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6話 VS獣魔王

 その外見だけならば獣人と人間のハーフとも考えられなくはない姿をしている。しかし実態は獣人の血も人間の血も混ざってはいない。

 最強の純血種の一角、王獣族である。

 元から他の種族を寄せ付けない圧倒的な身体能力を持ち、魔力と血が同調することでさらにその身体能力が向上する。身体能力特化型種族の頂点に立つ男だ。


 一応魔封じの腕輪で魔力を封じ、戦闘態勢の獣化も封じてはいるが、このコロッセオで獣魔王に勝てる相手はいないだろう。

 人間が弾を撃たない戦車に勝てないように、並大抵では獣魔王には勝てない。


 俺の生息域からは遠かったため、今まで接点はなかったが、バレるということもある。そんな万が一の事が起こってしまえば、港国ミーナ乗っ取り計画はパーになってしまう。


 それに獣魔王はスキルよりも自身の身体能力を主軸にして戦うタイプだろう。俺の特殊スキルとは相性があまり良くない。

 今後の為にも余りの手の内を晒したくないのは確かだ。


 だが、易々と負けてやるつもりは無い。唯一俺に金をかけてくれた人にも申し訳ないからな。


「さぁ! 準備はいいか皆の者!! 今戦いの火蓋が切って落とされたぞ!」


 ゴングのような音が響き渡り、歓声が上がる。


 まずは先手を取る。

 身体能力で劣っている相手に正面から飛び込んでいくのは愚行でしかないが、今はそれしか手がない。

 剣を構えて無謀な特攻を仕掛ける。武技は一通り修めている。俺の実力がどこまで通じるかとりあえず試す。


「真正面からとは面白いっ!」


 獣魔王は素手だ。小手のようなものは装備しているがリーチはない。身長が2メートルを超えている分でリーチは稼いでいるが、剣を持った俺の方が攻撃範囲は大きいはずだ。しかし、奴は躊躇なく剣の間合いに飛び込んできた。

 俺が構えている剣を振りかぶる間に肉薄し、拳を下ろしてきた。速度は俺の約2倍くらいか。


「ふっ!」


 迫り来る右拳を横のステップで避け、下からその伸び切った右腕を切り上げる。しかし、肉を裂く感触はいつまで経っても手に感じられない。


「中々やるじゃねぇか!」

「馬鹿馬鹿しくなるな」


 切り上げた剣先は肉を裂き、腕の筋を断つはずだった。だが、剣は獣魔王を左腕に捕まり、握り潰された。無情にも粉々になった剣を眺める時間はない。

 砕け散った金属が地面に落ちるまでの刹那に、一言交わし、互いに次の動作を構える。

 獣魔王は空を殴った右腕のベクトルを横に変え、横薙を俺にかまそうとしている。こんなバケモノ相手に素手で戦う訳には行かない。掴まれただけで粉砕されてしまう。そんな不利な土台で戦う意味は無い。

 身を屈め、獣魔王の股を転がり抜け、その攻撃を避けつつ距離を取る。


 俺達の動作が止まると同時に会場の熱が上がり、歓声が上がる。


「いやぁ! 惚れ惚れする反応速度だな! だが、剣は粉々、素手で殴り合うか?」

「そりゃどうも。ご心配せずとも武器はあるよ」


 元々俺の体は金属、その特性から得たスキルが【変形メタモルフォーゼ】だ。もちろんダークガルーダと戦った時の【変形メタモルフォーゼ・武器化】で武器を無限に創り出すことが可能だ。


「それがお前のスキルか! 楽しくなりそうだ!!」


 創り出したのは二対の双槍。身長よりも少し大きい程度のながさだが、これで獣魔王よりも大きい攻撃範囲を得られる。先程の交戦の時、獣魔王の攻撃範囲は予想以上に大きいかった。

 それを考慮した上での判断。

 それがたまたま俺が1番得意な戦闘スタイルだっただけだ。


「ぬうっ!? 剣よりも速いとは!」


 まず先程まで使っていた剣とは強度が違う。そう簡単には素手で止められない。それに、獣魔王は拳を振っているだけでその場から動けないように全方位から攻撃している。腰を落として放たれる拳は驚異的だが、慣れてきた今、力任せに振るう拳など軽いものだ。


 無数の薄い傷が獣魔王の皮膚に刻まれているが、獣魔王にとっては無傷に等しい。予想以上に筋肉が硬い。流石は純血種と言ったところだ。


 「しゃらくせぇ!」

 「っ、」


 獣魔王が足を振り上げ叩き下ろした。土埃が巻き上がり視界が悪くなる。それを機に互いに距離を取る。

 俺はそれと同時に槍の補強を行う。もう少し重くしても問題ないだろう。

 獣魔王はまるで気合いを入れ直すかのように首の関節をコキコキ鳴らしている。その内に傷口が塞がり、言葉通り無傷の状態に戻っていた。


 「自動再生系のスキルか、面倒な」

 「予想以上に面白くなってきた! けど、お前只者じゃねぇな」

 「ただの傭兵だよ」

 「そりゃ尚更面白いッ!!」


 凄まじい速度で接近してくる。正面からぶつかっても怪我をするのはこっちだろう。今までとはギアが違う。


 「体が温まってきたからギア上げるぜ? 簡単にくたばるなよ傭兵!」

 「っ! 化け物かよ!」


 余裕を持って避けた。しかし、獣魔王は空中で方向転換して追撃してきた。

 間違いない。やつは今、空中を地面のように踏みしめ、加速した。

 迫り来る拳を避ける時間は残されていない。

 だが、それはあまりにも俺を過小評価しすぎじゃないか?


 「ぐっ、痛てぇじゃねぇか」


 血を流しているのは獣魔王。獣魔王の俺を殴るはずだった右拳には槍が突き刺さっている。

 俺は斜め上から迫り来る拳に合わせて少し上に飛び、拳と同じ高さに位置取った。そして、その拳に槍を突き刺し、突き刺した槍を踏み台に斜め後ろに飛んだ。その反動で獣魔王の拳に深々と槍が突き刺さっている。

 突き刺した槍が1本だけなのは、もし獣魔王がそのまま突撃してきた時の保険だった。だが、いらぬ心配だったようで、俺の手には既に突き刺した分の槍が握られている。


 「あの速度で高さを合わせ槍を突き刺し、それを踏み台にするなんて神業の域だ。心の底から驚いたぜ」


 返事をする暇はない。獣魔王の拳からはまだ血が流れている。自己再生で治癒される前に攻め落とす。

 距離を詰め、右手で握っている槍を投擲する。意表を突く攻撃、先手を取って、獣魔王の足元に落ちている槍を拾って追撃する予定だった。


 投擲まではよかった。しかし獣魔王の反応速度と移動速度が俺の認識速度を上回り、獣魔王が消えたように感じた。投擲した槍は勿論避けられ、獣魔王を見失った。


 「どこへっ、上かッ!」


 斜め上からの蹴りに対し、自ら後ろに飛んで勢いを減らしたが、それでもコロッセオの壁まで吹き飛ばされた。

 異常な速度、今までと比ではない。それに威力も爆上がりだ。


 「野郎、魔力を解放しやがったな」



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