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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
後日談Ⅱ 帰郷偏
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最終話 空からの訪問者再び、そして・後編

これにて後日談も終わりです。よろしくお願いします。

 帰り着いてみるとまたもや見張りが立てられていて、後は以下同分だ。この流れマジで何度目だよ? 毎回、いつ帰ってくるかも分からない人間を延々待たされる兵士の身にもなってやれっての。

 セクティア姫の部屋に連行されてみれば、彼女はピリピリと痛むらしい米神を指で抑えながら言った。


「貴方、このお城に一体何をしたのかしら。正直に言いなさい?」

「へっ? 何をって、別に何もしてな」

「嘘をおっしゃい」


 言いかけたこちらを遮り、即座に断じてくる。いや、本当に何もしてないって。俺が嘘をついているかどうか、お姫様には分かるだろ?


「なら、どうして貴方がウォーデンから帰ってきた直後に、城内の木や花が急にグングン伸び始めたのよ」


 彼女はそう言い、手近にあった花瓶を俺に突き付けてきた。「わっ」と驚きが口から飛び出る。

 活けられていたらしき青い花の(くき)が二倍以上に伸び、自分の重さに耐えられずに無様にでれんと曲がっていたからだ。葉も肥大化していて、お化けみたいで気持ちが悪い。


 聞けば、城中の植物が似たような状態らしかった。ええっ? どうしてこんなことに……あ。


「やっぱり心当たりがあるんじゃない」


 ピンときてしまった。わわわ、これは絶対にアレだ。この城の魔術陣に、ウォーデンの魔術学院で見た「成長」の文字や記号を無理やり組み込んだせい……!


「庭師は怖がって仕事をしてくれないし、使用人の中には怯えて体調を崩した子もいるのよ。私は少し面白いと思ってるけれど……ゴホン! こ、このままじゃお城が草だらけになっちゃうわ。落城させる気?」


 ひぇっ、まさかこんなことになるなんて!? 姫は呆れた顔で、「すぐになんとかしないと給料を全面カットするわよ」と宣告してきた。そんなご無体むたいな!



「はぁ、良かった」

「直りましたね」


 俺が慌てて陣を元に戻せば植物の異常繁殖も同時に止まり、騒ぎも収まっていった。育ち過ぎた木の伐採とかには駆り出されたけどな。


「馬鹿者め。適当に描き込んだのじゃろう」


 チェックのためについてきた師匠が、光る陣を覗き込みながら呆れ顔で言った。どうやら、「成長」の文字や記号に力の働く先――指向性を持たせてやらなければならなかったらしい。

 何も指定しなかったから城内の全てに効果が及び、特に影響を受けやすい木や草花が伸びてしまったというわけだ。


「って、気付いてたなら放置してないで対応してくれても良かったじゃないスか」

「ふん、単に草木が伸びた程度ではないか。大した被害でもないのに皆が騒ぎすぎなのじゃ」

「いやいや、十分『大した被害』だろ!?」


 師匠の、一般人とズレまくった感覚をすっかり忘れてたぜ。そうか、これが千年以上も生きてきた弊害へいがいなんだな。そんなことを考えていると、じいさんは「なんじゃ」と聞いてきた。

 隠したとしても俺は嘘が下手だから、すぐにバレる。仕方なく、ココに目配せしてからストレートに疑問をぶつけてみることにした。


「師匠って本当に千歳超えてるんスか」

「ふむ、知ったか」


 全然意外そうではない。空の城への招待については報告してあったから、可能性くらいはあらかじめ想像していたのかもしれない。師匠はふさふさの髭をひと撫でした。


「それで、わしが千の時を生きると知って、お主はどうするつもりなのじゃ」

「え。……どうするって」


 そんなことを言われても、事実が衝撃的過ぎて確かめた後のことまで考えていなかった。ココも同じようで、「ええっと」と言ったきり言葉を続けられずにいる。


「そ、そうだな。とりあえず、どうやってそんなに長生きしたのか教えてくれよ」

「なんじゃ、お主も千年生きたいのか?」

「そんなに生きたかねぇよ!」


 速攻でツッコんだ。魔力が強い人間は長生きだと既に聞いていたし、更に上乗せしてまで長命を得たいとは思わない。誰がこんな「歩く迷惑」みたいなジジイになりたいかってんだ。

