5話 コロッセオ
出身地はどこかの孤島ということにした。名前に関しても、捨て子だった自分を拾ってくれた老夫婦に貰ったものだという大嘘をついた。
まず冒険者登録の利点を説明してくれた。
・依頼を受けられる。
・身分を証明できる。
・特典がつく店がある。
依頼を受けると報酬が貰えるし、色々な人との繋がりを得られる。
身分を証明できないと国にも入れない。
一部の商会や酒場では冒険者というだけで割引が効く。
冒険者登録はいい事づくめなのだ。
「クロディーさんはランク外登録ということで本当によろしいのですね?」
一般的な登録ならば、ランクというものが決められ、そのランクに見合った依頼を受けられる。
しかしその制度を無視し、全て自己責任でどのランクの依頼も受けられるのがランク外登録だ。どのランクの依頼も受けられるメリットの代わりに、報酬が少ないというデメリットもついてくる。
「それでお願いします」
正直、最低ランクからちまちま依頼を受けるのは面倒だろう。どうせ王になったら金に困ることは無いんだし、ランク外登録でいいや。
「分かりました。少しお待ちください」
待つこと2分。
「これが冒険者証になります。依頼を受ける時にはこれをギルドに渡してください」
1枚のカードを受け取り、それをポケットに収納した。
「よし、じゃあ飯にするか! とりあえず昼飯は奢ってやるよ」
「ありがとうございます」
生命機関を要さない俺の体はもちろん飯など要らない構造だ。しかし、人間の3大欲求がない訳では無い。もちろん、美味しそうなものがあれば食べたいと思うし、睡眠も取る。
性欲に関しては……まぁそういうことだ。
その後、飯を食って騎士団の宿舎に移動して、その場で俺を他の騎士団員に紹介した。当日おなじ側で戦う味方だ。
それから俺の自由時間になったのでとりあえず宿代を稼ぐために討伐系の依頼をいくつか受け、報酬を受け取った。
道の先から真っ赤な夕日が照りつけていた。
「あっ、クロディーさん!」
「ナタリアさん、今帰りですか?」
ナタリアさんは冒険者ギルドの受付嬢だ。今日の依頼の手続きなどは全て彼女に頼んでいた。
この国での人脈としては悪くないだろう。冒険者ギルドにはこの国の情報が渦巻いている。一日中冒険者ギルドで働いている受付嬢ともなれば中々の情報通のはずだ。
「はい! 実は今から宿屋の受付嬢になるんですよ。どうです? 宿が決まっていないなら私の店に来てくれませんか? 色々サービスしますよ?」
確かに宿は決まっていない。だが、夜は城の偵察に向かおうと思っていたのだが……明日でいいか!
「じゃあとりあえず1泊させてもらいます」
「ありがとうございます! こう言ってはなんですけど、他に予定とかなかったですか? いきなり勧誘しちゃって、都合とかあるなら無理しなくても」
「商売人がそんなに弱気でどうするんですか。特に予定もなかったので有難いですよ」
「それなら良かったです!!」
ナタリアさんの宿屋は決して大きいとは言えなかったが、多くの客で賑わっていた。夕食付きの値段を払って、部屋に上がる。
ベッドが1つ、机が1つ、窓が1つ。浴槽はなかったがシャワーは浴びられそうだ。
ん? シャワーなんて浴びるのかだって?
そりゃ浴びるとも! 感覚はある。シャワーは気持ちいい。
夕食を早めにもらって、もう一度外に出るか。
情報収集のために。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「それは良かったです! これから外へ?」
「ええ。この国を見て回りたいので。どこかおすすめの場所はありますか?」
「えーっと、クロディーさんがどのようなものがお好みなのかは分からないのですが。夜のコロッセオは治安が一層悪くなります。できるだけ近づかない方がいいと思います」
なるほど、夜のコロッセオか。面白そうだ。
「ご忠告ありがとうございます」
「気をつけていってらっしゃい」
忠告通り夜のコロッセオに向かおう。荒くれ者の方が情報を持っている可能性が高い。それに仕事の前にどんなものか見ておきたい。
「ようこそコロッセオへ! 貴方は初めてのお客様ですか?」
「そうです」
「ご説明しましょう! ここ港国ミーナのコロッセオは観戦もよし、賭博もよし、出場もよし、の世界一自由なコロッセオとなっております!!」
その自由さは果たしてグッドポイントなのかどうかはおいておいて。確かにかなり自由みたいだ。夜なれば治安が悪くなるのも仕方のないこととして許容済みなのだろう。
でも、面白そうじゃないか。
「さあ! 何にされますか?」
「もちろん、出場するさ」
依頼の予行練習とでも思って精一杯楽しませてもらおう。
「お兄さん⁉ 止めはしないけど遊びじゃないぜ? 下手しなくとも死んじまうぜ?」
確かに見た目はただの青年なんだったか。この場に魔王共がいれば大笑いが巻き起こるところだな。
ちょうどその時、コロッセオの中で大歓声が上がった。入るなら今のタイミングがいいだろう。
「騙されたと思って俺にかけてみろ。結構稼げると思うぜ」
「名前は⁉」
「クロディーで頼む」
中に入ると待機室があり、様々な武器が置かれていた。結構な人数がその場所で待機していたが、そこまで治安が悪い様子、むしろ勝負前にしては静かだと思う。
「登録者名クロディー右口から入ってください! 左口からはチャンピオンが入っています」
「チャンピオンって言う人と殺るんですか?」
「もしやご存知ないのですか? チャンピオンマッチという最強無敗の戦士、登録者名グレリオに挑戦するというルールです」
へぇ? 最強無敗ね。そのグレリオさんに勝てれば依頼の達成も盤石なものになりそうだ。
「必要な武器はそこから自由に取って使って構いません。久しぶりに賭けになっているので精々頑張ってくださいね?」
妙にトゲのある言い方だが、流そう。それよりも久しぶりに賭けとはどういう意味だ? 賭けも自由なんじゃないのか?
「誰も挑戦者側に賭けないからだよ田舎者」
「そういうことです。賭けたのはたった一人、しかも子供のお小遣い程度ですが、負けた時はそれなりの大金になるでしょうね、借金が」
さっきの入口の人なら悪いことをしたなぁ。もし負けたら王になった時にお金あげよう。
「その人が大金持ちになることを願っていてくれよ」
「ふふ、死んじゃうのが残念な方です」
口の悪い案内人が面白そうに笑ってくれたが、後ろの挑戦者達はまた勝つ気である俺が面白くないようだ。
ここにいる奴らの中に俺より強いやつはいなさそうだが、そのチャンピオン様はどうかな?
「挑戦者クロディー入場! 飛び入り参加の若者、どうかその命だけは見逃してやってくれーー!」
「しかし、この男はそれを許さないぞぉー! 王者グレリオ!!」
入場とともに物凄い歓声が上がる。もちろんグレリオにむけてのだ。
中々の盛り上げ上手だな。俺のテンションも上がってきた!
「がぁっははは!! 気持ちいい歓声だな!」
「……ウソだろ?」
獣魔王グレリオ。
魔王一の脳筋バカの姿が何故かここにあった。
「さぁ! ドンと来い!」
脳筋バカがどんとアホみたいに厚い胸板を叩いてガッハハハと笑っていた。
「本当にこいつは何してんだ?」