第5話 大地盾哉はプランを語る。
「後輩君、ようやく漕ぎつけたデートなんだ。ちゃんと素敵なプランを考えるんだよ?」
初夏が近付き始めた次の休日、僕は9日前から付き合い始めた魚好きの彼女とデートする事となった。
それを先輩に報告すると先輩は僕の肩を強く掴んで、真剣な表情で告げた。
「わかってますよ先輩。ナンパ王なんて不名誉な称号を返上すると共に素敵なデートを演出してみせます!」
自信満々に僕は先輩に向けて拳を握り締めて意欲を示す。
そんな自信満々の僕を見ながら、先輩は顔を顰めつつ不安そうに僕を見る。
「そんな目で見ないでくださいよ。僕はきっと今回こそやって見せますから!!」
「そうかい? だったら、どんなプランにするか一応聞こうじゃないか」
ふっふっふ、僕の考えたプランを聞いて「成長したね後輩君!」って褒めてくれますよ先輩は。
確信を抱きながら僕は先輩へとデートプランを告げて行く。
すると不安そうな表情が驚いた表情に変化し……たけれど、徐々に信じられない者を見るように変化して行く。
これはまるでジェットコースターのようだった。上昇からの急降下といった感じである。
そして彼女とのデートプランを最後まで口にし終えると、聞いていた先輩は眼鏡を外し……眉間を揉み解してから、ハアと溜息を吐いた。
最後に天を仰ぎ見て……なんというか、神に祈りでも捧げてるとでも感じさせるようだった。
「後輩君、キミの考えたデートプランを私の口から復唱させて貰うけど構わないかな?」
「構いませんよ」
何か問題でもあったのだろうか? 先輩の様子に疑問を抱くけれど問題となっているような物は無いはずだ。
だから、何を言われて問題は無い!
「じゃあ言うよ。まずキミは水族館でデートをする。そして昼食は回転寿司を食べる。そして夕方までは釣堀で魚釣りだね?」
「はい、どうですか? 魚好きの彼女にぴったりのプランですよね!!」
「ピッタリじゃないよ! 全然ダメじゃ無いか!!」
「え?」
信じられない、全然ダメだった?
珍しく絶叫する先輩を驚いた目で見ながら僕はキョトンとする。
「いや、何でそんな信じられないみたいな顔をしてるんだい?」
「り、理由を教えてください! どこがダメだったんですか!?」
「じゃあ言うよ? 水族館は良いと思うよ。うん、魚好きという彼女に対しても好印象だろうね。けどね、お昼ご飯に回転寿司ってどう言うつもりだい? 美味しいよお寿司は、でもね彼女魚好きなんだよね? 動いてる魚見てるときっと心が踊るよ、でもねネタになった魚を見て喜ぶかい? 私は分からないよ。そして何が悲しくてせっかくのデートで夕方まで釣堀で釣りをしなくちゃならないんだい!?」
ぜえぜえと息を吐きながら、一気に喋って疲れたのか先輩は息を吐いた。
そして呻くように一言……。
「というか、何で私はツッコミ役をやってるんだい……」
と呟いていた。
一度気分転換を兼ねて飲み物を買いに行き、缶ジュースを片手に僕と先輩は自販機近くの休憩所で向かい合うようにして座っていた。
先輩はオレンジジュースをこくこくと飲み、ふぅ……と息を漏らしている。
「いや、すまなかったね。キミは何時も通り平常運転だっただろうけど、私は暑さで頭が参りかけていたらしい」
「暑さでって……、まだ去年よりは暑く無いですよ? 今はまだ過ごし易いと思いますし」
「馬鹿を言うんじゃない、ほんの少しの暑さの油断で人間は倒れてしまうものなんだよ? 私も去年街中を歩いていたとき、暑さで倒れてしまって数日間入院したのだからね?」
「えっ! それ大丈夫だったんですか!?」
「ああ、倒れた時は妹が一緒に居たから、すぐに救急車を呼んでもらったよ。……って、今はその話しではなくキミの話だ。過ぎたことなのだから、心配そうな顔をしないでくれ」
先輩から語られた言葉に驚き、心配そうな顔をしていたようで先輩は僕を見ながらそう言う。
けど、あの夏の暑さは下手をすれば死んでしまう可能性だって高いものだった。
死ぬのは……ダメなのだ。
「後輩君、ちゃんと話を聞いているのかい?」
「え!? あ、すいません。聞いていませんでした」
「まったく、ボーッとしてるんじゃないよ後輩君。兎に角キミは明日のデートではあまり喋らないことを勧めるよ」
僕が謝ると先輩は呆れたように僕を見たけれど、ちゃんと説明をし直してくれる。
やっぱりこの先輩は良い人だな。
「喋らない、ですか?」
「ああ、これまでキミが振られているのは基本的にキミが余計なことを言ったからだと思うんだ。と言うか気づくべきだったよ……」
「余計なこと、言ってますかね?」
「言ってるだろう? 貧にゅ――げふげふ、胸のコンプレックスを抱いてる女性に胸を褒めたり、ハンドボール部の期待のルーキーにゴリラみたいでカッコイイとか言ったり、女子サッカー部の女性に「汗臭いね。でもそこが良いよ」って言ったりしてたじゃないか」
ああ、彼女たちから受けたボールは痛かったなぁ。あと蹴りも。
先輩の言葉でこれまでのことを思い出しながら、頷く。
そんな僕を見て、理解したと悟ったと考えたのか先輩は言う。
「だから後輩君、キミは基本的には「はい」とか「うん」とかで彼女の話に相槌を打てば言い訳だ。分かったね?」
「あ、はい……。何とかやってみます」
「はい」とか「うん」だけで返事をするのは厳しいと思うけれど、なるようになるだろう。
というか、本当の恋を知るためには必要なことに違いない!
そう思いながら僕は意気込む。そんな僕を見ながら先輩は一言。
「ああ、今回は私はキミを見るつもりはないよ。だからどうなったかは結果を休み明けの学校で聞かせてもらうよ」
「はい、分かりました! 僕のデートの成功を期待しててください!」
自信満々に僕は先輩に告げた。
Q.サバゲー好きの彼女だったらどうしてたのか。
A.盾になって撃たれても彼女を護り続けますよ!
先輩「ゾンビ行為やめろーー!」