 しかし、師匠は「そうは言うがな」と双眸そうぼうを光らせる。


「お主はわしの全ての魔術を会得し、知識と技術を次代に伝える使命を負う身じゃからのう」

「おい、サラっとすること増えてんぞ」


 傍若無人な師匠アンタの弟子をやってるだけで毎日いっぱいいっぱいなのに、今度は自分の弟子を取れってか? そいつ、完全にただの生贄いけにえだろ。


「案ずるな。どうせそれに足る人間など滅多には生まれて来ぬ。そうじゃの、二百年ほどゆるりと待つが良い」

「時間の概念がおかしいッ。どんだけ悠長なんだよ!」


 いつ現れるか分からない「足る人間」など待ってないで、魔術書に書けば済む話だろうに。この上なく面倒臭いし、全何十巻になるかは分からないが、二百年待つよりはず~っとマシだぜ。


「私もお手伝いします! 系統別にまとめて、王立図書館に寄贈してはいかがですか?」

「それ良いな。長い期間、保管して貰えそうだし。ついでに何冊か作っておいて、金に困った時にでも売ろっかな」


 魔術の知識は金になる。売りさばくルートさえ間違わなければ大丈夫だ。……って、何かを書いたり作ったりするたびに同じ思考にハマり込んでいるな。親の教育と血筋のせいか?


「でもヤルンさんって、お金に困られたことってありました?」

「……ないな」


 思い返してみると、兵士になってから金欠で困った経験はなかった。それもこれも、日頃のケチ……もとい、節約精神の賜物(たまもの)だ。姫にマジで給料カットされても、しばらくは食えなくなったりすることもない。

 行き倒れていたら師匠が「魔術の訓練が出来ぬ」と怒って口に食い物や変な物をねじ込んできそうで、そっちの方が怖いくらいだ。


「するなとは言わぬが、後世にも直に伝えて貰わねばならん。国などいつまで存続するか分からぬし、資料は散逸するものじゃからな」


 その国に雇われてるのに、軽く物騒なこと言ってるんだけど。……とにかくじいさんが何歳だろうと、俺の日常にも何の変化もないってことだな。


「その為にも、やはり五百年ほどは生かしてやろうぞ」

「どこの悪魔の取り引きだ!」


 魔術の膨大な知識の代わりに人間離れした長寿をって、要らないものと要らないものを交換してんじゃねぇか。物語に出てくる「命を取る代わりに願いを叶えてくれる悪魔」よりずっとタチが悪い!



 俺は城内にもうおかしなところはないかココとキーマの三人で見回り、その途中に植物園にも顔を出した。

 ユニラテラ城には二つあり、一つは国中の珍しい植物を集めた昔からある温室、もう一つはセクティア姫がこちらに嫁いでから作られたという薬草園だ。


 フリクティー王国から帰ってきた姫は早速、故郷で仕入れた新しい薬草の種や苗の栽培にも着手しているらしい。


「わ、あっついな……!」

「湿度が高いね」


 透明なガラスで仕切られた空間の中はむわっとしていた。魔術により、植物にとって最適な室温と湿度に保たれているからだ。人間には非常に蒸し暑く、入って数秒で全身に汗が(にじ)む。

 歴史ある植物園とは違い、薬草園に背の高い植物はあまりない。奥の方に薬になる実をつける木が数本育てられているだけだ。


「……っと、ふ~」


 黒いローブに冷却術をかけるとひんやりして気持ち良かった。入る前に(ほどこ)しておくべきだったな。ココが同じ術を自身にかけているのを見ながら、キーマの真新しい騎士服にもかけてやる。


「わー、生き返るー、ありがとー」


 旅行に行く前に採寸しておいたやつで、こちらに戻った時に支給されたのだ。俺は貰った時には嬉しさでうち震えた。


 あとは今度こそ叙勲じょくん式さえすれば完璧に「騎士」だよな。やっぱりお姫様にやって貰おう!

