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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
後日談Ⅰ 騒動旅行編
172/193

第五話 後継者探しのディナー・前編

さて、ワンクッションあって、場面は夕食へ。出来るだけシンプルにと思っていますが、登場人物が多くて分かりにくかったらすみません。

一部を改稿しました(9/9)

「よもや、お主と同じ思考や行動をする魔導師がおるとはのう」


 それが一連の流れを見ていた師匠の感想で、俺は「うっ」と呻く他なかった。風で捕まえたり、雷を落とそうとしたり、使う術まで同じだと言い逃れもし辛い。


「お主に色々と教え込んでおいて正解だったぞ。でなければ、まさに『無礼者』として断罪されておっただろうからな」

「え、『色々と』?」


 師匠が俺に数年の間教え込んできたのは魔術のことばかりだが、それが何だと言うのか。真意が分からず続きを待っていると、溜め息を吐かれた。


なげかわしい。自身の価値を自覚しろと、何度も言うておるじゃろう」

「価値ねぇ……? 俺なんてやっと騎士になっただけの魔導師っスよ。あっ、『剣も使える魔導師』にはなりましたけどっ!」


 胸元のきらりと光るバッジを指でつまんでみせると、じいさんにさっきよりも大きな大きな溜め息を吐かれる。えぇ、なんでだよ。


「考えてもみよ。もし、何の技術も習得していなければ、ただの無限魔力生産器という価値しかなかったのじゃぞ」

「むげ……っ!?」


 その言い様は酷くないか? 行く先々に付きまとって、アレコレ心配するくらいには「大事な弟子」じゃないのかよ! ド底辺の評価に憤慨ふんがいしたら、師匠はしれっと視線を外した。


「……もう良い、じきに解ることじゃろう」


 あっ、面倒になって投げたな。そりゃ、師匠の言う通り危機感に欠けるところがあるのは認めるぜ? でも結局、何が言いたかったんだよ。



 セクティア姫と子ども達を歓迎する場は夕刻に設けられた。フリクティー王国の王族が一同に会する食事会である。そこで室内の護衛を命じられたのは俺とココとレストルの3人だけだった。

 人数が少ないのは、フリクティー王城が姫の実家だからだ。こちらの騎士や兵士も身内みたいなもので、危険は少ないだろうという判断らしい。


「他の皆さんは旅の間中ずっとお仕事で、お疲れでしょうしね」

「あぁそっか……って、俺達も遊んでたわけじゃないぞ」


 護衛の仕事の代わりに、各地の魔術陣の点検をして回っていたのだ。なまけていると思われるのは心外である。

 というか、今って仕事中? 休暇中? なし崩し的にここまで来てしまったけれど、あとできちんと確認しておくべきだろうな。


「お入り下さい」


 入り口に控えた侍女が扉を開けてくれ、姫と双子に続いて会場内に入っていく。片側の壁はガラス張りで、丹精たんせい込めて手入れされた庭が見通せる作りになっていた。

 日も暮れかけた今は緑を夕日が赤く染め、その向こうから夜の紺が迫りつつある。室内にはすでに魔力の明かりが灯されていた。


 長方形のテーブルを想像していたら、ディナーの場は意外にも円卓だ。すでに着席しているのは、あの生意気小僧のフレイルだった。離れたところには世話役のロレーズも立っている。

 彼は護衛も兼ねているのだろう。うーん、割と素直な双子の相手でさえそれなりに疲れるのだから、仕える王子がこれじゃあ苦労するだろうなぁ。


 だからといって仮にも主人に、しかもまだ子どもである相手にバンバン魔術を打つのはどうかと思うが。「お前が言うな」? ほ、本気じゃなかったし。

 すると、こちらに気付いたフレイルが椅子から飛び降りて睨み付けてきた。


「あ、にせきしめっ、何しにきた!」


 まだ言うか。完全に呼称が「にせきし」に固定され、ちっとも訂正してくれそうにないので渋々諦めることにする。

 腹は立つものの、この城に滞在する間だけ我慢すれば良いのだ。……最後まで理性が持ちますように。でないと最悪、落城騒ぎになって本当に牢屋行きである。


「本物の騎士の、護衛の仕事ですぅ」

「ふん、ぼくはみとめないからなっ」

「はいはい。どーぞ、ご勝手に」

「きーっ、ぶれいものめ!」


 無礼者、無礼者って、どんな口癖なんだよ。誰だ、最初に教えたやつは。王族なのに、教育課程に「マナー講習」はないのか? この無礼極まるオコサマに、上品な言葉遣いを誰かレクチャーしろっての!


「あらあら、気に入られちゃったわね」

「どこがっスか」

『やるんをいじめちゃだめー!』


 姫のからかいにげんなりしていると、双子が怒り始めてしまった。幼い二人は仲良しの友達が責められていると思ったようだ。小さくても二人揃うと威圧感があるのか、実は小心者のフレイルが後ずさる。


「な、なんだお前たち。いじめてないぞ、ほんとうのことを言っているだけだ!」

『だめなのー!』


 わちゃわちゃした言い合いは俺とココが双子を、ロレーズがフレイルを抑えるまで続いた。

 そういやすっかり忘れてたけど、あまりシリル達を刺激しては魔力的にまずいんだった。わわっ、気を付けないと……!



