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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
第十部 魔術学会との共同研究編
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第二話 予想外の案内人・中編

そんないきさつで、出かけることになりました。

その前に、一応二人には伝えておくことにするのですが……?

「というわけで、ちょっと出かけてくるからな」


 騎士寮の食堂で夕食時にそう伝えると、ココもキーマも明らかに不満顔になった。先に口を開いたのは隣に座るキーマだ。


「『というわけ』って、どういうわけ? 勝手に決めて、勝手に出かけるなんて酷くない?」

「勝手勝手って、お前は俺の何なんだよ。別に、事前に相談するほどのことでもないだろ? すぐそこだぜ? ガキじゃねぇんだから」


 歩いたって30分はかからないのだ。たまにはのんびり散歩も良いもんだ、なんて適当に応えたら、キーマは「そうじゃないよ」と言って続けた。


「ヤルンが動いて何もないはずないよね? それを目撃出来ないなんて、人生の大損失だって言っ、痛ッ!」

「黙れこの馬鹿!」


 足を思いきり踏ん付けてやり、ついでにかかとでぐりぐりと駄目押しをする。次に何か言いやがったら、椅子から蹴り落としてやるからな!

 すると、今度は向かいの席で食後のお茶を飲んでいたココが口を挟んできた。


「お一人でなんて危ないじゃありませんか」

「ココまで何言ってんだか。ちょっくらすぐそこまで行ってくるだけだって」

「何かあったらどうするんですかっ」


 だん! とテーブルを叩く音が響き、周囲がしぃんと静まり返る。な、なんでもないでーす。だから、こっちをそんなえぐるような目で見ないでくれって!


「いやいや、どんな妄想を繰り広げてんだ? 山奥にある盗賊のアジトに行こうってんじゃないんだぞ。『王立』なんて大層なかんむりが付いてるだけの、ただの学校だぜ?」


 女子じゃあるまいし、わざわざ俺を選んで襲おうなんて手合いがいるかよ。

 それでもココはむぅと膨れて、ぼそりと「私も行きます」と呟いた。足を踏まれた痛みに悶絶していたキーマも、ゆるゆると手を振って同意する。

 駄目に決まってんだろうが。


「二人とも、今から休みなんて取れないだろ? ココにはシフトのことで面倒かけて悪いと思ってる。今度ココが休みを取る時は、俺がちゃんと穴埋めするから」

「そんなことは良いんです。私が心配しているのは」

「しているのは?」

「魔術学院に素敵な女性がいたら困るってことです!」

「はぁっ? そ、そっちの心配!?」


 おう、なんだか温度差があるなぁと思ったら、まさかそんな悩みだったとは。


「あのなぁ。実際にいたからってどうなんだよ。前にキーマが『これからはモテるようになるかも?』みたいなこと言ってたけど、結局何も変わってないだろー?」


 自分で言っていて非常に胸が痛い。まるでギリギリと心臓を踏みつけられているような心地だ。

 しかも、ココ本人にも「それは、そうかもしれませんけど」と認められてしまい、更に痛みは増した。頼むから、それ以上は何も言わないでくれよ。血反吐ちへどを吐くからな!


「学会からのお手紙では、私も呼ばれていましたよね?」

「平気へーき。軽く挨拶してくるだけだ。任せとけって」

「……はい」


 そんなこんながあり、一応は師匠にも出かけることを伝えておいて、「夕刻に来て欲しい」という返事を受け取った俺は、城の門の前までやってきた迎えの馬車に乗り込んだのだった。


 ◇◇◇


 そうして今に至るのだが、俺は馬車を降りた先で出会った相手を前に、どんな反応を返すことも出来ずにいた。


 学院の3年生くらいに見えるその子の顔が、知り合いによく似て……いや、「そのもの」と言って良いほどの酷似こくじぶりだったからだ。

 まだ名も知らぬ少年は、やはり「彼」にそっくりな笑い方でにこりと笑んだ。


「ヤルンさんですよね。僕は案内をするように言われた者です。この学院の三年生でダールと言います。よろしくお願いします」

「ダール? ……キーマ?」


 とうとう名前が口から零れてしまった。そう、そのローブの少年は金髪に整った顔立ちをした――初めて会った時よりももっと幼い印象の、キーマそっくりの人物だったのだ。


 ど、どういうことだ? 他人の空似か? そりゃ、世の中には似たやつが三人はいるとか言うけど、そんなレベルじゃない! でも、魔力の気配は感じないから、変装術みたいな魔術ものでもなくて……!?


