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9話 カコミタチ

 正午5分前、俺は闘技場裏で5人組の冒険者パーティーと対面していた。


 朝起きて宿からの朝食を食べたあと、街を見ようと散歩をしていた。やはり景気がいいのか、どこも賑わっていた。

 それにこの国の特徴の一つである他種族も多く見られた。人間5割、他種族5割と言ったところだろう。人間の王が統べる国では通常、1割も他種族が住んでいれば多い方だ。


 近くに大森林があるのが影響しているのか、朝から街冒険者らしき人が大勢出ていくのを見た。そこでも他種族と人間の混合のパーティーも見られ、この国での()()()()()()は、ほぼ無いに等しいのだと感じた。


 そんな感じでのんびり過ごしながらここに来た。案の定、騎士長とS級パーティー『カコミタチ』は揃っていた。



「よっ! 昨晩はよく眠れたか?」

「普通に眠れましたよ。こちらの方々が?」

「ああ、今日お前が試験官を務める参加試験を受ける『カコミタチ』のメンバーだ」


 これがS級パーティーのレベルか。雰囲気はあるな。


「俺がリーダーのリュウケンだ。見ない顔だが、試験官を務めるということは俺達よりも強いという評価を得ているのだろう。それは充分に誇れることだ、胸を張って堂々としていていい」


 どうやら、緊張しているのを見抜かれた挙句、その緊張をほぐそうとしてくれているようだ。

 年は20代後半くらいで見た目は強面赤毛だが、中々良い奴じゃないか。


「クロディーだ。こういう事は初めてなんだ。至らないところもあるかもしれないが、よろしく」

「頼むのはこちら側なのだがな」

「リーダーは見ての通りジジくさいけど、良い奴だからね!」


 拳闘士の女の子が言う通り色々とジジくさいところがあるみたいだが、やはり良い奴みたいだ。

 ジジくさいところ? 今も顎をポリポリ掻いているところとかだろうな。


「済まないが、2時から騎士団含めた作戦会議が始まる。それまでに終わらしてくれ」


 試験内容は試験管に一任されるらしい。つまり、今から何をするかは俺が決められるのだ。

 騎士長は俺に制限時間を教えたかったのだろう。


 まあ俺は人間の国に訪れること自体初めてだ。今回は何も考えず、普通に戦って実力を見るという方式でいいだろう。


「コロッセオは使えますか?」

「今の時間なら大丈夫だろう」

「なら、コロッセオで戦おう。ルールは特になし、審判は騎士長に一任します」

「1体5で戦うんですか?」


 流石に見くびりすぎだという意思が漏れ出ているが、あくまで心の中でだ。


「実際、いつもは1体5で仮をしているんだろう?」


 コクリと頷いた。


「なら、いつも通りでいいよ。本番も『カコミタチ』として5人で動くだろうしね」

「……分かりました」


 渋々納得してくれたようだ。まあやる気も焚き付けられたし、よかったよかった。



「では、参加試験を始める。両者殺害はなし、『カコミタチ』のギブアップまたは、クロディーが充分だと判断するまでだ。準備はいいか?」


『カコミタチ』のメンバーは既に後衛と前衛に別れている。リーダーのリュウケンは1.5列目という半端な位置で得物である刀を構えている。

 俺はというと、片手に剣を、背中に弓を用意している。

 騎士長が俺に確認を求めてきたのでコクリと頷いて返した。



「よーい、始めっ!」


 開始、どう仕掛けてくるか?


「居合・一文字いちもんじ!」


 剣閃がそのまま衝撃波のようになって飛んできた中々の速度と威力だ。俺の【剣術Lv15】にも似たような技があるがそれはタメを作らなければならないため、実用的ではなかった。しかしリュウケンの居合・一文字いちもんじは抜刀直後に技が発動できている。初手としてはベターな攻撃だ。


 それにしても流石はS級パーティーだ。衝撃波が中央、前衛の剣士が左から、拳闘士が右から退路を防いでいる。さらにその位置取りが早い。対応策を考えさせないためだろう。速度重視で、退路を防ぐだけのために接近した2人は大きな攻撃を放ってくることはないだろうが、力技で解決しては試験にならないな。

