。このまま何も知らなくて大丈夫な保証がなさすぎる」
「えぇ、同感ね。まともな人であることを祈るわ」
お互いの唾をごくりと飲み込む音が、夜の蚊帳へと溶け込み、消えていった。