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騎士になりたかった魔法使い  作者: K・t
第九部 古き技術と新しき兆し編
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第二話 最年少マスターの実力

第八部でバトルがなかったので、こちらに。

せっかく騎士見習いになりましたし、動いて欲しいですからね。

というわけで戦闘シーンがあります。痛い表現にご注意ください。

 その提案をしてきたのは、護衛役の隊長であるレストルだった。


「そろそろ、お前達の実力を見せて貰いたい」

「実力?」


 屋外での午前中の訓練を終え、噴き出した汗を服の袖で雑に拭いながら、俺は問い返す。ちなみに訓練内容は兵士だった時とさほど変わらず、走り込みや組手、魔術の反復練習などである。


 違うとすれば、扱う魔術のレベルか。基礎である地水火風をなんなく操れるのが魔導騎士の最低条件で、その上で良く訓練させられるのは結界をはじめとする防御系の術だった。

 騎士団では、攻めるよりも護ることに重きが置かれているようだ。


「えっと、何か問題ありました?」


 急にそんなことを言い出すからには、きっと何か理由があるはずである。

 こう見えても、「魔導師マスター」の称号を得た身だ。心得が足りないと言われれば仕方ないにしろ、力の不足の方はないと思いたいのだが。

 緊張を抱きながら返事を待つと、レストルは「そうじゃない」と首を振った。


「一通りの経歴は聞いているし、仕事ぶりを見ていても問題はない、と俺は思っているが、そうでない連中も居てな」

「あぁ、成程」


 合点(がてん)がいった。俺は見習いでありながら王族の護衛という任に就いているため、騎士団からはやや外れた部門に所属している。公式にはレストル直属の部下だ。

 実際にはお姫様の手下というか、退屈を紛らわせる相手っぽい感じになっているけど、そこは言わないお約束である。


 それはさておき、もちろんこうして合同訓練には参加しているのだが、それとて仕事が優先されるせいで半日のみだったりして変則的。他の騎士見習い達とは、あまりに異なっていた。


「ま、上の人達からすれば、得体が知れないでしょうね」

「そんなことは」

「実力をお見せすれば良いんですね?」


 レストルが庇うような発言をしかけたところに、ココが割って入る。(したた)る汗を清潔な布で拭いつつ、「模擬戦ですか?」と続けた。


「あぁ。3対3のな」


 3対3? ってことは。



「遅めの入団試験だと思って取り組んで欲しい」


 年配の騎士は、厳しい顔付きでそう告げた。入団試験かぁ。そういえば俺達は経験していないな。うん、マジで変則的だ。

 今いるのは騎士用の屋外訓練場で、中央には俺、ココ、キーマと、対戦相手を務める騎士の3人が立っている。


 手前に剣師、奥に魔導師と弓師という組み合わせで、全員、まだ若そうだ。と言っても俺達と比べられると困るけど。

 周囲は複数人の術者によって結界が張られ、更にその周りをぐるりと騎士達が取り囲んで、これから行われる試合を見届けようとしていた。中にはレストルや、現在の同僚である護衛役のメンバーの姿も見受けられる。


「勝てなかったら除隊、なんてことは、ないですよね?」


 (よぎ)った恐れを口にすると、先輩騎士は「ない」ときっぱり言い、「勝てるつもりでいるのか」と睨んできた。うお、凄い眼光。


「気構えは買おう。しかし、騎士の(ほま)れを汚すような無様(ぶざま)な試合をすることだけは、決して許されん。覚悟しておくのだな」

「は、はい」


 彼が結界の内側ギリギリの位置まで下がり、試合開始が近いことを無言で示す。俺とココは数歩後退し、代わりにキーマが前面に出た。


「この3人で組むのは初めてですね」

「だな。キーマ、頼むぜ?」


 後衛がどれだけ戦えるかは、前衛にかかっていると言っても過言ではない。軽くプレッシャーを与えてやったら、ちらりと振り返った。


「こっちにしたら、前より後ろの方が怖いんだけど」

「なんでだよ!」

「相手ごと燃やしたりしないでよ」

「誰がそんな真似するかっ」


 うがー! 売り言葉に買い言葉で口喧嘩をしていると、ココが「まぁまぁ、お二人とも」と(なだ)めてくる。


「ほら。皆さんお待ちですし」


 はっとして相手の3人を見ると、呆れたような顔をしていて、かーっと顔が熱くなった。試合前から醜態(しゅうたい)(さら)してどうするんだよ! キーマのせいだからな、後で覚えてろよ!

