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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
第三部 王都編
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第十二話 暴君様?再臨・後編

なんと、ヤルンの目標のゴールテープが目の前に! 無事にゴールイン出来るでしょうか??

 え、今、なんて言った? なんかするっと凄いこと言わなかったか……?


「ききき、騎士? 今、騎士見習いって言いました!?」


 俺の見事な食いつきっぷりに満足したらしい。セクティア姫は「当たり前じゃない」と請け合い、二杯目の紅茶を一口含んでこくりと飲み下す。


「私、これでも王族よ? 王侯貴族を主人にして、仕えるのが騎士でしょ。中には領地を与えられた騎士もいるけれど、あれだって間接的に国王に仕えているのと同じよ。領地に団員を抱えて、何かあれば王都に馳(は)せ参じるのが使命だもの」

「じゃあ、じゃあ、セクティア様に仕えれば、俺は騎士になれるってことスか……!?」


 ほぼ確定と思いつつも、確かめずにいられない。不安と期待が半々の眼差(まなざ)しで俺は答えをじりじりと待った。


「そういうこと。私は気心の知れた護衛役を得られて幸せ。貴方は、見習いだけど騎士になれて幸せ。ねぇ、悪い話じゃないと思わない?」


 急展開に頭がくらくらした。悪い話どころの騒ぎじゃないぜ。今、目の前には夢にまで見た憧れの「騎士」への道が開けていて、手を伸ばせば届く距離にその道への切符(きっぷ)がぶら下がっているのだ。

 本音は、一息に飛び付きたい。こんな好条件の話、そうそう転がっているものじゃないからだ。訓練期間もくれるというし、様々な人材や物資が集まる王都は腕を磨くのにもってこいの環境だ。


「あぁ、宮廷魔導師の方が良かったら、そっちで手配するわよ?」

「イエ、そこは騎士でお願いシマス」

「そう?」


 危ない危ない。ここまできて劇的! 進路変更をされたら後悔しきりである。しっかり断っておかなければ、兵士見習いの時の二の舞はまっぴら御免(ごめん)だ。


「うーん、ちょっと性急過ぎたかしら。私、いつもそうなの。夫にもよく叱られるわ」

「有難いし、嬉しいんス。でも、本当に俺に務まるのかって不安もあって……」


 っていうか、護衛対象がこの人だろ? そこもネックだよなぁ。

 俺は何かを避けるように目線を膝へと落とした。運命の決め時だろうに、怖気づいてしまう自分が悔しい。キーマやココはどう思うだろう? という懸念(けねん)もある。応援してくれるだろうか。


 お互い兵士なのだから、生死に関わらずとも永遠に一緒にいられるわけではない間柄だ。きっといつかは、どこかでバラバラになるだろう。けれど、俺にとってはそれなりに大事な仲間だし、「その時」までは一緒にいたい気もする。


「……」


 しんみりとした空気がしばし流れ――ぶち壊す人がやってきた。


「ヤルンよ! お主を手放す気は一切ないぞ!」


 ばーん! と扉を盛大に開けて入ってきたのは……赤ら顔をした師匠だった。げっ! この人のことすっかり忘れてたよ。だって思い出したくなかったから!


「し、師匠っ? どうしてここへ」

「どうしたもこうしたもないわい。お主が訓練に来ないと聞いて、わしが放置すると思うたか!」

「それは……」


 思わない。師匠が訓練を休ませてくれるとか、全然考えられない。

 だからって城の奥まで追いかけてくるなんて思うかよ! 途中、何人も見張りが居ただろ、どうやってセキュリティ突破したんだよ!? 問い詰めるのも怖過ぎるぞ!


