4話 騎士長の依頼
「預かってくれてどうも」
「こちらこそ長いこと待たせてしまったな」
冒険者&商人は無事に入国審査を終えたようだ。こころなしかイーグルの顔色は良くなり、穏やかな顔になっているように見える。
「あ、あの。怪我してたので治癒魔法をかけさせてもらいました。このイーグルは貴方様の飼い鳥なのですか?」
「ありがとう。こいつはすぐそこでダークガルーダに襲われていたんだよ。平和の象徴が死んでしまうのを目の前で見るのは縁起が悪いから助けただけだよ」
治癒魔法を使える冒険者がパーティーに一人いるだけで、そのパーティーの安定性は格段に上がってくる。回復役の重要性はこの数十年で身をもって体験したからな。
「そうですか。どちらにしろものすごく強いのですね」
「では、そろそろ行かせてもらいます。中で出会うことがあればご贔屓に」
「商売が成功することを願っていますよ」
イーグルの治療代分くらいは何か購入してみるかなどと思いながら城壁の中に入っていく彼らを見送った。
「身分を証明できるものは何かお持ちですか?」
「ありませんよ。他に入国許可が降りる方法はないんですか?」
「あるにはありますが、今、審問官が休暇を取っていていないのですよ。だから現状方法は無いに等しいのです」
まじか。
どうしよう、これは大いに予想外だ。前回は審問官による質問(尋問)に答えることで入国許可を得たが、それが無理となると、どうしようか。
「おーーい!! そこの青年! さっきダークガルーダを倒してたよな!?」
「騎士長殿!? どうしてここに!?」
「そこの青年を雇いに来た! お前さん、ちっと傭兵扱いで雇われてみないか? もし雇われてくれるなら入国許可は俺が与えよう」
第一印象。勢いのあるおじさんだなぁー、お兄さんすっかり気後れしちゃってるよ。
それにしても騎士長とは大物が出てきたな。港国ミーナの騎士団はあまり国内に留まることは無い。他の国への遠征や討伐作戦に飛びついて出て行ってしまうのだそうだ。
どれもこれも脳天気な騎士長のせいだそうだが、実力は群を抜いているらしい。というか、剣聖の剣の師であり、片目の義眼は魔道具といった人間離れした人間だ。
強さランキング的に言うと人間の中で十指の中には入るのではないかと言われている。
まさか人間の中にあの速度をこの距離から視認できるものがいるとは思わなかった。これが魔道具の義眼の能力なのだろうか。迂闊だったな。
「何をさせられるんですか?」
しかし、この話に飛びつかない理由がない。
何をさせられるかは分からないが能力不足ということは無いだろう。伊達に数十年も魔物狩りをしていない。
「明後日のコロッセオは史上最強のカードなんだが、闘技場の方が持たないかもしれないんだ。まぁないとは思うんだが、それでも保険が欲しくてな。で! そこでお前さんを見つけたってわけさ」
「つまり、コロッセオが破壊された時の人民救助ということでいいですか?」
コロッセオが倒壊するほどの衝撃が生まれる闘い。見てみたいという興味をそそられる。
まぁ万が一のことがあっても人民救助なら問題ないだろう。
「いや、それだけなら俺たちだけでも間に合うんだ。お前さんには逃げ出すであろう闘技者を捕まえてもらいたい。彼らが国に放たれればコロッセオ倒壊よりも大きな被害が出る可能性が高い」
なるほど、それ程までに闘技者のレベルは高いのか。まぁ治癒能力のない俺にとってはそっちの仕事の方が簡単そうだ。
「喜んでお受けするよ騎士長殿」
「それは良かった! ゲルグだ」
「クロディーです」
めっさ適当! 今から俺はクロディーだ!
……呼ばれた時に自分だって分かるかな。
◇
「そのイーグルはどうする気だ?」
「ああ、放たないと。ほら、もう怖いやつは来ないから行っていいぞ」
「クァ」
ぺこりと頭を下げ、少々不安な足取りで歩き始めていた。ここら辺は大森林の魔物達も人間の国があると理解しているので近づいては来ないはずだ。
無事に生き抜いてくれと心の中で告げ背中を向けた。
「まずはようこそ港国ミーナへ! とりあえず詳しいことも話したいから冒険者ギルドによるぞ」
「冒険者ギルドに依頼として出してあるのか?」
「Aランク以上のパーティーに声をかけてくれるように頼んであるんだ。それを取り消してもらいにな」
なるほど、闘技者はAランク以上のパーティー出なければ任せられないほどの強さを持っているのか。
ちなみに、ダークガルーダがAランク指定の魔物だ。Aランク指定とは、Aランクのパーティーならば大きな被害を出すことなく討伐できるだろうという目安だ。
「冒険者ギルドに出すような依頼なら大人数必要なんじゃないのか? 俺一人増えたところで取り下げる必要があるのか?」
「だってお前さん、仮にダークガルーダ五体に襲われても傷一つなく帰ってきそうだぜ? そんな強者がいるならAランク以上のパーティーを雇うのは過剰戦力ってもんだ」
確かにダークガルーダ程度なら何体襲ってきたところでダメージを受けることは無いだろう。
それにしてもこの男の義眼の能力はなんなんだ? あの1回の戦闘を遠目から見るだけでどこまで力を見抜いているんだ?
気になる。あわよくば欲しい。
入って道を歩くこと数分。前にも1度だけ見た建物の前に着いた。看板には大きく冒険者ギルドと書かれている。
中は昼前だと言うのにガヤガヤとしており、酒を飲んでいる冒険者も少なくはない。
「いらっしゃいゲルグさん! そちらの方は?」
「前に出したユニーククエストの取り下げに来た。こいつはその穴埋めをしてくれる奴さ」
「あー、それならあと30分くらい早く来て欲しかったなー。もう既に『カコミタチ』の受注願を受け取っちゃったよ」
「へぇー! Sランクの『カコミタチ』が受注してくれたのか! それは頼もしいこと限りないんだが……。そうだ! クロディー、『カコミタチ』ってSランクパーティーと手合わせしてくれないか? 勝ち負けにこだわる必要も無いが、勝ったら晩飯を奢ってやるよ」
話を整理しよう。
この目の前の美人お姉さんが受付。Sランクパーティーと手合わせして、勝てば晩飯を奢って貰える。
「全然いいですよ。むしろ、そんなことで晩飯を奢ってもらっていいのかどうか」
「いいさいいさ。そもそも受注審査にはこういった試験型もあるんだ。試験官を雇った場合はもっと高く付くこともあるからな」
これも仕事の1つってことか。
「多分、今日中には帰ってくるはずだから、その時に場所と時間を伝えておくけど何時がいい?」
「明日の正午に頼む。場所は闘技場裏で」
「了解です」
時間と場所をメモに取っているときに、美人お姉さんの胸元の部分が見えそうになる。とてもいい光景だ。CorDだな。
今日中に受注審査をおわらせることはできないのか。それまでの時間が暇になりそうだ。
「じゃあこいつの冒険者登録をしてやってくれ。クロディーもいいよな?」
わ、忘れてた!
どうしよう。俺に個人情報なんてものはないんだけど!?
「も、もちろ、ん」
「じゃあこちらに記入をお願いしますね」
出身地など、俺が書くことが出来ない、様々な項目を目にし、さぁっと顔が青ざめていくのを感じた。