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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
後日談Ⅱ 帰郷偏
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第一話 故郷への帰還と二つの薬

後日談Ⅱの開始です。まずはスウェルに帰ってきたところから……。

「ひえぇっ」

「こ、こいつら強いぞ!」

「うわぁっ、逃げろっ」

(おろ)か者め。騎士の一団を襲っておいて、逃げられるわけがないだろう?」

「命が惜しいなら罪を認めて、大人しく投降しろ!」


 スウェルへの帰路は、一度盗賊に襲われた以外は特に問題なかった。

 ん、その盗賊こそが大問題だろうって? いやいや、セクティア姫達が乗っている豪華な一等馬車に目がくらむのは分かるけど、騎士が護衛に付いているのも思いきり見えただろうにさ。


 多分、馬で周囲を警戒していたのが女性の騎士ばかりで甘く見られたのだ。アホ過ぎる発想である。言うまでもなく、そいつらは呆気なく返り討ちにあって捕縛され、近くの町に突き出された。

 特筆すべきことは……ないな。あるとすれば先輩達が強くて、シビれるほど格好良かったってことだけだ。


 ちなみに俺やココには今回ほとんど出番はなかった。騒動の間は大きな音や声に目を丸くする双子を抱え、終わった後は縛り上げた盗賊の傷を軽くしてやった程度である。


「お世話になりました」

「こちらこそ。私も楽しい思いをさせて頂きました」


 スウェル城まで帰還した一行は借りた馬車を返し、俺達も御者(ぎょしゃ)のおじさんと別れの挨拶を交わした。

 おじさんはこれまでユニラテラ国内での仕事が多かったらしい。「外国旅行は面白かったです」と屈託なく笑い、去っていった。


 あの人のおかげで移動はとても快適だったし、またいつか一緒に旅が出来たら良いなと思う。



「それじゃあ、頼んだわよ」

『はい』


 その後は行きと同じく、魔導具の布を使ってセクティア姫達を馬車ごと王都へと送ることにした。


『遥か彼方のそら。夢、うつつの先に()まう――』


 先に師匠が一人で目的地に向かい、到着を布の様子から感じ取った俺とココは改めて転送術を発動させる。一行がまばゆい光に包まれ、消えていった。


「よっし、成功!」

「やりましたね」


 しかし、これで終わりではない。1回では送り切れなかった騎士や使用人と共に、目の前には大量の土産物などの荷物がうず高く積まれていた。ううーむ。


「フリクティーに持ち込んだカフスが売れたから、帰りはもっと身軽かと思ったんだけどな?」

「むしろ増えちゃいましたね……」

「えぇと? こっちの箱は織物で、そっちは乾燥した果物かぁ。あとは薬草とか薬瓶とか粉末とか、やっぱり薬関係の荷物が多いみたいだね」


 キーマが木箱に書かれた品名を興味深げに眺めながら言う。ちなみに「書いた報告書はどうしたのか」と問うと、先ほど転送した護衛隊長のレストルに預けたとのことだった。

 ったく、ちゃっかりしてるぜ。自分で届けずに後で叱られたって知らないからな?


「二人とも、魔力はどう?」

「あ? からに決まってんだろ。……あれ、試してみるか」

「そうですね」


 言って俺達は荷物袋を漁り、中から片手サイズの瓶を取り出す。瓶の内側では透き通った緑色の液体がたぷんと揺れていた。

 フリクティー王国でロレーズから巻き上げ……もとい、譲り受けた魔力を回復させる薬である。


 コルク栓をポンと引き抜いて香りをあおぐと、意外にも臭いはあまりしなかった。「えい」っと一気に飲み干せば、それは想像以上の効果を発揮し、あっという間に空だった魔力が全快近くにまで回復する。

 おお、さすがは秘蔵の薬。凄いな……じゃなくて!


「~~~!? に、苦ぁあッ!」

「あうぅう……」


 そう、口の中にありとあらゆる薬草を同時に突っ込まれたかの如く、強烈な苦みが広がったのだ。あまりの後味の悪さに、目に涙が(にじ)む。実際、口を両手で押さえるココは本気で涙を零してむせた。

 こんなに便利な薬なのに、どうして普及しないのか分かったぞ。材料が貴重だとか以前に、この苦みのせいだったんだな?


「大丈夫? そんなに酷い味なわけ?」

「し、舌が溶けてしまうかと思いました」

「魔力検査薬といいコレといい、味にも少しはこだわれっての! もしかしてロレーズの嫌がらせか!?」

「きちんと回復したなら違うんじゃない? 今以上に二人の怒りを買うメリットもないし」

「どうだか。あいつ、たまに損得じゃない理由で動く時があるしな。……うげ、まだ苦いぜ」


 とにかく、これなら事前準備は要るものの、魔力を溜め込んだ水晶を使った方が断然ラクだということは判明した。とんでもない味の問題が解決するまでは、最後の手段に取っておかなければなるまい。


「と、とにかくやってしまいましょう」

「そうだな……」


 まだ青い顔で言うココに応じて、二回目の転送を行った。やはり魔導具を使用しての術は安定感が抜群に良い。今度もすんなりと発動し、仲間達と荷物は手を振りながら消えていった。

 けれども、まだ終わりではない。どうしても布の面積には限界があるため、もう一度は行う必要があった。


 残った者達が必死に最後の荷物を運び込む光景を見ながら、水晶で魔力を補いつつ、俺はふと思ったことを口にする。


「なぁ、この布ってもう()らないよな。売ったら結構良い値が付くんじゃないか?」

「あー、確かに。一度に沢山の人や物を遠くに移動出来るから、凄く便利そうだなぁ」


 キーマはすぐに同意してくれたが、ココは何故か首を振って否定した。この布は王城で保管されることになっているというのだ。……あのお姫様、またどこかに連れていかせようって気だな?


