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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
第三部 王都編
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第四話 お馴染みの光景・前編

またもや困った人達に絡まれてしまいました。デジャヴ感が凄いですが、ヤルンは成長しています(?)。

※ご指摘を頂き、前編の一部を改稿しました。

 毎日の訓練はキツかったが、充実してもいた。

 習慣化さえしてしまえば、じょじょに疲労を翌日へ持ち越さずに済むようになってきたし、同じメニューをこなしても疲れにくくなってきた。基礎体力が上がってきているのだろう。


「最近、息切れしなくなったなぁ」


 キーマが呟いた時、俺も初めてそのことに気付いた。走りこみも運動も、いつの間にか途中でぶっ倒れる奴がいなくなっていた。次へ移動するまでのちょっぴりの時間、誰かが言う。


「ここんとこ、怒鳴(どな)られる回数が減ったよな」


 そうだな、と同調する声が上がった。その中には、ここに来てから一緒に訓練するようになった、別の地方から来た訓練生も混じっている。


「前はしょっちゅう『休むな!』とか、『そんなことでは使い物にならんぞ!』とか言われてたもんなぁ」


 ははは。小さく笑いが起き、「言われてたのはお前だけだろー?」なんて茶化す奴も出て盛り上がる。出身なんて関係ない、良い意味でのバカな付き合いだ。

 けれども、今でこそこうして呑気に喋っているが、顔合わせの頃はとても和やかムードなんてものじゃなかった。



「おい、お前ら新入りだろ?」


 どこかで聞いたような台詞を吐きながら、そいつは話しかけてきた。ちょうど初日の訓練を終え、疲労困憊(こんぱい)だった時だ。

 俺とキーマ、そしてココの三人は宿舎内の食堂の隅でへとへとの体に(むち)打ち、夕食を口へ詰め込んでいた。


 宿舎一階に設けられた食堂は掃除が行き届き、焼いたパンの(かぐわ)しい香りで満ちていたが、今すぐベッドにダイブしたい人間には感慨を抱く余裕など皆無。味だって分かったものじゃなかった。

 許されるなら、翌日はずっと寝ていたい。そんな気分だったのだ。


「そう、スけど。何か御用ですか?」


 あーあ、完全にデジャヴだな。俺は内心のイライラが表に出てしまわないよう努めながら、反射的に腕輪の石を手で隠した。さっとココにも合図を送る。面倒の種は潰すに限る。

 明らかに相手はこちらを見下していた。気持ちが良いものではないが、初対面だし、新入りなのも事実である。それに、いきなりガンを飛ばして火花の散らし合い、なんて展開はいかにも安っぽいと思った。


「後から来たってのに、挨拶もナシたぁどういうことだよ」


 ざっと観察すると、向こうは三人組で年齢は同じかチョイ上くらいか。どちらにしろ、服装や胸のバッジからして同じ訓練兵だろう。ちなみに一人は剣士、あとは魔導士で、その片割れがリーダーらしかった。


(しつけ)がなってねぇなぁ」


 ちらりと視線をそれぞれの腕に走らせれば、リーダー各を気取るヤツの石は上から三番目の薄い緑。もう一人は更に下の黄色か。こりゃ、()()()()ないとな。


「はっ、一体どこの田舎者が入り込んだんだか」


 耳障りな声でそいつらは口々にさえずった。断言する。見分けなんぞ付かないくらいのチンピラ連中だ。

 立ってるだけならスマートに見えもなくもない。しかし、口を開いた途端に見てくれで補っていた品位を全てドブに捨ててしまっていた。


「あの、挨拶なら訓練の時にしましたよね?」


 いつもの呑気な調子でキーマが首を傾げると、馬鹿の一人が「何言ってんだコイツ」と呟いて睨んだ。


「聞いたか、今の」

「聞いた聞いた。ありえねぇ」

「だよなー」


 お前らこそ、どこのチンピラの国から来たのか自己紹介してくれよ。どうやら『お馬鹿三人組』はイコール『ど阿呆三人組』だったようで、キーマの言葉を額面通りに受け取ってせせら笑っている。


「礼儀ってものが分かってねぇらしいから、特別に教えてやるよ」

「兵士ってのはな、上下関係が大事なんだ。新入りはお世話になる先輩に、キチンと挨拶して筋通さなきゃいけないんだよ」

「分かるか?」


 あぁ、三人目に喋った黄色い石持ちの魔導士が一番の下っ端で、絵に描いたような腰巾着(こしぎんちゃく)なのは分かった。目を()ると、キーマは当然(こた)えていなかったし、ココはただただ呆気に取られている。


