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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
後日談Ⅱ 帰郷偏
192/193

最終話 空からの訪問者再び、そして・中編

ルーシュに呼ばれて空の城へ。そこで明かされる真実とは。

「私も行きます」

「ちょっと一日、行ってくるだけだぜ?」


 セクティア姫には事情を説明し、分身を置いていくことを条件に許可を貰った。師匠にも日中の間に知らせてある。「しっかり魔導師としての役目を果たして来い」だそうだ。

 そうしてスルッと行って帰ってこようとしたら、食事の席でココもキーマも判で押したように顔をしかめて抗議してきた。


「一人で行こうなんて良い度胸してるよね」

「度胸ってなんだよ。遊びに行くんじゃねぇっての。……まぁ、どうせそう言うだろうと思って、ついでにお前らの分の許可も取っておいたけどな」


 すると、ココは「本当ですか?」と顔を輝かせ、キーマも「やるねぇ」と褒めてくる。現金な奴らだ。どのみちゴネられるなら、まとめて申請しておいた方が簡単だっただけだがな。

 そんなわけで、俺達は準備を済ませて夜を待ち、再びルーシュの寄越した例の方法――コウモリのブランコで空の城へと向かった。


 転送術で行ければ良かったのだけれど、あの城は空中をふよふよと移動しているために無理だったのである。

 その上、どれだけ距離があるか分からなかったので、途中で魔力が切れて落ちる恐れのある飛空術も使えない。


「魔術歌で恐怖心は軽減出来ますけど、今後また行くこともあるでしょうし、なんとかならないでしょうか?」

「ならさ」


 そこで提案をしてきたのは、意外にもキーマだった。ふところをごそごそと漁って一枚の布を取り出してみせる。


「これ、使えないかな?」

「お、成程。良いアイデアだな」


 特殊な文字が刻まれた青色のそれは魔導具の布だ。確かにこれを使えば布から布へと移動することが出来て、間違いがない。空の城に一枚置かせて貰えばいいわけだ。

 魔導師にしか扱えないから城の者がうっかり触って発動、などという事故が起きる心配もないと説明すると、ルーシュは「いいぜ」と快諾してくれた。


「これはまだ試作品だから、あとで動作チェックしてくれる? 対になる布も自分の部屋に敷いてあるからさ」

「お前、本気で作ってたんだな。ってか俺は隠れみのな上に検品要員か?」

「まぁまぁ、帰りに早速使ってみれば良いじゃありませんか」


 そんな会話を交わしている間にも夜の闇を裂いて城は現れ、俺達は静かに招き入れられた。



「いらっしゃい!」


 静かだったのは城内に入るまでのことだった。玄関で、今回の依頼主であるイリスが出迎えてくれたのだ。


 日焼けを知らない雪色の肌。硬質な光を放つ銀の髪は、しかし肩に向かって緩やかにウェーブを描き柔らかさを主張している。

 真っ赤な宝石をめ込んだかのようなくれないの瞳は前に会った時と同じく爛々(らんらん)と輝きを発していた。後ろには世話係の青年・フォルトもそっと控えている。


「イリスに会いに来てくれたんだよねっ?」

「まぁな。魔術、見たかったんだろ?」

「うん!」


 彼女の差し出してくる小さな手を取れば、「こっちこっち」とグイグイ引っ張られた。見た目に似合わずかなりの力だ。やはり人間ではないのだと実感させられる。

 そこからは前にも通された豪華な客間に案内され、部屋を傷付けないように気を付けながらココと共に魔術を見せてやった。


「うわぁ……!」


 やや明度を落とした室内。色とりどりの光が宙を躍り、鳥や蝶に変化する。それらが床に舞い降りたかと思えば幻の花畑が出現し、イリスがはしゃぎ回る。

 彼女が踏んだところは再び光となってパッと弾け、ふんわりと(ほの)甘い香りに変わった。


「すごいすごい!」

「へぇ、面白いな。前に見たやつより派手だ」

「前にも見たことがあるんですか?」


 壁にもたれ掛かって腕組みの姿勢で眺めていたルーシュの呟きを、キーマが聞き取って問いかける。長い時を生きる吸血鬼は「見たつっても幻の中で、だがな」と遠くを探るような瞳になった。


「この城の魔術陣のかなめになってる巻き物があっただろ。あれには過去を見せる機能が備わっていてな。城の成り立ちを覗いたんだ」


 過去を見せる機能、それは師匠が仕込んだ魔術だろう。ルーシュはその幻の中で「オルト」という少年が魔術を披露してくれたのだと言った。オルト、つまり昔のオルティリト師匠のことだ。

 あのじいさんの子ども時代とか、全然想像出来ねぇ。似たようなことをキーマが告げると、彼も苦笑して言った。


「ま、今はあの通りだから無理もないかもな。それこそ、千年は前の出来事だろうし」


 ……?

