第1話 大地盾哉はわからない。
※元はTwitter上のハッシュタグ『#創作試験問題』内で浮かんだ先輩と後輩の絡みです。
ぴゅう、と風が舞い桜の花弁が舞い散る中、僕こと大地盾哉は乾いた音と共に地面へと倒れる。
そんな倒れた僕の前には怒りを露わにした女性が立っており、僕を侮蔑するように睨みつけながら叫んでいた。
「さいってー!! もう二度と話しかけてこないで!!」
その言葉を最後に女性は僕の前から立ち去っていき、僕は彼女の最後の置き土産という名の平手打ちの痛みを頬にヒリヒリと感じながら仰向けに倒れていた。
……はあ、また今回もだめだった。
そう思いながら僕はこの高校に入学して1ヶ月が経ってから6回目の失恋を経験した。
倒れる僕をあざ笑うように道行く同級生や先輩達は呆れたようにチラチラと見ていく。
色んな女性に声をかけ、ひと月も持たずに必ずと言っていい程に振られてしまう。
『ナンパ王』――それが周りから、僕に向けて与えられた不名誉な称号だった。
「別にナンパ目的ってわけじゃないんだけどなあ……」
小さくつぶやきながら、僕は舞い散る桜の花弁を体に散らせながら空を見上げる。
空はまだ青い、当たり前だまだ昼休みの時間帯なのだから。
早く起き上がらないと昼ご飯を食べるための時間が無くなってしまう。
そう思うけれど、まだ起き上がりたいという気分にはならない。
と、そんなとき、視界にヒラヒラとした黒い布が見えた。
その布の奥には白く野暮ったい布地がひとつ……。
パンツ、そう呼ばれている下着……それが、僕の視界に見えていた。
「やあ後輩君、6回目の失恋はどうだい?」
そんなパンツが僕へと話しかけてきた。いや、パンツを穿いている人物がだ。
そして、それを穿いている持ち主が誰であるかも僕は知っている。
「いつも通りですよ。……それより先輩、パンツ見えてますよ?」
「ああ、見られているね。後輩君に私のパンツを。でもキミは私のパンツなんかに興奮なんてしないのだろう?」
まるでからかうようにパンツが僕へと笑いかける。
もう少し見ていようかと思ってしまうが、それは失礼だろうと考えながら僕は体を起こす。
パラリと桜の花弁が体から地面に落ちるのを見てから立ち上がり、パンツ……じゃなかった、先輩へと向き直る。
黒く艶やかな髪を腰ほどの長さまで伸ばし、凛々しさを感じさせるような鋭い目を眼鏡で隠しながら僕を見る先輩がそこには居た。
彼女は神林葛葉先輩、1つ上の学年だ。
「今回もこっぴどく振られたね、キミは」
自らの頬を指差しながら先輩は苦笑しつつ、僕を見る。
先輩との出会いは高校入学から2日経ってから起きた2回目の失恋現場だった。
そのときに付き合った空手部所属の彼女の拳を顔面に受けて倒れた僕は振られ場所である屋上で盛大に倒れて空を見上げていた。
だが、そんな振られる光景を偶然にも先輩は出入口の上にある貯水タンクの側で見ていたと言って。
梯子を降りて僕の前へと立ち、興味深そうに僕を見ていた。
「ふーん、キミ面白いね。振られたというのに、ぜんぜん振られた事が悲しそうじゃないし……しいて言うならそれが当たり前という風に見えるよ? もしかして日常茶飯事なのかい?」
そう言って倒れた僕を、興味深そうにチラチラと見ていたのが印象的だった。
というか、初めてあったときもパンツが見えるって……どれだけ先輩のパンツを見る確率が高いのだろうか僕は?
「それで、今回は何が原因で別れたんだい?」
「それ、嫌みにしか聞こえませんよ先輩? まあ、ただ単に前に付き合った彼女と行った場所が楽しかったからそこに行かないかって誘っただけですよ?」
「え……こ、後輩君。何時も思うけれど、それはちょっとどうかと思うよ?」
流石に予想していなかった。とぽつりと呟きながら先輩は苦笑いした。だけど、僕には先輩の言うことが理解できなかった。
「それはどうかって、どういう意味ですか? 楽しかったんですから別の彼女とも行きたいに決まってるじゃないですか」
「あのねぇ、キミは前に付き合った彼女と行った場所に連れて行って彼女が喜ぶと思うかい?」
「え、喜びますよね? 僕は楽しいですよ?」
「ああうん、キミは楽しいだろうね。でも彼女はどうだろう?」
……よくわからない。
普通に遊びに行く場所に行けば楽しいのだから彼女もきっと喜ぶだろうに、ただ単に前の彼女と一緒に行った事がある場所なだけなのだから。
そんな僕の考えを理解しているのか先輩は呆れたように溜息を吐いた。
「後輩君、間違っても告白して付き合ってくれた女性に対して『前の彼女と一緒にここに行ったんだ』とか『前の彼女と一緒に食べたから、これはオススメだよ』という言葉は絶対に言わない方がいいよ」
「そういうものなんですか? 別に良いと思うんですけど」
「そういうものだよ……。言ったら君のデリカシーが疑われるよ」
僕の問いかけに先輩は疲れたように言う。
うーん、やっぱり恋愛というのは難しいものだ。
そう思いながら、僕の腹は早くご飯を食べさせろと鳴る。
「とりあえず、食堂で話をしようじゃないか」
「わかりました」
そう言って僕は先輩と共に食堂に向けて歩き出した。