「こ、これは俺の問題です。師匠は関係ないんだから、放って置いて下さいよ。訓練なら後で補習受けますから」

「何が『関係ない』じゃ。わしはお主の師匠で、上官で、保護者じゃろう。お主の全てを決める権利がある!」


 はぁ? ホラを吹くんじゃない。師匠で、上官で、保護者……は微妙だが認めるとしても、俺の進路まで決める権利があるものか。


「いくら師匠でも、王族の命令を蹴る権利なんてないでしょーが!」


 がばりと振り返ると、セクティア姫が「ごきげんよう。お久しぶりですね」とにこやかに手を振る。今のやりとりを前に冷静に挨拶出来るなんて、まさしく鋼の心臓の持ち主だ。

 師匠はさも今気づいたように「これはこれは」と腰を折った。


「お久しゅうございます。騒々しくて申し訳ありませんのう。この馬鹿弟子は私めが責任を持って引き取りますので、どうぞご容赦のほどを」

「ちょ、何勝手に決めてんスか!」

「あら、困りましたわ。私、ヤルンには是非とも護衛役を引き受けて貰いたいのですけれど」


 いいぞー! しなしなしててちょっと気持ち悪いけど、そのまま押せ押せー!


「まことに残念ではありますが、そうは参らぬ事情がありましてなぁ」

「……師匠として弟子のことが心配というわけですか。でしたら、貴方もご一緒に城勤めをなさっては? 私から推薦しますわ」


 うっ、その条件はどうなんだ? でも他に抜け道もなさそうだし、呑まなきゃ駄目かな。師匠とはどこまでも一緒、って言われているみたいで嫌な感じだ。


「いえいえ。老いた身に余るほどの有難いお話ではありますが、今お仕えしているスウェルの領主様には大変お世話になっておりましてのう。拾って下さった恩を返さぬうちは、かの地の軍属を離れるつもりはありませんのじゃ」


 えっ、そうなのか? 初めて聞いたぞ、そんな話。じゃあ俺にくっていて王都くんだりまで足を運ぶのはOKなのかよ。恩、返せてないぞ。


「だったら、やっぱり俺だけで王都に残って……」

「お主は何も分かっておらぬのう」


 溜め息混じりに言われ、ぽかんとする。じいさんは何を嘆(なげ)かわしそうに首を振っているのだろうか。姫も話の行方が気になるらしく、ひとまず口を挟むのをやめて話を聞く体制になっている。


「何が分かってないって言うんスか」

「お主は、わし抜きでこの先、どうやってその魔力と付き合っていくつもりだと聞いておるのじゃ」

「魔力? 付き合い……?」


 全く意味不明だ。魔力ならきちんと制御出来ている。それに、今後も城で色々と学べば、きっともっと上手くなるはずだ。


「本当に困った奴じゃのう。自分でちいとも気付かぬとは。腕を見てみよ」


 すいっと降られた師匠の手につられ、全員の視線が俺の腕に嵌(は)められた腕輪の石に集中する。禍々(まがまが)しい、赤黒い輝きが変わらずそこにある。

 「これは」と漏(も)らしたのは、今まで完全に影に徹していたシンという男だった。


「シン、何か気付いたのなら教えて頂戴(ちょうだい)。この腕輪がどうかして?」


 シンは「セクティア様のお望みとあれば」と前置きして、静かに意見を述べた。


「その腕輪は魔導士の魔力量を測り、抑えるためのものと記憶しております。そして、ヤルン様の石をお見受けする限り、かなりの魔力をお持ちと。私もこれまで何人かの魔導師の方とお会いして参りましたが、これほどの色は初めて拝見します」


「それはつまり、ヤルンの魔力が多いということよね。凄いわ」


 素直に感心する姫の向かいで、俺は背筋に冷たいものを感じていた。シンは王宮深くに勤め、王族に直に接する人間だ。当然、名高い魔導師と顔をあわせる機会もあるはずだ。

 その彼が、「これほどの色は初めて拝見」するだって……?


「ようやく気付いたようじゃのう。お主ほどの魔力を持つ人間は、この王宮にもおらぬのじゃ。魔力のコントロールの方法を教えてやれる者も然(しか)り」


 そんな馬鹿な。だって、ユニラテラ王国は軍に力を入れていて、魔導師兵も多く抱える国じゃないか。その中枢(ちゅうすう)に、俺を指南出来る人間がいない?


