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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
第十部 魔術学会との共同研究編
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第六話 共同研究の始まり・前編

やっと共同研究を始めます。進行の都合上、説明が多めになっていますが、さっくりとお読み頂けると嬉しいです。

 体験入学そのものは目も当てられないオチになってしまったが、その後の学院長とのやりとりは滞りなく終わった。メインの内容は、例の共同研究についてである。


 俺はココとも相談し、その話に乗ることにした。一番の理由は「新しい魔術」に興味があったからだ。他にも、余りがちな魔力の使い道に良さそうだから、という点も大きかった。向こうもそれが狙いなんだろうしな。

 ただし、全面的に信用したわけじゃあない。途中で向こうが不審な動きを見せれば、その時点で無理にでも抜けると決めている。



「ほんと、どこもかしこも立派だな」


 魔術学会の本部である四角い建物は、学院のすぐ脇に建てられていた。中には大・中・小に分けられた会議室や実習室があり、薬を調剤するための部屋なんかもあるようだ。

 付け加えておくと、広範囲に広がるような大きな魔術を使う時は、併設された訓練場を利用するらしかった。わざわざそんなものまで作るなんて、学会本部の名は伊達(だて)じゃない。


「本当ですね」


 隣でお揃いの黒いローブを着たココが頷く。そう、今日は一人ではなかった。朝早くにセクティア姫に呼び出され、連れて行くように言われたからである。

 聞けば、俺がこちらに顔を出している二日間、ずっとそわそわしていたらしい。


『仕事はちゃんとしてくれるのよ? 昨日も、私に許可なく触れようとした不届き者をきちんと氷漬けにしてくれたもの』


 お姫様は満面の笑みだったけど、きちんとって、良かったのか、それ。まぁ雇い主が満足なら文句を言う筋合いでもないか。


「こちらです」


 ドゥガルに案内されるまま、「会議室」と表に明記された部屋に入ると、床には薄い青色の絨毯(じゅうたん)が敷かれていて、壁も同系統の色に染められていた。

 そんな落ち着いた雰囲気の室内の中央には円卓があり、8つの椅子が置かれている。うち5脚にはすでに人が座っていた。あれ、もしかして最後か? 新参者がラストってマズくね?


「あの、遅かったですか」


 こそりとした言葉を、ドゥガルが「いいえ」とにこやかに笑いながら否定し、着席を促してくる。彼自身が最奥に座ると、手前に座っていた誰かが振り向いて声をかけてきた。


「我々は先に別件で話し合いをしていただけじゃ、気にするでない」

「……って師匠ッ!?」

「どうしてこちらに?」


 俺は唾を飛ばす勢いで叫び、ココの疑問が続く。そこには、何故かごく普通の顔をして、師匠が座っていたのだ。ど、どういうことだよ!?


「マスター・オルティリトはお二人がこの会に参加されると聞いて、ご自身も参加を表明して下さったのですよ」


 ドゥガルが説明してくれ、すとんと()に落ちた。つまりだ、俺を見張りに来たんだな? 学会の連中相手にやらかしたりしないように。

 ふん、俺だってもう18歳なんだぜ? そんな、大人げないことしないっての。……なんだよ、そのジト目は。しませんってば!