 …………ん?

 ………………何か、さらっと重大発表しなかったか?

 ココが代表で問い返す。


「あの、今、なんとおっしゃいましたか?」

「ん? もしかして、このことも知らなかったのか? オルティリトじいさんは軽く千歳は超えてるぜ。あの巻き物を調べれば解ることだ。間違いない」

「な、ななななっ、せ、千歳!? 嘘だろッ!?」


 冗談半分で「200歳? 300歳?」などと聞いたことはあった。それがまさかの千歳超えだぁ!? あまりの衝撃で俺もココも固まってしまい、魔術で出来た光の幻は(はかな)く消え去る。


「あれ? ねーねーもっとみたいよー」


 イリスの可愛いおねだりにも反応することは不可能だった。



 頭の中は疑問だらけだったが、それでもなんとか暴れる気持ちを抑えて一晩イリスと遊んでやった。魔術を見せ、ふわふわ浮かせてやり、一緒にお茶会もした。

 幼い姫君が始終笑顔で喜んでくれたから悪くはないか。


「じゃ、今回の礼な」


 そう言って渡されたのは、前回同様の金銭がどっさり入った袋と、あの何だか分からないままセクティア姫に渡っていった小瓶である。中では濃い青の液体がゆらゆらと揺れていた。


「これ、薬だよな。何の薬なんだ?」

「簡単にいうと、滋養(じよう)強壮剤ってところだな。生命力を高める効果があって、飲めば老化を遅らせたり、寿命を延ばしたり出来る。俺達にしか作れない強力な薬さ」

「へぇ」


 だからあんなに憤慨ふんがいしていた姫も、コロリと怒りのほこを収めたのか。これは今回も渡して置いた方が無難かもしれない。……賄賂(わいろ)みたいだな?


「もしかしてオルティリト師もこれを飲んで千年を生きた、とか?」

「さすがにこの薬にそこまでの効果はないぜ。あれは多分……ま、真実は本人に直接確かめてみることだな」


 それ絶対教えてくれないやつだろ。ちぇー、ケチ。


「そうムクれるなって。代わりにこれをやるから」


 ルーシュが控えていたフォルトから受け取って渡してきたのは、二冊の古めかしい本だった。外見に違わず年代物らしい。書かれていた文字はどちらも現代語ではなく、魔術に使われる古代語だ。

 ほこりっぽい匂いが鼻をつく。本の虫で読書好きのココが「わ」と声を短く出し、背表紙の文字に指をわせた。


「こちらは魔術書ですよね? 頂いてしまって良いのでしょうか?」

「あぁ、ウチは家族全員、本好きでな。どんどん手に入れては溜め込んでいるんだが、たまにそんなのも混ざってるんだ。ここにあっても宝の持ち腐れだし、持っていってくれ」


 不要物を押し付けるみたいで悪いなとルーシュは言ったが、魔術書は魔導師にとって非常に重要な書物だ。何の術が書かれているにしろ、らないのなら好都合、有難く頂くとしよう。


「もう一冊は、『ユニラテラ王国のおこり』? 歴史書か?」

「建国史っぽいね」

「いや、幾ら自分の国のことだからって、んな昔のことに興味ないぞ」


 歴史学者でもないのにと呟くと、ルーシュは「読んでみろって。面白いことが書いてあるから」と意味深なことを言ってきた。面白いことねぇ?



 こうして俺達は依頼をこなし、翌日の昼にはユニラテラ城に帰ってきた。キーマお手製の魔導具の布はきちんと仕上がっており、転送術は問題なく発動したのだった。


「バッチリですね」

「じゃあ安心して量産体制に入ろうっと」

「お前な。当たり前みたいに言ってるけど、騎士は勝手に副業してたら駄目なんだぞ。捕まっても知らないからな」

「大丈夫だよ。バレた時は『ヤルンに(おど)されてやりました』って証言するから」


 隠れ蓑で検品要員で挙句(あげく)には道連れって、悪徳商人でもそこまで極悪非道はやらねぇっつの!

前回の後書きに書いた通り、この物語を閉じることにしました。

続き等をまた書きたくなったら、別ページで外伝としてスタートするつもりです。

(いつ開始するかは未定です)

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