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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
後日談Ⅰ 騒動旅行編
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第六話 依頼の遂行・後編

主従の馬鹿っぷりが酷いです。今回も色々と詰め込んでいたら長くなってしまいました。のんびりお付き合い頂けると有難いです。

「色々と足りてない王子の言動に腹が立つのは分かりますけど、周りのこともちっとは視野に入れて下さいよ!」

「す、すみません」


 痛む頭を片手で押さえて文句を言うと、気絶したフレイル王子をベッドに寝かせてきたロレーズは小さくなった。俺も直情的な自覚はあるが、この人ほどじゃないって。もうあんまりかしこまるの止めよ。


「それにしても、フレイル王子に魔力があるとはな」


 念のための確認に過ぎなかったのに、どうしてセクティア姫には無くて、フレイルにはあったのか。その謎を解くヒントをくれたのも、肩を落としていたロレーズだった。


「きっと、お母様の血筋でしょうね」


 母親というと、第一王子ジュダの妃だ。姫にとっては義理の妹であり、次代のフリクティー王妃に最も近しい人物でもある。

 しかし、その姿を思い浮かべようとしても、頭にはぼんやりとした印象しか残っていなかった。ディナーの場では、確実に夫と息子の間に座っていたにもかかわらずだ。ううーむ。


「ココはどんな人だったか覚えてるか?」

「えぇと、線が細くて控えめな方だったとは記憶していますけど、他には特に……。ほとんど発言されませんでしたし」

「だよなぁ」


 ディナー中、会話の中心にいたのはもっぱら主役たるセクティア姫で、次に目立っていたのが強烈な王妃である。ジュダ王子も積極的に発言していたし、こちらにも声をかけてきたから覚えている。

 反対に、始終言葉少なだった国王と第一王子妃のイメージは薄くなってしまっていた。顔や声も曖昧だ。


「……駄目だ。他の王族のインパクトが強過ぎるんだよ」

「それは、否定しにくいかもしれませんね」


 ココも苦笑混じりに同意してくる。あ、べらべら喋っちゃマズイ内容だったかも? ロレーズには内緒にして貰いたいとお願いしてから、話を戻すことにした。


「それで、血筋っていうのは?」

「ええ、あの方は南のファタリア王国からお越しになったんです」

「へぇ?」


 ファタリア王国は、まだ兵士だった時に旅をした国だ。青い海と白い砂浜、そして照り付ける太陽のイメージが濃い。

 聞けば、あの国のウィニア王女とは親戚同士らしい。王侯貴族お得意の政略結婚というやつか。俺は人間関係を整理しかけ、頭が混乱してきてやめた。ざっくりと分かっていれば大丈夫だろう。


「魔導師を多く輩出する家の出だそうですよ」


 要するにキーマみたいな家系ってことだ。つい最近、俺の手助けで魔力を得て魔術の勉強を始めたあいつは、なかなか特殊なケースなのだろうが。

 事実が実家に知られると、せっかく落ち着いていた跡継ぎ問題で家が荒れかねない。あと、怖い研究者達の実験台にされないためにも、黙っていないといけない秘密である。


「ファタリア王国と言えば、団長さんや副長さんはお元気でしょうか?」


 ココの言葉に、がっしりした体躯(たいく)の剣師・オーラルと細身の女性魔導師・ルイーズの姿が思い出される。

 団長の隙のない剣技にも()()れしたものだが、実際に手合わせをしたルイーズの、研ぎ澄まされた魔力の使い方や鉄壁ぶりも忘れ難い。俺も実力を上げたと思うし、また模擬戦をしてみたいぜ。


 そんな懐かしい気持ちをぶった切ったのは、ロレーズの思いもかけない一言だった。


「お二人とも、ルイーズに会ったことがあるんですか?」

「ええまぁ。知り合いスか?」


 二人は同じ魔導師であり、国の中枢(ちゅうすう)に勤める者同士という共通項もある。仕事でどちらかの国に行った時にでも、顔を合わせていてもおかしくはない。と推測していたら、事実は全く違うものだった。


「親戚です」

『ええっ』

「遠縁ですよ。ほら、ロレーズとルイーズで、名前も似てるでしょう? って、それはたまたまなんですけど」

「いや、笑顔で『お決まりのネタです!』みたいに言われても」


 この人ほんとマイペースだな。だからこそワガママ王子の世話を任されているのかもしれないが、キーマのような「ストッパー役」の人間はいないのか?


 別の意味で頭痛がし始め、無理やり話を本題に移行させることにした。もちろん依頼の件だ。

 握手によるチェックはついでだったのに、予想に反してフレイルに魔力があったため、大幅に時間を取られてしまった。



「それじゃあ始めますよ」


 俺は主の居なくなった部屋の中央に丸テーブルと椅子を用意して貰い、魔導書を取り出して該当のページを開いた。

 かけておいた暗号化の術を解くと、そこには円や様々な記号がびっしりと、その意味と共に書かれている。覗き込んだロレーズが感嘆の息と共に声を零した。


「これが魔術陣ですか……!」


 そう、魔術陣の新しい管理者としてフリクティーの王族達が指定し、師匠が許可を出したのが()だったのだ。


 いずれは王になる子どもの側近なのだから、信頼のあつい臣下であることは間違いない。でも、彼が宮廷魔導師だったのは予想外だ。

 騎士でもないのに護衛までやらされているなんて、この国の魔導師不足はかなり深刻らしい。いや、同情はしても移籍はしないけどな?