「魔力量が違い過ぎれば、うまく導いてやることは不可能じゃ。お主が万が一、術を暴走させた時には防ぐすべもないしのう」


 暴走。たとえば、以前の火事現場の時のようなパターンだろう。あれだって、俺と拮抗するくらいの魔力か、魔術の熟練度がなければ防げなかったと言いたいのだ。


「それにもう一つ、気付いていないことがあるぞ」

「これ以上、他に何が……?」


 自分で完全にコントロール出来るようになるまでは、師匠の庇護下から解放される日が来ることはない。その事実に打ちのめされて項垂(うなだ)れモードの俺に、師匠は更なる波状攻撃を仕掛けてきた。文字通りトドメの一撃である。


「お主の魔力は未だ増えておる途上じゃ」

「……はい? ふ、ふえてる? 増えてるぅ!?」

「わしの見立てでは、見習いになりたての頃のお主は、腕輪でいうと薄い赤くらいの魔力だったはずじゃ。それでも十分に多かったがの。三年と経たず、これほどまでに成長するとは」

「どどど、どうしてっ? だって魔力は生まれつき決まってて、増えないって言ってたじゃないスか! 増えてもちょっとだけだって!」


 有り得ない有り得ない。今だって十二分に持て余しているのに、増えてるって何だ。どーなってんのこの体は? 衝撃の事実パート2に焦りまくる俺に、師匠は髭を撫でながら、こともなげに告げた。


「元の量が多いから、『ちょっと』の幅が大きいのかもしれぬ。安心せい、もう少ししたら落ち着くじゃろうて」


 それって、今後もまだ更に増えるってことじゃねぇかよぅ! わぁあぁぁあ!



「元気出しなよ」

「うぅ、無理……」

「はい、替えのハンカチ」

「さんきゅ……うぅうぅ」


 キーマから受け取ったハンカチで顔をぐしぐしと擦る。ものの見事に爆砕した俺は、帰り着いた自室のベッドで泣きに泣いた。夢に手が届きかけたのが魔力のおかげならば、その扉をぴっちりと閉じたのも魔力だなんて皮肉過ぎる。

 

 涙は後から後から流れてきてしまい、キーマが訓練から戻って来るまでには持ち直そうと努力したのだが、現実が辛すぎてどうしても無理だった。

 キーマも初めて見る俺のマジ泣きを前には、からかいの言葉も出なくなってしまったらしい。こうして先程からハンカチを何枚も差し出してくれる。明日は洗濯しまくり決定だ。


「話が完全に消えたわけじゃないんでしょ?」

「ほ、ほりゅうに、して、くれる、って」

「なら良かったじゃん? 就職内定ってことでさー」

「よぐ、ない!」


 いつ入れるか分からない就職口なんて、空手形(からてがた)もいいところだ。そんな不確かな幻で、心に空いた大穴を満たせるものか。魔力問題が解決するまでは一人でどこに行くのもお預けってことなんだぞ!

 収まりかけていた腹が再び煮えくり返ってきたら、またしても涙がぐわっと下目蓋を押し上げてくる。


「あちゃあ、重症だなぁ。頼むから部屋を吹き飛ばさないでよ?」


 そう思って俺も一生懸命堪(こら)えているのだ。激しい感情のせいで体内の魔力が盛大に揺れているのを感じる。多少周囲に漏れてしまっているらしく、棚や物がコトコトカタカタ音を立てた。


「うぐぐ……」


 当面出来るのは、枕に齧(かじ)り付いて歯を食いしばることくらいだ。必死に掴んでいる精神の手綱を放したら、暴れ馬みたいに飛んでいってしまいそうな気がする。お願いだから刺激しないでくれ。


「それで、明日はどう説明するのさ? 他の皆はともかく、ココはヤルンを心配してたんだから、ちゃんと話してあげなよ?」

「!!」


 わぁ、そっちはまだ何も解決してなかった! やがて訪れる明日を思い、俺は余計に頭を悩ませることになるのだった。

はい、紆余曲折ありましたが、結局駄目でしたー。一足飛びにゴールとはいかないみたいです。でも、道は細く繋がっています。

いつか辿り着けると良いね! というわけで、おまけを挟んで第四部へ突入です!

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