「それって、センパイ達も同じようにしてきたってことスか?」

「あたり前だろ。知らない奴はここじゃやっていけないぜ」


 剣士が「なぁ?」と聞き、連れが同調する。裏返せば、今の答えは「ワタシタチも(いじ)められました」と自白しているに等しい。同じ目にったなら、それくらい察しが付きそうなのに。

 これでは、いくら王城といえども大したこともないのかもしれない。


「……」


 がたっ。音を立てて椅子から腰を浮かすと、そいつらは思ったより背丈も低く、俺と同じくらいだった。デカいのが態度だけとは、つくづくつまらない奴らだ。


「な、なんだよ」


 旅の間に学んだことは、戦いにおいては感情をむき出しにした方が負け、という事実である。少なくとも、かなりの手練(てだれ)かキレちまった奴以外の場合はそうだ。


「いぃえ? センパイ方、さぞお強いんでしょうね」


 俺はにこりと笑ったつもりだったが、後でキーマが「あれは冷笑だったよ」と評した表情で問いかける。ちぇっ、この辺りは、まだまだ修行が足りないか。


「ボクはご覧の通り魔導士なんですが、まだまだ見習いに毛が生えたような若輩者でして。ぜひ、センパイ方のお手並みを拝見したいのですがね」


 これも後で聞いた話。「ボク」という俺に、キーマ達は寒気を感じたのだとか。放っとけ! ここで(うやうや)しく一礼してみせる。それは慇懃無礼(いんぎんぶれい)を地で行く、分かりやすい挑発だった。

 師匠みたいな一流が相手なら、あっさりとかわされて逆に頭を撫でられてしまうような手だ。そいつらは予想通り、見事に引っかりやがった。


「そいつはいい。一つ見せてやるか」


 リーダー格の魔導士が不敵に笑った。馬鹿にされたことに腹を立てるなら見込みはあるが、気を良くするなんて救いようがない。


「いいぞ」

「やれやれー」


 他の二人も(はや)し立てているのを見て、いよいよ頭が痛くなってきた。ガキの頃でも相手をするのが嫌になって逃げ出しているところだ。


「じゃあ、『炎の術』を見せてやろう」

「えっ、ホントですか? 嬉しいなぁ」


 あ、まずい。呆れ返り過ぎて台詞が棒読みになってしまった。演技だとバレるかもしれない。


「そうだろそうだろ」


 って、気づいてねぇし! どうしよう。後頭部を殴りつけてやったほうがコイツのためか。いや、でも炎の術は火属性の上位魔術だ。本当に炎を操れるなら、魔術の才だけはそこそこあるのかも……?


「いくぞ」


 言って、口の中でもそもそと呪文を呟き、腕を振り回す。随分と大げさな仕草だ。

 実戦では最小の動きで最大の効果を発揮することが理想で、訓練もそのために繰り返し行う。こんな狭い閉鎖空間で結界もなしに大技を出す訳にもいかず、となると全ては演出に過ぎないということになる。


 分かった。曲芸師を師に(あお)いでいるんだな。そうに違いない。


「はっ」


 やがて、突き出した指先にぽっと小さく火が生まれた。次いで、他の指にも同様に火を灯す。まるで生き物みたいに光りながらゆらゆら揺れている。


「どうだ。これをちょいと飛ばせば、お前なんてすぐに炭になっちまうぜ」

「そ、そうッスね」


 口元が強張ってうまく返事が出てこない。それを怯えと捉えたらしいソイツは、べらべらと口上を述べ続ける。


「オレの家は代々魔導師の家系でな。ガキの頃から教え込まれてきた。そこいらの奴とは比べ物にならねぇんだよ」

「……」


 どう答えてよいか分からず、俺は完全に絶句してしまっていた。男の言葉が事実なら、魔力を抑える腕輪の効果を加味しても目の前の光景はあまりにお粗末だ。

 代々魔導師で、しかも幼い頃から手解きを受けてきた上でこの程度では、ココはおろかウチの同期の他の連中にだって遠く及ばない。


 そう思って、男の手首を再度確認すると、やはり石の緑は薄い色しか放っていなかった。

緑は普通なら並の色ですが、薄い場合は特に魔導師の家系出身者では魔力が低い方です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最初に主人公は石を隠すが、相手の石は最初に確認しない 確認しない理屈は何だろ? 主人公が石を隠さない→相手の石を確認しない 魔法が弱い→そうだ石…緑! これなら、不思議でも何でも無い…
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