 すると、剣師が近寄ってきた。なんだろう、こちらの緊張でも解してくれるのか、はたまた、もっと真剣にやれと叱られるのか……。


「騒ぐな。ふん、お前ら、見習いの癖に出しゃばり過ぎなんだよ」


 静かな声に、ひゅっと俺のノドが鳴った。20代後半くらいの背の高い剣師は、瞳にだけ怒りを収めている。

 決してチンピラ染みた挑発ではない。小声だったため、見届け人の騎士にすら気付かれなかっただろう。最も近くにいたキーマが応じた。


「そんなつもりはありませんが?」

「どんな手管(てくだ)で王族に取り入ったのかは知らないが、騎士団には騎士団のルールがある。規律を乱す者には出ていって貰おう」


 ずけずけと、言いたい放題だな。己の置かれた状況を分かってはいても、こうも直接ぶつけられるとキツイものだ。普段、どれだけレストルが気を配ってくれているのかに、改めて気付かされる。


「実力があるところを見せれば、文句ないでしょう?」


 俺は言い放ち、そいつをめ付けてから薄く笑った。けれども、三下であれば乗ってくる安い挑発に、正騎士がひっかかるはずもない。


()えるな。本物の騎士というものを教えてやる」


 くそ、こうなったら何がなんでも認めさせてやる! でなければ、明日から居場所などないに違いない。剣師が所定の位置に立ち、腰からすらりと長剣を抜く。合わせて仲間の2人もそれぞれ武器を構えた。

 こちらも同じようにキーマが剣を、俺とココが魔導書を構える。観戦者達のさざめきが消え、辺りが静寂に包まれたところで、見届け人が手を上げ……鋭く振り下ろした。


「始め!」



「はッ」

「おっと!」


 開始の合図と同時に飛んできたのは、空気を切り裂く矢だ。でもそれは想定済み! 余裕を持ってかわすことが出来た。

 向こうにしてみれば、前衛がやり合っている間にどれだけ俺やココを削れるかが勝負だろうからな。当然、相手側だって初手が当たるとは思ってはいない。弓は時間稼ぎで、本命は魔導師の方だ。


『炎よ、()ぜよ!』


 威力より速さを選んだ敵の術が完成する。それは幾つもの炎の塊で、緩やかな弧を描いてこちらに飛んできた。ちょっ、避けても熱っ!


『凍て付く(はな)よ、舞え!』


 状況を見たココが術を発動させる。その身を包む形で無数の白い花びらが出現し、手の動きに従って散り散りになった。それは飛び回る火の粉や熱を消し去ってくれる。ふぅ、助かったぜ。


 直後、キーマが一足飛びに敵の剣師の間合いに飛び込み、下段から思い切り獲物を打ち上げた。ぎぃん! と刃と刃がぶつかり、目を焼くような火花を生み出す。

 どれくらいの時間、持ち(こた)えていられるだろう。仮にも自分と同じく王族の護衛に取り立てられた、その腕前を疑うわけではないが、正式な騎士を相手に差しの勝負は分が悪いはずだ。


余所見(よそみ)しないで! 上っ」

「うわっ」


 キーマの警告に合わせ、またも矢が飛んできた。それを俺がかわす合間を()ってココが応戦するも、敵の魔導師は防御が得意なようで、いちいちかき消されてしまう。

 以前に戦ったファタリア王国のルイーズほどではないにしろ、なかなかに隙のない動きだ。ココが「どうしたんですか!?」と困惑を口にする。


「わ、分かってる!」


 ちっ、まずは相手の動きを見てからと悠長に構え過ぎたか。


「どうした、威勢が良いのは口だけか?」


 剣師が言う。誰から攻撃すべきか悩んでいたが、悩んでいる時間も惜しい。今の一言で決めたぜ。面倒くさいやつから潰す!


(いかづち)よ、敵を(ほふ)る力を与えよ!』


 声に応えてカッと光が射し、キーマの剣に雷が宿る。相手が危険を察知して咄嗟に数歩分、間合いを取った。


「わっ、これ大丈夫!?」

「馬鹿、お前がビビってどーすんだ! 良いから戦えっ」


 雷の剣の扱い方は前に師匠との戦いで一度見せている。キーマならすぐにでも使いこなすだろう。

 その時、敵が舌打ちするのが聞こえた。よし、くれぐれも警戒してくれよ。俺は次いでさっと身を引き、ココの近くへ寄って耳打ちする。


「少しで良い。時間を稼いでくれ」

「任せて下さい」


 確かに向こうの魔導師は防御に長けているけれど、こちらだって負けてはいない。ココは風を招き、術も矢も弾いてみせた。


「なっ」


 矢は強い空気の流れに弱いし、攻撃魔術が通るかどうかは込めた魔力量に左右される。攻めに回らなくて良いのであれば、彼女はまさしく鉄壁だ。

 そして、俺もただ指を(くわ)えて見ているわけじゃない。すでに一つ唱え終わっており、続けざまにもう一つの術に取り掛かる。


『無と有。精神の狭間、(つかさど)りし存在もの――』


 唇の動きでも読んだのだろう。敵の魔導師の顔に焦りが浮かんだのが見えた。


「やつを止めろ!」


 目標を完全に俺へと定めたらしく、仲間にも指示を飛ばす。が、剣師は魔力を(まと)った剣を握るキーマにかかりきりだし、弓師はココの風壁を前に二の足を踏んでいる。止められるものなら止めてみやがれ!