 あ、「ささやかでお願いします」ってしっかり注意しておかないと、あの人、絶対に盛大で壮大な式をやろうとしちまうよな……。


「皆さん。来て下さったんですね!」


 明るい声がかかる。見れば、しゃがみ込んで小さな芽の様子を見ていた女の子が、こちらに気付いて立ち上がるところだった。黒髪の、俺達より少しばかり年下の少女である。


「おう、ここは落ち着いたか?」

「はい。一時はどうなることかと思いましたけど、なんとか」

「わ、悪かったな。メディス」


 この子は師匠の知り合いで、スウェル領の端にある森の奥に住んでいた薬師のメディスだった。俺は教官助手をしていた頃に薬の材料を届けに行き、ひと騒動に巻き込まれた。


「いえ、ここで育てているのは特殊な薬草なので、魔力の影響を受けてむしろ効果が高まるんじゃないかって、皆さん期待してるんですよ」

「ふぅん? なぁ、ここでの生活はどうだ?」


 何か困っていたら相談してくれと言うと、メディスはにこりと笑う。


「ありがとうございます。でも全然、毎日新しいことの発見で、楽しいことばっかり。紹介して下さって本当に嬉しいです」


 そう、彼女は俺とキーマの推薦だった。姫が「薬草を扱える人材に心当たりはないか」と聞いてきた時、真っ先に頭に浮かんだのがメディスだったのだ。

 だからウォーデンに行く前に寄ってダメ元で声をかけてみたら、予想以上に話に乗ってくれた。ちょうど薬師としてステップアップしたいと思っていたところだったらしい。


 王城では最先端の薬草学に触れることが出来、給金も貰える。これ以上の環境はないだろう。新しい生活に慣れるまでは大変だろうが、毎日充実しているようでなによりだ。

 知り合ってからすっかり仲良くなったココも笑顔で言う。


「メディスさん。私にもまた色々と教えて下さいね」

「もちろんです! あっ、この間教えて下さったフリクティー王国の薬のことなんですけど……」


 女性二人が薬の話に花を咲かせ始めたので、俺とキーマはぐるりと見回ってから薬草園を後にした。



 ルーシュに貰った本は、ココと交代で読むことにした。軽く目を通してみると、魔術書はおあつらええ向きにも呪術に関する内容で、そちらは彼女にポンと渡してやる。


「先に読んでしまって良いんですか?」


 こちらは別にどうしても読みたい内容ではないから後で構わない。ていうか読みたいんだろ? 顔に書いてあるぞ。指摘してやるとココは「実は」と照れ笑いをして、早めに読み終えますねと言った。


「けどそれ、吸血鬼が収集するだけあって血がどうの、とか書いてあるみたいだぜ? 大丈夫か?」

「確かに少し怖いですけど、読書欲と魔術への向上心には勝てません!」


 そんなやり取りを交わして別れたあと、俺は自室のベッドの上で魔力の光を生み出す。ルーシュの告げた「面白いこと」とやらを確かめるために、『ユニラテラ王国のおこり』をぺらりと開いた。


「うげ」


 やはり紙面には古代語がびっしりとつづられている。何年も触れてきて、かなり読みこなせるようにはなってきたけれど、この文字量にはげんなりだ。

 最初から興味のないものを無理に読むのは非常に苦痛で、数行進めたところでガッツリコースからは早くも脱落した。


「付き合ってられるかっての。斜め読み斜め読みっと」


 そうしてザクザクと読み進め、文字を追う指先がとある文章でピタリと止まる。そこにはなんと、「オルト」の文字。改めてその周囲を読み込み直し、今度こそ全身が硬直した。


「ゆ、ユニラテラ建国の祖の一人……?」


 思考がぐるぐる回し始める。そこには間違いなく、師匠らしき人物が大昔にこの国の基礎を固めた者達の一人だという記述があった。

 だーっ、もう! やっとあのじいさんが千歳超えって現実を飲み込んだばっかりなのに、またこんな鉛玉投下してきやがって!


「俺はやらないぞ。建国なんかしないし、魔王にも絶対に絶対にならないからなぁッ!!」

「ヤルンー、何を一人で雄叫おたけんでるのさ。うるさいよー?」


 天井に向かって決意を激しく吠えたら、隣室のキーマからゆるっとした苦情を寄越されてしまうのだった。


お読みくださり、ありがとうございました。

予告していた通り、ここでひとまずお話を閉じようと思います。


最後に幾つかお知らせをさせて下さい。

◆同時進行で投稿していた「扉の少女」に、「番外編1 少年たちの邂逅」の対となる「少女たちの邂逅」を投稿しました。

 ヤルンサイドではさらっと済ませた部分などを掘り下げています。


 そちらの最後には裏設定についても触れています。両作品の関わりなどです。ご興味のある方はどうぞご覧ください。


 さて、最後までお読みくださった皆様、長々とお付き合い下さり、ありがとうございました。少しでも楽しんで頂けていたら嬉しいです。

 弓使いのルリュスのその後など、書ききれていない要素も多いですが、書くにしてももっと練ってからにしたいと思います。


改めまして、本当にありがとうございました!


【追記1】ココ視点の短編とその対の物語を、完結記念として投稿しました。

【追記2】外伝の投稿を始めました! ※短編も外伝も別ページです

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