 などと、ぐるぐると閉じた輪の中にいるような気分で考えていると、ダールと名乗った彼は衝撃の事実を、さも何でもないことのように告げた。


「あぁ、兄がいつもお世話になってます」

「あ、あに? 兄って」

「キーマは僕の兄さんです。聞いてませんか?」

「聞いて、ない」


 聞いてない。……聞いてない、聞いてないっ!

 なんだこれ。弟って、兄ってどういうことだ? あいつ、兄弟がいるなんて今まで一言も言わなかったじゃないか。しかも同じ王都の中に居て、それも魔導士だなんてどういうことだよ!? ドッキリか、何かの罠か!?


 驚きや怒りや悔しさや、とにかく色々な感情が一気に押し寄せてきて、俺は頭がぐちゃぐちゃになってしまった。ぅわ、この感覚はまずい。


「もう兄さんてば、また面倒臭がったんだなぁ。ほんと仕方ないんだから。……あの、大丈夫ですか?」

「わ、悪い。ちょっと待って」


 咄嗟に懐を探って忍ばせていた水晶を握り込むと、膨れ上がった気持ちともども、魔力が吸い取られていく。はぁ、万が一に備えて持ってきておいて良かったぜ。

 でも、まさか建物に入る前に使うことになるとはな。


「……もう大丈夫。ビックリしただけだから。けど本当の本当に、君はキーマの弟なのか?」

「本当です。ついでに言うと、一年生には妹もいますよ」

「いっ、妹までいるのか!?」


 くっそ、キーマのヤツめ、帰ったら絶対に全部吐かせるからな。覚えてろよぉおぉ!!



「それじゃあどうぞ、こちらです」


 小さな案内人に続き、立派な建物のこれまた立派な扉から中に入る。靴音がやけに大きく聞こえたが、それも入ってしまえば室内の話し声などの物音にかき消された。


「外から見てもでかいけど、中も随分と広いな」


 入ってすぐの部屋は広々としていて、受付カウンターがある。今も何人かの人間が勤めているのが見え、周囲には生徒や教師らしき大人達がちらほら歩いていた。


「ほら見て。あの人だよ」

「あぁ、あれが噂の」

「想像とちょっと違うかも」


 って、なんか見られてる? ひそひそ噂されてる? よそ者だから?

 ダールは受付の人間に客の来訪を告げ、誰かに伝えるように言った。多分、手紙のやりとりをした相手だろうな。

 どんなやつなんだろう。差出人の名前は常に「魔術学会」だったし、文面は簡潔、字体もさらっとしていて、男か女かさえも推し量ることは出来なかった。


「どうぞ」

「あ、あぁ」


 案内されるまま二階に上がると、今度は個室らしき扉がずらーっと奥まで並んでおり、上がってすぐの部屋に通された。

 5人も入れば窮屈そうな白っぽい室内には小さな窓しかなかったが、魔力の光で十分過ぎるほど明るい。中央には丸テーブルがあり、背もたれ付きの椅子が4つ並べられていた。


「すぐに来ると思いますから」


 俺を座らせ、自身は入口傍に立ったキーマそっくりの少年・ダールは、また俺が毎日見ている笑い方で微笑んだ。

 あまりに似ているので、自分がまだこの場所――王立魔術学院にいるという実感がわいてこないほどだ。


 まるで自分までが子どもになってしまったかのような錯覚に陥りそうになる。本当にまた縮んだらマジ泣きしそうだけどな!


「……なぁ、ちょっと聞いても良いか?」

「なんですか?」

「その、キーマやダールの家のこと、とか」


 問うまで、やはり逡巡はした。キーマは自身の素性に関して、これまで何も語ってはこなかったからな。

 せいぜい両親が厳しい人達だと言っていたとか、振る舞いから良い家柄の出身ぽいなとか、その程度のことが曖昧に分かっているだけだ。


 俺の家の話をした時も乗ってはこなかったから、事情があるのだろう、そのうち分かるだろうとずっと放置してきた。あ、でも兄弟がいるのを匂わせるような発言は、何年も前にしていたような気がするな?


「家のことですか」

「あぁ。まずい質問だったか?」

「うーん」


 ダールはそう言って、すぐに返事をしなかった。兄が、弟妹がいることさえ何年もの間、黙ってきたのだ。自分がべらべら喋っていいものか迷っているのだろう。でも、あいつも覚悟を決めたのだと思う。


「俺が『王立魔術学院に行く』って言った時に、あいつ止めなかったんだよ。付いてこようとはしたけどな」

「じゃあ、ちょっとだけ?」


 ぽつりと言って、彼は兄のように笑った。

やっとキーマについて書ける!と、ややテンション高めです。

軽く纏めると、ヤルンには兄がいて、ココには弟がいて、そしてキーマには弟のダールと妹ですね。

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