 師匠を挟んで俺が左側、ココが右側の席に座ったところで、「それでは」とドゥガルが会の開始を告げた。


「改まった場ですし、再度自己を紹介させて頂きましょう。私は魔術学会の会長を務めさせて頂いている、王立魔術学院長のドゥガルです」


 背中にしゅっと緊張感が走る低い声音で彼は言って、例の知的さを(にじ)ませる笑みを浮かべる。ちょっと格好良い。

 そうか、この人、学会の会長でもあったのか。だから俺達に手紙を送ってきたんだな。次に口を開いたのも、俺達が良く見知った人物だった。


「ウォーデン魔術学院・学院長のメルィーアと申します。お二人とも、お元気そうで何よりです」


 言って、ふっくらとした顔を(ほころ)ばせたのは、数か月前まで一緒に仕事をしていたウォーデンの魔術学院長だった。

 何故ここに? と思ったが、考えてみればすぐに分かることだ。魔導師界の重鎮(じゅうちん)に、彼女が名を連ねていない方がおかしい。


 つか、ある意味で今回の件の黒幕はこの人っぽい気もするし。いなかったら逆にビックリだよなぁ。


「お久しぶりです。ウォーデンの皆さんはお元気ですか」

「えぇ、あなた方に会いたがっていましたよ。今日は、キーマさんはご一緒ではないのかしら?」


 師匠が「あれは剣師ですからな」と言い、メルィーアが「そう、それは残念」と返す。まぁ付いてきていたとしても、あいつなら面倒臭がってどうせ外で待機だろうぜ。


『意味不明な単語が飛び交う会議に出たところで、欠伸(あくび)が止まらなくなるだけだよ』


 とかなんとか吐くに決まっている。きっと今は城で仕事をしているのだろうが、グースカ寝ていないことを祈るのみだ。

 その後も自己紹介は時計回りに続いた。学会のメインは東西南北に一つずつと、この王都にある魔術学院の、それぞれの学院長によって構成されているのだと分かった。


 中央がドゥガルで、東がメルィーア。あとは北の老紳士と、南の若い男性、そして――最後に西の美女が口を開いた。

 年齢は30を過ぎたくいらいだろうか。潤沢な紺の髪を腰辺りまで垂らし、(まと)うローブと同じ紫色の瞳を細めている。ふふ、と妖艶(ようえん)(わら)うその唇は、鮮やかなワインレッドに(いろど)られていた。


「私は西のスネリウェル。以後、お見知りおきを」


 うわ、何だこの人、インパクトあり過ぎだろ。本当に学校の先生かよ。まだ二校しか覗いていないが、子どもを教える立場の人間とはとても思えない存在感だ。


 続いて、ドゥガルは魔術学会について軽く説明してくれた。メインはこの五人だが、正式には各地の魔術学院の教師全員が所属する組織らしい。

 こうして集まって、今後の魔術の発展について話し合いをすることもあれば、論文を集めて発表会を開いたり、新しい魔術の実演をすることもあるそうだ。


「……?」


 そんな眠気を誘う話を聞いているうちに、俺は彼らの雰囲気が変わってきたことにある瞬間、唐突に気が付いて体を震わせた。

 表向きは柔和な顔をしていても目に宿る光は鋭く、座っていると査問会にでもかけられているような気分になってきた。俺達を品定めでもしているのか?


「失礼致します」


 緊張感が場を支配し始めた頃、入ってきた人間によって飲み物が配られた。湯気が立つその温もりに、強張った体が解される。流れを見越してドゥガルが手配したもののようだった。



「それでは早速、話し合いを始めましょう」


 司会進行を務めるドゥガルの声を合図に、飲み物を配ってくれた人が一緒に資料も配布してくれ、俺達はそれに視線を落とした。良質な紙面には几帳面な字で題目や趣旨などが書かれている。


「……っ」


 わ、と口から声が零れそうになる。紙に続けてペンとインク壺も配られたのだが、こちらも普段使っているものより数段は高級そうな輝きを放っていたのだ。

 ひぇっ、壊したら俺の給料じゃ弁償出来るか怪しいヤツだ! 触るの怖っ、持参すりゃ良かったぜ!


「まずは具体的な研究テーマを決めなければなりませんね。何か良い案をお持ちの方は」


 議長が言うと、会議が始まってから初めての沈黙が場におりた。互いに発言のタイミングを推し量っているような雰囲気だ。

 俺も積極的に発言するのは避けた。まだ居並ぶ人間の人となりさえ分からないうちは、それが無難だと思ったからだ。


 大体、全員を紹介されてみて分かった。この場に参加しているのだって、十分に分不相応だ。こんな濃いメンバー相手に俺やココが渡り合えるわけがない。真剣そうな顔をして座っていればOKだろう。