「使用にとても沢山の魔力が必要になるので普通の方には扱えませんし、悪用されたら大変だから、らしいですよ」

「……成程ねぇ。その気になれば、お城の結界を無視して内部に直接、武器や兵士を送り放題になっちゃうわけだ」

「ちぇー」


 良い案だと思ったのに、そう説明されてしまえば引っ込むしかない。するとキーマが、「作り方は分かったのだから、もっと小さいものを量産してはどうか」と提案してきた。


「だから、俺は魔導具師じゃねぇっての。わざわざ作ってまで売ろうなんて思うかよ。やりたいなら、お前がやれよな」


 ちょっとした意趣(いしゅ)返しや冗談のつもりだったのに、相棒は「じゃあ、そうするよ」と応えてこちらを驚かせてきた。え、マジで?


「カフスと違って、作るのに魔力がほとんど要らないし、良いお小遣い稼ぎになりそうだからね。とりあえず、布とインクを買わないといけないかな?」

「面白そうですね。あぁ、でしたら色んな色の布で作られてはどうですか?」

「それはウケが良くなるかもね」

「……」


 まるで雑貨屋か手芸屋でも開業するみたいな会話だ。「お前こそ魔導具師になるつもりか」と問いかけたら、いつものように「あはは」と笑い返される。

 大々的にやって周囲にバレてはまずいので、こそこそと内職をするつもりだそうだ。おいこら、俺達は隠れみのかよ。


 そんな他愛ない(?)会話をしているうちに、段々と体が重くなってきた。慣れたとはいえ、魔力の極端な増減はどうしても体に負担がかかるからだ。

 魔力自体は水晶で補えても、疲労感の方は放置しておけば医務室への直行コース間違いなしである。


「うぅ、やっぱキツイな。ココは大丈夫か?」

「はい、なんとか。でももう一度行うと、行きの時と同じことになりそうです」

「ねぇ、薬って他にもあったよね?」


 キーマが俺の荷物袋に勝手に手を突っ込み、中からもう一本の瓶を取り出した。中身はこれまたロレーズから得た、魔力揺れを抑える薬だ。


 何をどう煎じたらそうなるのか知らないが、こちらは鮮やかな黄色をしていた。まさに今必要な薬だし、効果だってお墨付きだろう。

 あとは味だよなぁ、今度は激辛で口から火を吹いたらどうしようか。うーん、飲むべきか飲まざるべきか。一応栓を抜いて匂いを確かめてみると、こちらもほんのり草の香りがするだけだった。


「飲みましょう。確かめておきたいですし、倒れるとしばらく動けなくなりますから」

「……だな」


 瓶を前に、ごくりとノドを鳴らす。俺は目をつむり、先ほどと同様に「えいや!」と一気飲みした。のど越しはするりとして悪くない。

 その後も胸の辺りが一瞬だけかぁっと熱くなったのみで、それもすぐに消えていき、口の中には――フルーティーな甘みと酸味が爽やかに広がった。


「う、旨ッ」

「これ、すっごく美味しいです!」


 まるで食後のデザートに新鮮なフルーツの盛り合わせを食べたかのような満足感だ。効力もバッチリ作用して、重かった体もすーっと軽くなる。


「え、本当に? そんなに美味しいの?」

「いやぁ、用もないのにもう一本飲んでしまいたくなる味だなー……って! この落差は何なんだよ!」


 さっきのは激マズで今回のは激ウマって、バランスおかしいだろ! ココは「お口直し用でしょうか」と怪訝(けげん)な顔で首を傾げた。二本を連続して飲むのが前提の薬だったのだろうか。

 いやいや、もっと平均的に作れよ。完全に人をおちょくっているとしか思えないぞ。……んん、おちょくる? 待てよ、分かったぞ。こっちがロレーズの仕組んだ本当の悪戯いたずらだな!?


「あいつ、こうなることを見越してわざと使用法を教えなかったんだ……!」


 一本目の味で苦しませ、二本目への恐怖心を抱かせることで更に俺達を翻弄ほんろうする、実に巧妙な罠だったのだ。


「自分で確認出来ない悪戯を仕込むなんて、不毛じゃない?」

「単純に伝え忘れじゃないでしょうか? 悪戯なら、逆の方が効果的だと思いますし……」


 逆、つまり先に美味しい方を飲ませて油断させるやり方もある、と彼女は言いたいらしい。……もしも伝え忘れだったら、それはそれで腹が立つけどな。


「とにかく! こんなフザけた真似してタダで済むと思うなよ。こうなったら、いつかマジであの城を浮かせてやるからな!」

「あちゃー、変なスイッチ入っちゃったよ」


 空に向かって吠える俺の背中に、キーマの呆れた声がかかったのだった。

悪戯かド忘れか。真実はどちらでしょうね?

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