 どちらにせよ衝撃波をまともに受けさせるように誘導はできている。



「ならこれはどうだ?」


 自ら1歩前に踏み出し衝撃波に近づき、槍を構える。左右から迫る2人は意表をつかれ、一瞬動揺したがすぐさま攻撃準備に移った。


「双槍術・無照破!」


 双槍術・無照破はあらゆる攻撃の力を分散させる技だ。力をいなすという防御法の1つの頂点と言っていいだろう。


 居合・一文字いちもんじの衝撃波が俺を中心に発散され、左右の2人がよろけた。よし、追撃を


「居合・烈火!!」


 分散された衝撃波の隙間から見えた正面の光景は、リュウケンが刀を抜刀している姿だった。刀身が赤くなり、技名からも炎を連想させた。


 普通は武術系統のスキルの中に魔法要素の強い技はない。つまり、居合・烈火という炎に対抗する【槍術】はないのだ。

 槍を捨て、刀を作り、構えた。



「【超越同調オーバーリンク】ッ! 居合・烈火!!」



 2つの赤い剣閃が衝突し、空間に赤い一筋の線を描いた。居合・烈火は想像していた広範囲炎系ではなく、範囲は狭いが威力がとても高い技だった。もちろん魔力を抑えて使用したため、相打ちだったが、魔力を多く込めればこれ以上に威力は上がるだろう。そういう技だ。

 これを正面から槍で受け止めていたらと思うとゾッとする。


  熱風が吹き荒れ、その場を温めた。

 開始から怒涛の攻撃。一欠片の遠慮もなく全力で相手を倒すことだけを考えている。試験だということは頭から吹き飛んだ。


「行くぞ、『カコミタチ』!」


 刀を腰の鞘にしまい、弓を構える。矢は用意していない。相手の後衛は2人が 、1人は固定砲台兼回復役の魔法使いで、もう1人は遊撃役の暗殺者だろう。

 狙いは回復役の魔法使い。その魔法使いに照準を合わせて弦を引く。すると、黒色の矢が自動的に装填された。

 これは【弓術】の魔力矢というものだ。剣や槍も魔力で作り、道具を魔力で補填するという技があるが俺の体の方が便利だった。しかし矢は消耗品、魔力矢はほぼ無限の魔力を持つ俺に相性がいい。


 3本同時に放ったが全てリュウケンに叩き落とされた。その間に再び拳闘士と剣士が距離を詰めてきた。

 剣を避けるとその先には拳が。その拳を防ぐと死角から剣が。といったように良い連携で攻められる。


「仕方ねぇな。装填・槍」



 槍を右手に持ち、左手には弓を持つ。左手の槍で剣士と拳闘士を牽制し、距離をとる。すぐさま追撃してくるが、その少しの間の時間で十分だった。

 弓を構え、槍を装填する。槍に合わせるように弓が大きくなり、弦が消えた。魔力矢の応用である魔力弦で槍を引く。



「我流・羅射らい、上手く避けろよ?」



 元来、【槍術】の中に槍術・羅突というものがある。それは槍を回転させながら投擲する技だ。これを弓術と組合せたのが【我流・羅射らい】という技だ。

 これの他にもいくつか我流の技を持っている。


 超高速回転しながら打ち出された槍は狙い通り、魔法使いへ直線軌道を描いていた。

 その軌道上にリュウケンが立ち塞がる。リュウケンはこの攻撃が先程撃ち落とした矢とは比べ物にならない威力を持っていることを見抜いているだろう。



 「居合奥義・緋閃光月ひせんこうづき!!」


 一撃で形勢逆転。

 なんてことは戦いの世界ではよくある事だ。


 我流・羅射らいと居合奥義・緋閃光月ひせんこうづきがぶつかり合い、近郊を保ったのも一瞬だった。赤い閃光の一閃が槍を砕き、俺を襲った。


追記

『カコミタチ』のメンバーの種族紹介

リュウケン=鬼人

剣士=人間

拳闘士=獣人

魔法使い=エルフ

暗殺者=鬼人



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