10話 試験終了!
評価の点が上がりました!
めっちゃ嬉しいっす!!
赤い鮮血が飛び散るなんてことはない。俺の身体は人間の構造をしていないどころか、血さえ通っていない。
ここで攻撃を受ければ確実に正体が人間でない事がバレてしまう。
しかし、俺を襲う剣閃はすぐそこまで来ている。
【超越同調】は解析に一定の時間を要する。『居合・烈火』を使った時はその技を発動した時の状態のみと同調した。
居合奥義というくらいだ、解析して同調するにはそれなりの時間がいるだろう。
しゃあなしだ。たかが人間、魔王共に比べりゃ雑魚中の雑魚と見くびっていた自分がいたことは認めよう。
だから、これは一種のプレゼントだ。
S級ともなれば、自分より圧倒的に強い敵など現れることはそうそうないだろう。
その敵役に俺がなってやる。
「【超越同調・自己完結】!!」
この世で俺が1番熟知しているのは当たり前だが、自分自身のことだ。俺はまだまだ未熟でスキルレベルの低いスキルも多い。魔力に関しても、許容量は多いが、その許容量の限界値を満たす魔力を生成することは出来ない。
スキルレベルに魔力生成能力、その2つの能力がもし最大ならば……俺は最強だ。
「遅い、ぬるい、ざつ、ずさん……チェックメイトだ」
まず目の前の危機に対しての対処法だが、これはただ横に避けるだけで充分だった。不意をついてこそ威力を発揮するものだ。
次に、左右から迫る2人だが、これも簡単。左からの剣士は居合奥義・緋閃光月で勝負が決まると油断していたのか、威力の弱い攻撃だった。そんなものは【剣術LvMAX】の俺にはなんの障害にもなり得なかった。剣を弾き飛ばし、抑えめで蹴りを腹に入れた。右からの拳闘士は避けられることを考えていなかったのかモーションの大きい大技を発動していたが、これまた障害にならない。普通に回避し、背後に回って首に峰打ち、それで終わりだ。
回復役の魔法使いはリュウケンの魔力回復を行おうとしていた。魔力回復は通常の治療よりも集中力を要するものらしい。俺の接近に気づくのが遅れ、俺に足をかけられ転んだ。
そして俺はリュウケンの首に剣の峰を当てると共に、死角から襲おうとしていた暗殺者を槍で牽制した。
「チェックメイト、俺たちのセリフだと思ったのだがな。俺たち、『カコミタチ』の完敗だ」
「うぅ、それにしても最後の動きはおかしすぎるよっ!? それまでは手を抜いてたの?」
「あくまで試験だからな、お前達を試してたんだよ。最後のリュウケンの攻撃は良かったよ」
最後のリュウケンの『居合奥義・緋閃光月』は本当にいい攻撃だった。
『居合・烈火』を相殺したあたりから試験ということを忘れて戦っていたのは秘密だ。
「リュウケンの攻撃はモーションで技の見分けがつかないところが良かったが、お前は中距離専門なのか? もし前衛ができるなら、前衛を3人にして畳み掛けるという戦略もアリだと思う」
「できないことは無いが、どうしても攻撃が広範囲になってしまう。そこは連携の見せどころと言ったところか」
刀である分、剣よりも扱いづらいのは仕方の無いことか。
「次に拳闘士の」
「リンティアだよ! リンでいいよ」
「よろしくな。リンは全体的に動きに無駄が多い。というかほとんどが大振りだっただろ? それじゃ牽制にしかならないよ」
当たればデカいが当たらなければそれまでだ。センスは悪くない、位置取りもいいのだ。だから、今まではやって来れたのだろう。
「リンのは性格だな」
「剣士君、君は怠け癖があるな?」
「うっ、た、確かに。俺の名前はシューだ。例えば今回だと?」
「リュウケンの居合の時に、左右からリンとシューが挟む連携があるだろ? あの時だな」
「やっぱりかぁー!」
思ったよりもあっけらかんとした性格のようだ。リンと似たところがあるように見える。
自覚があるなら怠け癖も直せる余地があるだろう。
「次に魔法使いちゃん」
「スマリです」
「スマリは魔法を使う時に周りへの注意が散漫になり過ぎていた。魔力回復は集中力が大事なんだろ? なら、その集中できる環境を整えてから行うべきだ」
「うん、ありがとう。次は気をつけます」
こっちは大人しいタイプか。さっきの2人と比べて反応が分かりづらい分アドバイスを受け取ってくれているのか、はたまた聞き流されているのか分からないな。
「最後に暗殺者」
「……カエン」
「カエンは悪くなかった。だが、最後のは頂けないな。魔法使いが殺られる前に罠か何かを仕掛けておくべきだ。結果的に魔法使いが無駄死にしない為にもな」
「……善処する」
シノビ、忍者って言うやつか? 雰囲気からして影が薄い気がする。まあアドバイスは聞いてくれているようだし、いいか。
「てな感じで、試験は合格。明日よろしくな」
「本当かっ!? 負けたからてっきり」
「いやいや、『カコミタチ』なら充分戦力になると思うよ」
『カコミタチ』なら闘技者に負けることもないだろう。獣魔王みたいな化け物が揃いに揃っている訳でもないだろうし、そんな敵が現れても俺が対処できるはずだ。
「良かったな『カコミタチ』! あまりにも白熱した試験だったから俺も昂っちまったよ」
騎士長は人間の中で五本の指に入るほどの剣士だ。1度手合わせ願いたいところだが。
「騎士長、時間は大丈夫か?」
「そんなに余裕はねぇなあ。残念だが、またの機会ということで。今から直接騎士団寮に向かうが、都合の悪いやつは? ……いなさそうだな」
こうして俺は無事、試験官を務め果たし、『カコミタチ』という繋がりもできた。
俺達は騎士長に付いて騎士団寮までの道を歩み始めた。
「簡単に内容を話すつもりだったが、クロディーは来たばかりでこの国のことをあまり知らないんだったな」
「すいません」
「いや、謝らせるつもりで言ったんじゃねぇ、こちらこそすまん。なら、まずは闘技者の説明をしなければならないな」
騎士長、五指の実力を持つ男の口から少しずつ、それでも心に確実に積み重なっていく深く、重く、暗い、この国の闇が語られ始めた。
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