表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

君の居ない夜は何かが足りない

作者: 春日シュン

今日の夜は静かだ。他の日とは比べ物にならないくらいに。眼前には二人分の酒とつまみ。

「最期の夜だってのになぁ…」

そう呟きながらつまみを食べる。

「…やっぱり君のいない夜は何かが足りないな…」

こんな時、あの日のことを思い出してしまう。後悔してしまう。

君との最後の闘いをを。

君との最後の思い出を。

▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂

「おーいもう行くぞー」

「あいよー」

「随分長い糞だったな」

「うっせ」

他愛もない話をしながら僕らは街を歩く。

「アレは持ったか?」

「とーぜんさ!」

「武器のメンテナンスは?」

「バッチリ!」

「薬は?」

「勿論!」

「よし、じゃあ行くか」

こんな話をしながらどこに行くのかと言うと、

魔王の城だ

そして僕らは…んまぁいわゆる冒険家とかいうものだ。冒険家といっても基本は採取、調査。たまに増えすぎた魔獣の討伐などがあるが。

この世界は魔人とか人間とかが共存している世界だ。

いや…「だった」と言うべきか

いきなり魔人を統べる王、魔王が暴れだしたのだ。原因は不明。そのせいで魔人の国と密接な関係を築いていた人間の国はかなり困っているらしい。

もちろん、人間の国は原因を探そうと、何人かの冒険家を雇い原因を探したが、収穫は何もなし。冒険家達は全員無残な姿で帰ってきた。

このことを重く受け止めた国は有名な冒険家にこの事態を何とかしてもらおうと思ったのだ。

そこで声をかけられたのが僕達だ。

僕らは何ヶ月もかけ情報を集めた。そしてココ最近やっと有力な情報を得たのだ。

そしてここ数日は、魔王の城に1番近い村で休息を取っていたのだ。

「なぁ、もし俺らが魔王を何とかしたらこの旅も終わりだよな?」

「もしなんて言うなよ。…んまぁ確かに魔王を何とかしたらこの旅も終わりだな。」

「この旅も色々あったな…」

「あぁ…そうだな…」

確かに言われてみれば本当に色々あった。

妖精に毒を盛られかけたり、

馬を手に入れたり、

いい武器が手に入ったり、

「あのさ…君はこの旅が終わったらどうするんだ?」

「俺?俺は…またいつもみたいにお前と村でのんびり過ごすよ」

「だよね。…僕も君とずっと一緒に居たいって思ってるよ…」

「うわぁぁ…その言葉を女から聞きたかったわ……俺もだけど…」

「そっちもツンデレ発動させないで」

そうして他愛のない話をしながら僕らは馬に乗りながら道を進む。

▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂

「ここが…魔王の城…」

隣で君がそんなことを言う。僕は頷くことしか出来なかった

何せとてつもなくデカイのだ。これでは開いた口が塞がらなくても仕方あるまい。ゆうに人間の国の城の3倍はあるだろう。

「…入るぞ…」

隣で君がゆっくり頷いた。僕は取手に手をかけ扉を開く

扉は重々しい音を立てながらも簡単に開いた。

▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂

魔王がいると思われる謁見の間はさして苦労することもなく見つかった。なんせ門を城内に入って真っ直ぐ進むといかにも豪華な階段があったのだ。そして階段を登ればこれまた豪華な扉。これもとてつもなくデカかったが。

「開けるぞ、アレの準備をしとけよ…」

「あぁ…お前もここでやらかすなよ…?」

扉からはグチャグチャという音が聞こえてくる。不審に思いながらも扉はギィィと音を立てて開かれる。するといきなり鉄のようなの匂いが僕らの鼻に飛び込んできた。鼻をつまもうとしだが、目に飛び込んで来た光景がそれを許さなかった。

一面血だらけなのだ。

そして周りには無残にも殺されてしまった魔人達の骸が転がっている。

僕らは目を見開いて驚いたが君がゆっくり進み出したので僕もゆっくり進む。一歩踏み出す度にグチャグチャという音が大きくなる。

そして玉座の前にたどり着いた時、今まで暗闇で見えなかった王の姿がようやく見えてくる。

「ヴウウウウウウウ…」

「あれが…魔王…」

「とても見れたもんじゃねえな…」

そう、魔王はその服を血で真っ赤に染めていたのだ。魔王は僕らに背を向けたまま魔人の死体を貪り続けている。

「アレを用意してくれ」

「分かった」

君の声は少し掠れていたがまだ心は挫けていないようだ。

君がポーチを探るのを確認しながら魔王と会話をしようと試みる

「魔王よ!一体貴方様に何があったのでしょうか!」

………

魔王は唸り声を上げながら死体を食べ続けている。

「会話は無理か…アレはもう大丈夫か?」

「あぁ、バッチリだ!」

その声を聞いて僕も決意が固まる。

「よし、行くぞッ!」

僕の声で2人同時に魔王に対して駆け出す。足音に反応したのか気配を感じとったのか分からないけど魔王がこちらを向く。そして君がポーチからアレを取り出す。

聖火だ。この火は燃やしたものの邪なる部分を燃やし、引き剥がすという。聖火は普段神聖なる妖精によって管理されているが、今は小瓶に入っているが。なんでも、「悪しきものがこの世に現れた時、勇者に与える」らしい。

