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第3話 大地盾哉は釈然としない。

 人がちらほらと少なくなり始めた食堂で僕は先輩と向き合うように座り、それぞれ食事を行なっていた。

「ちゅるちゅる、それでだ後輩君。キミに足りないのは、ちゅる。彼女の良いところを褒めるということだと思うんだっ、ちゅるる」

 昼食のうどんを食べながら、先輩は向かいに座る僕へと言う。

 1本1本麺を食べるという独特な食べ方をする先輩を見ながら、僕は頷き食事を行う。

 あの後、僕は先輩と共に食堂へと向かい、それぞれ別の注文を行ない料理を受け取り、ひとつのテーブルに座って話をしていた。

 具体的に言うと僕が先ほど平手打ちを喰らい、別れを告げられた彼女と付き合って5日間の間どのような事をして、どのような結果となったかをだ。

 それを聞き終えた先輩は、呆れたように僕を見ながら今の言葉を口にした。

 ……良いところを褒める。かあ。

「後輩君、キミは今まで付き合った女性に彼女達の良いところを褒めた時はあるのかい?」

「ありますよ? 中学のころに付き合った食べるのが大好きな子には『いっぱい食べるよね!』って大きな声で言って褒めましたから!」

「……後輩君、それは言い方を変えると『いっぱい食べるから、そんなに太ってるんだね』という風に聞こえるよ?」

「ええ、予想通りふくよかな女性でしたけど、ご飯を食べるときのえくぼが可愛かったんですよ!」

 その時の彼女の姿を思い出すけれど、本当にふくよかな女性だった。

 きっと平安時代だとすっごく美人って言われるほどの女性だ。

 つまりはぽっちゃりちゃん。

「けど、僕がそう言ったら彼女は泣きながら、僕の胸目掛けて張り手を放ったんですよね。あの時は5メートルは吹っ飛びましたよ。公園だったから物に被害はありませんでしたけど」

「ああ、それはすごいね……。けど、キミの言い方は色々と誤解を生み易い気がするから、もう少し付け足すべきだよ」

「付け足す。ですか? 例えば?」

 何処となく疲れた様子の先輩へと僕は尋ね返す。

 すると先輩は一旦食べるのを止め、箸を置いてから思案し始める。

「例えば、か……。先ほどの後輩君が彼女に対して言ったという『いっぱい食べるよね』いう言葉ならば『僕はいっぱい食べる人が好きだよ』とか『食べてる時の顔が可愛いね』とか付け加えると良いのでは無いだろうか?」

「なるほど、参考になります!」

 ほんの一言でも付け加えたら相手への印象が変わるか。今度参考にしてみよう!

 そう思いながら僕は昼休みがもう少ないと感じて、昼食の牛丼を急いで食べる。

 残っていた牛丼はすぐさま無くなり、空いた器をトレイに置き、向かいの先輩を見たけれど……先輩はまだうどんをちゅるちゅると食べている最中だった。

「先輩、昼休みもうすぐ終わりますよ? 急がないと」

「ああ、私は構わないよ。キミは授業に出たまえ」

 我関せず。そう言わんばかりに先輩はうどんをちゅるちゅると食べながら僕に言う。

 本当にいいのだろうかと疑問に思ったけれど、いま戻らないと午後の授業に遅れてしまう。

「……それじゃあ、僕は行きますけど先輩もちゃんと戻って授業受けてくださいね?」

「ああ、何時も通り(・・・・・)にするさ」

 そう言って、先輩は僕へと手を振って見送る。

 僕は先輩に見送られながら、教室へと戻る為に移動し……教室に辿り着いた瞬間、チャイムが鳴った。

 どうやらギリギリだったらしい、そう思いながら席へと向かうと隣の席の友人がニヤニヤと笑いながら僕を見ていた。

「聞いたぞー、お前また振られたんだって?」

「ああ、また振られたよ。はあー……また違う女性に告白しないとな」

 可愛かったんだけどなー、そう思いながら机に上半身をグデッとさせると友人はニヤニヤ笑っていた表情を呆れたものへと変えて溜息を吐いた。

「……おまえなあ、そう言うことしてるから全然もてないって分かってるのか? しかも『天才』神林葛葉と一緒に食事してたって言うじゃないかよ!」

「天才って、普通の先輩だろう?」

「ばっかお前! この学校にこの人ありって言われるほどの天才美少女だぞあの人は!」

 そうなのか? 僕にとっては恋愛のアドバイスをくれて、僕を観察している先輩でしかないけどなあ。

 そう思いながら友人の話に耳を傾けていると先輩の噂が次々と語られていく。

 美人で、成績優秀で、身体能力も抜群、美人で、知識欲も半端無い、研究に没頭するための自身の部屋が学校内にあるという、何時でも授業を抜けても良いし、授業は出ても出なくても良いと学校からは言われている。

 幾つか嘘みたいな話しだろうけど、食堂で僕を見送る先輩の余裕そうな反応はそれだからだったのだろう。

「ま、僕にとっては普通の先輩だよ」

 先輩を褒め称える友人を見ながら、僕は呟く。

 いや、普通の先輩っていうよりも頼りになる先輩か。

 先輩に貰ったアドバイスを活かして、今度こそ新しい恋を成就してみせるぞ!

 意気込みながら、僕は授業を受けるのだった。

天才と何とかは紙一重。

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