「ふむ……」


 ドゥガルは効率重視の人物なのだろう。誰も進んで話そうとしないのを見てとると、こちらに微笑みかけてきた。彼が相手に選んだのは師匠だ。


「マスター・オルティリト。ぜひご高名な貴方のご意見を伺いたいのですが」


 全員の目が吸い寄せられるように師匠へと向けられる。そうなると必然的に両隣の俺達もその視界に入ることになり、背中から汗がじわじわと噴き出した。

 じいさんは「そうですな」と考える素振りを見せてから言う。


「折角これだけの魔導師が集まり、知恵と力を出し合うのですから、このユニラテラ王国全体にとって有意義かつ、有益な研究としたいと思っておりますぞ」

「ほう」


 大人達が目の輝きを宿し、身を前に乗り出す。うえっ? 国にとって有意義で有益? ま、前置きが壮大過ぎじゃねぇか?

 横を向くこともできないまま、嫌な予感を抱えていると、じいさんが笑顔を更に深める気配が感じられた。



「早かったねぇ」


 揃って城門に帰ってきたのはまだ日がさんさんと照っている時間帯で、そんな俺達を待っていたのは、意外にもキーマだった。


「良く俺達が帰ってくるって分かったな?」

「先生が教えてくれたからねぇ」


 成程。テトラがにゃーにゃー鳴いて知らせたってわけか。でも、あんまり鳴かせていると、騎士寮はペット禁止なのに部屋で飼っているのがバレちまうな。

 いや、あれは本当の生き物じゃないから、きちんと説明すれば大丈夫だとは思うが、飼っている理由について聞かれたら面倒だな……。よし、後で他の合図に変更しておこう。


「もっと時間がかかるって言ってなかったっけ?」

「ん、まぁな」


 不思議に思うのも無理はないか。何時間かかるかと懸念(けねん)した会議が、たった数十分で終わるなどと誰が予想出来ただろう。


「何かあった?」

「……師匠の爆弾発言で、会議が強制終了したんだよ」


 身も(ふた)もない言い草に、ココが先を歩く師匠の背中を追いながら、「それは」とフォローしようとして言い淀む。


「どう取り(つくろ)ったところで、結果は変わらないだろ?」


 師匠の提案を耳にしたお歴々は、前傾姿勢を一転、大いに()()った。


『本気で(おっしゃ)っていますか?』

『議長殿は、私がこの手の冗談を好む性分だとお思いですかな?』


 ドゥガルが初めて眉間に皺を寄せて確認し、師匠がそう返したことで、場に今度こそ重々しい沈黙が降りる。

 ほぼ全員がおしなべて(なまり)を呑みこんだような顔をしていては、会議が盛り上がるはずもない。ドゥガルは(わず)かに逡巡(しゅんじゅん)した後、場を改めることを決断し、本日は早々にお開きとなった。


「メリットがあったとすりゃあ、高そうな筆記用具を壊さずに済んだことくらいだな」

「ふーん。オルティリト師らしいね」


 おい、そんなセリフで片付けるなよ。キーマは完全に毒されてしまっているようだな。俺は師匠に背中に近づき、真意を確かめようと問いかけた。


「……師匠。本気で『飛空術』の研究なんて大それたこと、おっ始める気なんスか?」


 まだやると決定してはいない。が、王族にさえ伝手のあるこの人の意見を、周囲が容易に(くつがえ)せるとも思えない。どんな形であれ取り組むことになるだろう。師匠は足を止め、くるりと(きびす)を返した。

 あれ? なんか怒りモード入ってる……?


「何を悠長なことを言うておる。無駄な疑問を抱く時間があるなら、とっとと序文の草案でも考えよ」


 早っ! つか俺が作るのかよ! 前のめりでツッコもうとしたら、師匠は更に別のことを差し挟んできた。


「ヤルンよ。西の女には気を付けるのじゃぞ」

「え」


 西というと、あの滅茶苦茶目立ってたスネリウェルって女の人のことか?


「あれは有名な魔女の一人。実に恐ろしい相手じゃ。安易に近付くでないぞ」

「……」


 師匠がそんな警告をしてくるなど、今まで一度もなかったことだ。この世に怖い物なしだと思っていたのに、他人を恐れるような発言をしてくるなんて。あの人、何者なんだ……!?

ようやくメインに突入です。可能な限りサクサク進行を目指します!

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