『この手に宿りて刃とせ!』


 呪文が終わり、俺の手には全身が透けたつるぎが現れる。かろうじて見えるのは白っぽい輪郭(りんかく)くらいだ。


「なんだそれは……」

「おや、手元が留守ですよ、っと!」

「グッ」


 剣師が(いぶか)しげに呟くも、その隙を逃さずキーマが畳みかけたため、応えることは出来なかった。いや、手の内を見せることになるから、わざわざ応えるつもりもないがな。


「それじゃあ、行きますよ、先輩?」


 風による壁ギリギリの位置に立ち、剣を構えて敵の魔導師に言ってやると、鼻で笑われた。一瞬は余裕を失っても、まだ自分が優位に立っていると思い込んでいるようだ。


「先ほどは少々焦ったが、それは直接当たらなければ無意味な術だろう。そこからどうやって当てるつもりだ?」


 あぁ、やっぱりそういう理由で。でもなぁ。俺はなんだか楽しくなってきて、口の端が自然と持ち上がるのを感じた。


「そんな初歩的なミス、すると思いました?」


 言いきる直前、パチン! と空いている方の指を鳴らす。前に唱えておいた術が発動し、魔導師の目の前から俺の姿がぱっと消え――音もなく真後ろに現れる。


「ど、どこに行った!?」


 疑問を吐き出すも、彼は最後までその答えに行きつくことはなかった。俺が手にした透明な刃に、背後から腹を貫かれる瞬間まで。


「な……」


 そうして、どさりと前に崩れ落ちる。一連の動きは、やけにゆっくりと感じられた。(わず)かに砂塵(さじん)が立ち、空気が一瞬にして止まったかのような錯覚に陥る。


「や、ヤルン? まさか……こ」


 キーマが真っ青になって言い、相手をしていた剣師もその切っ先をスッと俺に向け直した。ふるふると、剣も腕も震えている。


「おお、お前っ、やったのか!」

「え」

「これは試合だぞ! いくら俺達が挑発したからといって、命まで奪うとは……!」


 その声が決定打となり、結界の向こう側も空気の膜が破れたみたいに騒然となった。……あ、あれ?


「立会人! その見習いを今すぐ捕縛しろ!」


 誰かが叫び、控えていた見届け役の騎士が俺をぎっと睨みつける。その鋭い視線はどこか師匠に似ていて、体が強張った。


「そこを動くな」

「ち、違う。違うって……!」


 かろうじて口に出来たのは、それだけだった。



 地下牢に放り込まれた俺の身元引受人は、レストルと師匠だった。太い鉄格子越しに二人の顔を見た途端、不覚にも涙が出そうになった。泣かないけど!


「大変だったな」


 レストルが鍵を開けてくれ、俺を解放してくれる。ほんの一瞬、脱獄しようかと思いかけ、とどまって良かった。


(なげ)かわしい。一体何をしておるのか」

「ただ試合をしてただけなのに、相手を倒して投獄されるなんて、理不尽だー!」

「いやだって、あれは完全に死んだと思ったからな」


 濡れ衣が酷い! と(いきどお)っていたら、師匠が「どうせまた、やり過ぎたのじゃろ」と言った。うぐ。そりゃ、試合が面白くて、少しハイになってたかもしれないけどさ。


「あの透明な剣はなんだったんだ?」

「あれは精神を切る剣です。切られると気絶するけど、体を傷つけずに済むと思って」


 先日、ココが図書館から魔術書を見つけてきて、習得したばかりの術だ。実戦で使う良い機会のはずだったのに、あんな反応は予想外だった。

 自室に戻ってみると扉の前でキーマが呆れた顔で立っていて、俺を見るなり言った。


「おかえり。お姫様からの伝言。『戻り次第すぐに部屋まで来るように』だってさ」


 げげっ、やっぱり脱獄すれば良かった! その後、滅茶苦茶、姫には叱られ、騎士団にもバッチリ危険人物認定をされてしまうのだった。

はい、いつもの「やり過ぎ」でした。対戦相手の3人は寝込んでしまいそうですね。書いていてちょっと可哀想になりました……。

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