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第2話 神林葛葉は興味を示す。

交互に変わる予定です。

 チラチラと桜の花びらが舞い散る中、私こと神林葛葉は付き合って3日目の女性に頬を叩かれ倒れる後輩君を見ている。

 彼はばったりと倒れると、暫くジッと動かない。

 気絶でもしたのだろうかと思ったけれど、これまでのように失恋の痛みを感じているのだろう。

 そう思いながら私は彼へと近付くために歩き出した。

「やあ後輩君、6回目の失恋はどうだい?」

 後輩君、本名は大地盾哉という名前で、少しだけ顔立ちは良いけれど何処にでも居るような青年だ。

 高校男子の平均的身長と体重、ある程度の長さでまとめた髪は黒に近い焦げ茶色、秀でた特技も魅力も正直言って感じられない。

 そんな平均的すぎるスペックだと言うのに、彼は私がドン引くまでに色々な女性に声をかけていた。

 初めて彼を見たときも、彼は彼女に振られていた。


 ――退屈な授業を受けても。あまり面白いと思えない。


 そう思いながら、私はよく授業を抜け出して色んな所で休憩(サボリ)をしていた。

 屋上だったり、空き教室だったり、図書室だったり、食堂だったりと日の気分によって様々だ。

 新学期が始まって2日目、退屈な授業に飽きた私は何時もの様に授業を抜け出し、屋上の貯水タンクの側で佇んでいた。

 日の光がポカポカと暖かく、春の陽気にウトウトとする私の耳に扉が開く音が聞こえた。

 誰かが来たのかと思い、目を開け下を覗くとひと組みのカップルの姿が見えた。

 男子の方は見覚えがないけれど、女子の方は2年生で空手部に所属している実力派だったはずだ。

 そうか、あの2人は付き合っているのか。恋の瞬間を目撃できる。

 興味深いと感じながら私はその光景をマジマジ気配を殺しながら見つめる。

 しかし、それは私が思っていた甘酸っぱいカップルの光景などではなかった。

「このクズヤロウ! 試しに数日間って思ったこっちが馬鹿だったよ!!」

「ぐえあっ!!」

 女子の罵声と共に放たれた鋭い拳は男子の顔面に命中し、男子は屋上の床に背中から倒れた。

 そして、女子の方は怒りが収まらないまま、ズンズンと地面を揺らしているのではないかと思えるほどに歩きながらその場を去って行った。

 男子の方を見ると殴られて倒れたまま動かない。

 もしかして気絶でもしているのだろうかと思いながら、近付くと……目を開けたまま呆然としていた。

「……誰ですか? あと、パンツ見えていますよ?」

 現れた私にまるで関心が無いとでも言うように、チラリとこちらを見てから視線を……いや、再び私のスカートの中へと注いでいた。

 ……キミ、いま振られたよね?

 それなのに、何故倒れたところに現れた女子のパンツをマジマジと覗いているんだい?

 いい性格しているじゃないか。

 そう思いながら、私は目の前の男子に興味が沸いてきた。

「ふーん、キミ面白いね。振られたというのに、ぜんぜん振られた事が悲しそうじゃないし……しいて言うならそれが当たり前という風に見えるよ? もしかして日常茶飯事なのかい?」

「そうですね。日常茶飯事……でしょうか。昔から色んな女性に声をかけて、一週間も持たずに別れています」

 なおも私のパンツを見続けるその男子だったが、淡々と尋ねた私へと言う。

 その言葉には悲しいと言う感情はあまり含まれておらず、振られるのは当たり前という風に感じられた。

 一週間と持たず、それは予想外だったと思いつつ彼を見ていると彼は話し続ける。

「今の子は入学式から2回目に声を掛けたんですけど、1日も持ちませんでした」

「入学式から2回目って……、早いね」

「早いですか? でも、本当の愛っていう物を僕は知りたいんですよ」

「本当の愛、ね……」

 何人の女性に声をかけている時点で本当の愛という物は無いのではないだろうかそう思ってしまうけれど、彼にも理由があるのだろう。

 そう思っていると、男子は再び口を開いた。

「ところで、失礼ですが貴女は……?」

 ジッと私のパンツを下から覗きながら尋ねる男子に私は何も言わないまま呆れつつ、自己紹介をする。

「ああすまない。私は2年の神林葛葉だ。倒れたままパンツを見続けているキミは、見覚えが無いから新入生かい?」

「あ、見せてくれていたわけじゃないんですね? すみません、あまり興奮しませんでした」

 ……蹴ってやろうか。

 一瞬そう思ったけれど、この男子には通じないだろう。

 見たところ、平凡そうな見た目と違って地味に頑丈そうだし。

 多分何度も殴られたりした結果、鍛えられたのだろう。

 そう思いながら彼を見ていると、ゆっくりと置き上がり立ち上がると頭を下げてきた。

「失礼しました。1年の大地盾哉です、よろしくお願いします先輩」

 大地盾哉、か。男子の名前を知り、頭を下げたのを見て失礼だけれど礼節の大事さは知っているようだ。

「そうか。改めてよろしく頼むよ、後輩(・・)君」

 そう言って私は彼を観察することを勝手に決めたのだった。

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