「魔術印は触ったことあります?」


 身体や物に文様を描き、魔力を注ぐことで効果を発揮する「魔術印」は、失われた技術である「魔術陣」の名残なごりらしく、類似点が多い。

 その知識が幾らかでもあれば、俺が三日間による超・詰め込み教育をされた時みたいに一から勉強しなくて済む。そう思っての質問だったのだが、返事は「はい」でも「いいえ」でもなかった。


 ロレーズはきょとんとした顔で言ったのだ。


「魔術印って、何ですか?」

『えっ?』


 隣の席で、サポートが必要そうなタイミングがないかをうかがっていたココと共に絶句する。この人、王城に勤める宮廷魔導師だよな、結構なエリートのはずだぞ……?


「もしかして、呼び名が違うのかもしれませんね?」

「あっ、あぁ」


 彼女の指摘に我に返った。いにしえから遺されてきた魔術は文字通り星の数ほどあり、伝わり方も一つではない。地域差もあろうし、「同じ物は同じ名前だ」という常識は通用すまい。


「こういうもののことで……」


 俺は服の袖をめくって左手首を出し、反対側の手をかざして被せてある幻を解く。すぐさま、手首を一周する黒い(いばら)を模した刻印が浮かび上がった。


「これは」


 ロレーズは俺達の関係をもう知っているし、実際に見て貰う方が早いと判断したためだ。軽く解説を加える横で、ココも自分の右手首を差し出す。そこには全く同じしるしが刻まれていた。

 すると、この刻印の効果を知った彼は二人の手をがっしりと掴んできた。


「素晴らしい!」

「きゃっ」


 突然のことに俺も驚いたが、出会って数日の男に突然強く触られたココは短い悲鳴を上げ、反射的にパリパリッ! と魔力を弾けさせた。音と共に鋭い光がロレーズの全身を疾走する。


「わぁっ!?」

「び、びっくりするじゃありませんか」

「しし、失礼しました。お許しください……」


 ビリビリ(しび)れて痛かったに違いない。直撃を喰らったロレーズが慌てて手を退け、頬を膨らませる彼女に涙目で許しを()う。誰に対しても誠実なココが憤慨(ふんがい)してみせるのは珍しいことだ。

 でも、怒る気持ちは良く分かるから、俺も隣から口を出した。


「ちゃんとOKを貰わないと駄目っスよ。急に触られたらぞわぞわするんスから」


 あれマジで気持ち悪いんだよな。彼は「はい」と頷きつつも、釈然としない顔でこちらを見た。


「あの、まるで同じ目に()ったことがあるように聞こえたんですけど……?」

「気のせいっス」


 あぁ、今のはちょっと妙な表現だったかもな? この人も結構な「知りたがり」みたいだし、アレコレ勘繰られないように気を付けないと。


「それで、魔術印……見たことないっスか?」


 しかし、彼は首を横に振る。どうやらフリクティー王国は魔導師が少ないせいで、技術継承の断絶が(はなは)だしいようだ。


「でも、本当に素晴らしい。これがあれば、フレイル王子がどこに隠れても見つけ出せると思って、つい興奮してしまいました」

「お願いですから、大事な刻印をそんなことに使わないで下さいっ!」


 ココが再び怒り出し、俺は大きく溜め息を吐いた。こりゃあ、他にも色々とレクチャーした方が良さそうだな……?



 彼女とも相談し、やはりロレーズには数日をかけて色々な魔術を伝えておくことにした。

 常にちょこまかしているらしいフレイル王子を見張るには使い魔が役立ちそうだし、逃げた時には分身を使うのが便利なはずだ。

 というか、広げた俺の魔導書を隅々まで眺め回し、彼は知らない術を全て覚えたいと言い張ったのだ。


「それもこれも、あとその術も教えて下さいっ」


 実際、ロレーズが知らない魔術が幾つもあった。まぁ、基礎はバッチリ出来ているから、理論さえ教えておけば習得まで時間はそれ程かからないはずである。


「教え切る前に帰ったりしたら、ユニラテラ王国まで付いていきますから!」


 とまで言われてしまっては、観念するしかない。こんな賑やかでハタ迷惑な人、絶対に連れて帰りたくないし。師匠にもお姫様にも叱られること請け合いだ。

 その代わりに彼の魔導書を見せて貰うと、角張った文字で治癒術の知識と薬の製法がびっしりと書かれていた。


 農業大国であるフリクティーは薬草の栽培も盛んなのか、魔導師も医者としての側面が強いようだった。……分かったぞ。

 つまり、「ぶっ飛ばしても、あとで治せば問題なしだろう」っていう、俺と同じ思考の持ち主ばかりの国なんだな? 微妙な気持ちになりつつも、お互いに知識を教え合うということで話はまとまった。


 一時はむくれていたココも、治癒や薬は興味のある分野だったため、最後には笑顔に戻っていたし、(おおむ)ね丸く収まったんじゃないだろうか。

 なお、最終的に弟子入りまでされそうになったので、それだけは断固阻止した。

ヤルンが思い出しているのは「番外編3 女騎士見習いの受難」での出来事です。あの時声をかけてきた男はセクティアの怒りに触れ、遠方へ飛ばされている設定です(怖)。


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