 最終的に席についたのは、50代くらいに見えるおっとりした雰囲気の国王とやや目つきの鋭い王妃、そして姫の弟であるジュダ王子とその妃、息子のフレイル。

 そこにセクティア姫とシリル王子、ディエーラ王女が加わり、使用人や護衛が周囲を囲む。


「姉さまにもお会いしたかったわ」


 姫が残念そうに呟く。王家には王女がもう一人いるらしいのだが、すでに嫁いでいるとのことだった。

 それぞれが挨拶を済ませ、食事が供され始めると、話題は互いの近況報告からである。主に話すのは女性で、男性陣はたまに相槌あいづちを打つくらいだ。


 ただし、それも姫が魔導師や魔術陣の話題を出すまでのことだった。食いついてきたのは第一王子のジュダである。20代前半の青年で、セクティアと同じ濃い青の髪色をしていた。


「姉上も、この国に魔術の才に恵まれた人間が少ないことはご存知でしょう?」

「やはり、増えていないのね」


 あぁ、いつまでも師匠に頼っているなんて呑気な国だと思ったら、そもそも魔力持ち自体が少ないのか。

 ユニラテラでは3割くらいの印象だったが、それより割合が低いとなると必然的に質も下がってしまいそうだ。だから魔術陣の点検をする魔導師も育たないというわけだろう。


 などと、壁際で話を聞きながら考え事をしていた自分こそが呑気者だった。


「というわけで……そこの彼をフリクティーに頂けませんか?」


 言って、ジュダ王子が示したのは……え、お、俺っ!? 急なご指名にびっくりしていると、セクティア姫がまなじりをり上げた。


「なんですって? だ、駄目に決まっているでしょう」

「おや、どうしてですか? 姉上が欲しているのは女性の騎士でしょう。ならばと思い、彼を指名したのですが?」

「あぁ、それなら大丈夫。魔術でへんそ……」


 げほごほ! 俺が焦ってき込むと、姫も気付いたのか思いとどまった。危ないな、恥ずかしい秘密を王族が勢揃いするこの場で暴露しないでくれよ!?


「魔術で、何です?」

「な、何でもないわ」


 姫は明らかに狼狽うろたえ、反論しようとして逡巡しゅんじゅんした。うわぁ、どうすりゃ良いんだ? 物じゃないんだから、ホイホイやり取りされるのは困るぜ? ちらりと横を見るとココも冷や汗をかいている。

 ジュダは俺に視線を合わせてきた。


「君自身はどうかな? わざわざ来て貰うのだから、相応の待遇は約束するよ」

「いや、自分は」

「ロレーズが言っていたよ、君はかなり魔力がありそうだとね。それに、その若さで姉上の護衛役をしているのだから実力も申し分なさそうだ。なにより――陣を操る知識と技術を持っている」


 さすがは王族というべきか、情報が早い。それとも、こちらにも顔がきくらしい師匠が話を通したのか。とにかく「そうか」とに落ちた。

 俺は、この国の人間から条件に合う魔導師を選んで魔術陣の管理人にすれば良いと思っていた。が、向こうにしてみれば俺かココか師匠を引き抜いてしまえば問題は解決なのだ。


 王子は再度「どうだい?」と問いかけてきた。気持ちは有難いが、ここはしっかり返事をしておかなければならない場面だろう。そう思い、俺は言葉を選びながら伝える。


「……目をかけて頂いたことは大変光栄です。ですが、私はセクティア様に騎士へ取り立てて頂いた身です。ご恩を返すためにも、殿下や祖国に尽くしたいと思っていますので、どうかご容赦ください」


 ジュダはやや目を見張って「ほう」と呟き、姫は破顔した。

 まぁ、王子サマは知らないのだろう。俺を引き抜くと、もれなくもう2人……キーマも入れて3人? が付いてくることを。そうなると、今度はユニラテラが困ることになる。


 姫もそのことが頭に過ぎっているのか、改めて焦った調子で「だめよ」と繰り返した。


「ですから、どうしていけないのですか? 理由を教えて貰えないのでは納得しかねます」

「し、シリル達もヤルンを気に入っているし、それに彼を引き込もうとしたら、義父おとう様だって黙ってないんですから! ……あ」


 姫の必死のセリフに場がざわついた。それまで静かに事態を見守っていた国王や王妃までもが食事の手を止め、娘をひたりと見据える。王妃が鋭い眼光を宿して口を開いた。


「セクティア、それはどういう意味かしら? 王族付きとはいえ、何故なにゆえ騎士一人の処遇に、ユニラテラの国王陛下が異議を唱えるというのです?」


 姫の顔には「私は完全に墓穴を掘りました!」と書いてあった。

それぞれの人物についてはおいおいに……。なお、この国の陰の実力者は王妃です。

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