「今だッ!」

君が叫びながら聖火の小瓶を魔王に投げつける。作戦は見事に成功。魔王は聖火によりもがき苦しんでいる。

「聖なる火よ!魔王の邪なものを燃やし尽くせッ!」

…だが、

「何っ!?」

魔王が苦しむのをやめピタリと動きを止めたのだ

「ヴウウウ…ヴウアァァァァァ!!!!!!!!!!!」

そして魔王がいきなりさけんだと思うと魔王の体から白いものが抜けて君の体に入り込んでいく

「何ッ!?」

「グッ…!?グゥゥ… グァァァァァ!!?」

そしてうめき声を残して君が倒れた。

だが直ぐに立ち上がり、叫び声もなくなった。

「……………おい、大丈…グアアッ!!?」

君は白いオーラを出したと思ったらいきなり殴りかかってきたのだ。

「オイッ!何をするんだ!やめろ!」

何度も呼びかけるが反応はない。ただ淡々とこちらを攻撃している。こっちも考えなければ。

恐らく向こうが攻撃してくるのは魔王から出てきた白いオーラのようなものが原因だろう。だって現に魔王は床に倒れてピクリともしない。

しかもどうやらあの白いオーラは戦闘力まで強化するようだ。昔から暇な時は修行の一環としてずっと戦ってきたのだから僕には分かる。

「このままじゃ防戦一方だ…なにか…なにかないのか!?」

聖火はあるにはある。しかしそれを使ってしまえばもしかしたら今度は向こうが動かなくなってしまうかもしれないし、白いオーラが俺に移動してきたらそれこそ終わりだ。

「となると…やっぱこれしかないのか…?」

そう、まだ手はある。

僕の持つ武器、「封印剣レガルドナス」だ。

この剣は文字通り相手の存在を封印し、無理やり魂を天に届けることが出来る。剣の犠牲と僕の血と幾ばくかの寿命と引き換えに。

しかしこの技を使ってしまえば君はもう戻ってこないし、僕もタダでは済まない。

「クソっ…!他に手はないのかよ…!?」

(その剣を使え!)

虚空から聞こえる声。その声は聞き覚えがあった。

「!?君か!どうやって!?」

(少しずつやつの力が弱まってきてる、そんでそこに割り込んでお前に話しかけてる訳だ…っと、無駄話してらんねぇ!また力が戻ってきてやがる!早く剣を使え!)

「だが剣を使えば君が!」

(構うなッ!さっさと俺を封印しろ!でなきゃお前が死ぬぞ!それにこいつはやばい!このままじゃお前だけじゃなくて世界中の人が殺される!)

「嫌だ!」

(うるせぇ!早く使わねぇとぶっ飛ばすぞ!)

「嫌だ…!君と離れるのは…絶対に嫌だ!」

瞬間、飛んでくるパンチ。これを躱しきれず頬に受ける。その痛みは懐かしいようで全く違う気がした。

(頼む…封印してくれ…!)

▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂

僕は孤児だった。親は軍隊員だったが僕が5歳の時に任務中に殉職。その後僕は孤児院に引き取られたがその孤児院内で虐めを受けていた。

けどそんな時に同じ孤児院の君が

「こんなとこ早く出て一緒に冒険家になろう!そんで大金持ちになってあいつらを見返してやるんだ!」

冒険家になる。その言葉に僕は心を奪われた。そして君と冒険家になる為に修行と称してトレーニングしたりチャンバラごっこをした。

そして冒険家として正式に認められる10歳のある日僕らは憧れの「冒険家」になった。

それから15年。君とずっとどんな任務も一緒にこなしてきた。

▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂

「そんなこと…出来るわけないだろ!」

鍔迫り合いの状態から君を大きく吹き飛ばす。

「ハァ…ハァ…ッ…君と離れたくないんだ…今までみたいにバカやって…楽しくご飯食べて…色んな依頼をこなして…それで…それで……」

途端ぼやける視界。それが涙だと気づくのに少し時間がかかった。

(お前…)

こんなことをしてる間にも君は立ち上がり、僕に攻撃しようとしている。

(おい、コーダイ。)

その声が僕に対して言ったのに更に数秒を要した。君が僕の名前を呼ぶのは何かあった時か大事なことを話す時だけだ。

「なんで…今更名前なんか…」

溢れる涙を拭いながら続く言葉を聞く。

(この俺、ユーキがお前にとある依頼をする。内容は速やかに俺の事を封印すること。報酬は世界の平和とお前の命だ。)

「こんな時に何言ってんだよ…」

(俺は冒険家としてのコーダイに依頼する。もし失敗すれば世界は破滅。当然お前の命もない。)

「…なんつー依頼だよ……フフっ」

こんな時だってのに僕はなんで笑えるのだろう。しかも泣きながら。

君が僕の名前を呼んだせいで断る気もしなくなってきたじゃないか…

(…やってくれるな?)

