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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
第二部 修業の旅編
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第一話 新たな出発・前編

第二部開始です。見習いとして基礎を教わったヤルン達に提示された次なる道は。

 俺はヤルン。商家の次男坊だ。12歳になったのを機に、ユニラテラ王国の隅っこの町・スウェルで兵士見習いになった。

 そして、見習いとしての幾月かが瞬く間に流れ、俺達は正式な兵士になるための試験を受けることになった。ここで合格点に達しないものや、訓練中に体調を崩してしまった者には二つの選択肢しか残されていない。


 次に入ってくる見習い、つまり後輩ともう一度同じ訓練を受けるか、家に帰るかのどちらかだ。悲しいことだが、この措置は国の慈悲でもある。皆について来られない者は易々と命を落としてしまうのが「兵士」という職業だからだ。


「はぁ」


 俺は魔導士になんてなりたくないとずっと思い続けてきた。剣士として名を上げ、王に仕える騎士になるのが夢だからだ。進むとは決めたものの、今歩んでいる道は、その夢から確実に遠ざかってしまっている。

 しかし、兵士になることすら諦めてしまったら、道は遠ざかるどころか、ぶつりと切れてしまう。嫌な道でも進んでいる方が百万倍マシだ。


「分かるか、キーマ? 俺の苦渋の決断って奴をさ」

「……寝る前に牛乳飲みながら(くだ)を巻くの、止めてくれない?」

「うるさい。あんまりチビバッシングするなら背骨を一本ずつ抜くからな」

「会話のキャッチボールって知ってる?」



 試験は剣士と同日で、初日が筆記、その翌日が実技という日程で行われた。

 初めて城を訪れた日を思い出させるように、あの時と同じ部屋、同じ席に座るように命じられる。

 けれど、そうすることで嫌でも目に付くのはぽっかりと空いた幾つかの席だ。言うまでもなく、そこには以前、同い年の人間が座っていた。


「……」


 兵士は見習いといえども心身ともに激務だ。怪我をしたり訓練についていけなくなった者も珍しくない。普段は自分のことで手一杯で、気にする余裕もなかったが、一人、また一人と同期の者が城を後にし、「俺達」の数は減っていった。


 宿舎も目に見えて寂しくなっていくのに気付いてはいても、まだ正式に任じられてもいないこの段階で、こんなに空席が目立つなんて思いもしなかった。

 改めて考えると、胃がきゅっと締め付けられるような心地に襲われる。俺は繊細な人間だからな。


「絶っ対に残ってみせるぞ。こんなところで終わってたまるかよ!」


 口の中だけで呟きながら見渡すと、ココやキーマの姿も遠くに確認出来た。

 真面目なココはいつも以上に気を張っているのか、汗でも垂らしそうなほど真剣な眼差しを前へ向けている。キーマは……おい、欠伸(あくび)すんな! ……いつも通りのようだ。

 俺達はあの日と同じ試験官の「始め!」という合図で、一斉にペンを走らせ始めた。




「蛇の生殺し……」


 試験の結果が出るのは二日後だった。それまでは通常通りの生活に戻って、訓練や雑務にあたる。

 今は、あと少しで発表という頃合いである。キーマと正門近辺の警備を任され、見張りと称してウロついていた。


「それ、言葉の使い方間違ってない?」


 そんなことはどうでもいい。生き地獄感が伝われば良いのだ。死力は尽くしたつもりでも、あそこでああしておけば良かった、なんて後悔が、試験直後からずっと頭の中で渦を巻いていた。


「顔が青いよー、少しは落ち着けってば」

「お前はどうしてそんなに涼しげなんだよ」


 あっけらかんとしたキーマが、俺には謎でしょうがない。


「今更悔やんだって無意味だし、やることやったら後は結果を受け止めるだけだよ」


 隣で剣を腰にさして立っているこの相棒は、果たして馬鹿なのか大人なのか、どちらなのだろうか。げんなりする俺の耳に集合の合図が届き、次いで講堂に走り込む足音が響いてきた。


「マジっすか!」


 単刀直入に言うと、俺は合格していた。それまで習った師匠から、祝福の言葉と共に一人前の兵士の証である銅のバッジを貰う。盾を模した小さなそれを恐る恐る両手で受け取ると、胸元にそっと付けた。


「ありがとうございますっ!」


 ううぅ。嬉しい。やったやった!

 なんとか自制して体を直角に曲げて礼をし、抑え切れない喜びでにやけた顔のまま席に戻った。新しいバッジはきれいに磨き上げられ、眩しいばかりの輝きを放っている。


 もちろん、階級はまだまだ下っ端だ。この試験だって、ここまでやってきたヤツなら落ちる者はそんなにいない。だとしても、これまでの頑張りが認められた証拠が胸できらりと光っているのだ。嬉しくて跳び跳ねたいくらいだった。

 ココやキーマも順当に乗り切ったらしく、やや誇らしげな表情で前を見据えている。


「合格おめでとう」


 惜しくも試験に落ちてしまった者が席を去ると、結果発表をしたガタイの良い教官の口から、今後についての話が静かに始まった。


「これでお前達も正式に我々の一員となった。我が国の兵士として、より一層の努力と活躍を期待する」


 太い声が講堂に響き渡る。腹のそこにビリビリと振動を感じさせる重低音だ。全員が起立し、合格発表の時から続く緊張感がピークを迎えた頃、教官が告げた。


「お前達に最初の任務を命ずる」


 期待と不安で唾を飲み込むのも忘れていた。


「ユニラテラ王国では、高みを目指す者に家柄や性別・年齢を問うことはない。農民の出でも武勲(ぶくん)をあげれば高い地位に就くことが許される。ただし、そのためには各地へ出て経験や実績を積まねばならん」


 従って、と教官は一呼吸置く。


「城に残るか、このスウェルの外へ出るか、三日後までに決めておくように」


 教官が「以上!」と叫んで退出する。


「え……」

「どういうことだ?」

「俺達、ここに勤めるんじゃないのか?」

「旅に出されるってこと?」


 場が一気にざわついた。

 思いもよらない展開に、俺は瞬きもせずに立ちつくしていた。周りでは驚いた奴等がそれぞれ動揺した様子で意見を交し合っていたけれど、全てが遠くに感じられた。

 ぽん、と肩が叩かれる。いつの間にかキーマが近寄ってきていた。


「聞くまでもない?」


 開けっ放しになっていた口が、再びにやりと歪む。俺は親指を立てて笑った。そう、確認するまでもなく、選択は決まっている。


「とっとと部屋に戻って荷造りしようぜ!」


 立ち止まっている時間が惜しい。弾かれたように廊下へと走り出した。

ちなみに城に居残ると普通に衛兵とかになります。

途中で挫折したり、試験に落ちて再チャレンジも諦めた子は、家に帰って別の道を探します。

なお、ヤルン達の中にも実は留年組が数人いました。ヤルンが気付いていないだけ。

兵士の訓練に参加させられるのは義務でも、その後は割と自由。優しいような、厳しいような。

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