「…ああ。やってやるよ…このコーダイがあなた、ユーキの依頼を受けた!」

もう、躊躇はしない。涙も見せない。見せてしまっては君に失礼だから。

「…レガルドナス、出力全開。」

周りから光が浮き上がり、足下に巨大な魔法陣が展開されるこれはレガルドナスの力であり僕の血であり寿命の輝きだ。

(嗚呼…綺麗だ…)

そしてそこで君の声は途絶える。どうやら力が戻ったらしい。そのまま君は僕に対して突っ込んでくる。

「…来世とかでまた君と出会えるかな…」

そんな言葉を零しながらタイミングを合わせて剣を君の胸に突きさす。

途端、レガルドナスから膨大な光が溢れ君を飲み込む。既に手にレガルドナスの感触はなかった。

(…ありがとう…)

そんな言葉が光の中から聞こえてくる。光は君を飲み込んだあと収束し、弾けた。

残る静寂。孤独な時間。いつもそばにいた君の姿はもうどこにもない。その事実を理解した時

泣いた

大声で泣き叫んでやった。喉よ裂けよと言わんばかりに。

そして僕は泣き疲れてそのまま意識を手放した。

▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂

「…ここは」

そう、ここは魔王の城。激戦を繰り広げた場所。そして、

「…………依頼は完了したよ…ユーキ…」

ここにはもう居ない君の名を呟く。

「…どうしてこうなっちゃったのかなぁ…」

答える人は誰もいない。

放心しながら辺りを見回すと君の剣があった。恐らく、僕が吹き飛ばした時に剣も君の手から離れていたのだろう。

「ユーキ…?僕頑張ったよね…?」

剣を抱きながら呟く。なにかの物足りなさを感じながら。

▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂

その後の展開は早いものだった。僕が君の剣と共に街に戻ると民衆から大喜びで迎えられた。

王はしばらく何もしなくても困らないだけの金銀財宝を俺に与えてくれた。高い地位を与えられそうになった時はさすがに断ったが。

魔人国は魔王があのオーラに乗っ取られてたことを、それを僕らが倒したことを知り魔人国からもなにか与えたいと申し出たがこちらも断った。

魔王は白いオーラが抜けたあとピクリとも動かなかったがやはり死んでいたようだ。あのオーラはどうやら古代の災厄とも呼ばれたもので、宿主の力を吸い取りまた別の人に宿り力を吸い取りを繰り返し、一定の力が溜まるととんでもない大爆発を引き起こすと言う一種の霊の様なものらしい。その爆発は大陸二つを消せるぐらいの威力らしい。

魔人たちは次の魔王は誰になるのかだったりで忙しかったが最近やっと落ち着いてきたようだ。

そこで新しい魔王に庭に君の墓を作って欲しいと頼んだ。魔王は快く受けいれ、中庭に君の墓を作ると言ってくれた。

僕は王から貰った財で小さな家を建てしばらくそこに一人で過ごすつもりだ。どうやらレガルドナスが使った僕の寿命は多く、あと数年しか生きられないらしい。

けど、それでも僕の物足りなさが消えることはなかった。

▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂▂

「懐かしいなぁ…」

そんな言葉を零しつつ回想を終え酒を飲む。

「なあ、そっちはどうなんだ?もうそろそろで行けるからなぁ…気になってしょうがないよ…」

今日は君の命日。そして運のいいことに僕の命日にもなる日だ。

「そっちの酒は美味しいのか…?でもやっぱ君と一緒に呑むのが一番だよね…」

まるで君に話しかけるように君の剣に語りかける。

そのまま他愛のないことを語りかけていると体の一部の感覚が薄れていき、そこから小さな光が溢れてくる。どうやらとうとう寿命が尽きるらしい。普通、人は死んだら遺体が残るが、レガルドナスを使った場合はこのように体が光となって天に昇るらしい。

「………そっかぁ…足りないものって君のことだったんだなぁ…気づくのが遅すぎたなあ…」

我ながら本当に遅すぎる。君と一緒にいる時は常に僕が考える側だったのに。

「嗚呼…やっとそっちに行けるよ…」

その声の主は大きな満足感と小さな光を残して消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