刀源郷の中で ②
「もしもし……志乃ちゃんですか……ごほっ……」
『雅、どうした。なんか様子が変だぞ!』
ふわふわに斬られた。
痛いし、斬られたとこがどうなってるのかは見たくない。血がドバァってなってそう。
「……ごほっ……ヘマしちまったよ。ふわふわに斬られた。あたしはもう駄目だ……ごめんね……」
『斬られた?! 雅、しっかりしろ。雅──!』
上手くいったと思ったんだけどな。失敗してしまった。なんだか最後に、志乃ちゃんの声が聞きた……かった……ガクッ……。
『ツーツーツー』
「貴女。死んだみたいにしてるけど峰打ちよ。良かったわね。日本刀には峰があって」
──本当だ。痛いけど生きてる。血も出てない。
でも、死ぬと思って電話してしまったし、死にそうなていでいこう。
「斬られた。死ぬーーっ!」
「死なないって! もう大人しくしてなさいよ。まったく、無駄な手間をかけてくれて」
「斬られた。死ぬーーっ!」
「──死なない! 無理して動かないで、そのまま寝てなさい。まったく困った子ね……」
そう言ってふわふわは、峰打ちにされたあたしには見向きもせずに、黒ブタマンへと向かう。
だが、このまま寝ていては黒ブタマンを倒されてしまう。無理しても起きなくては。ユッキーが来るまで時間を稼がなくては!
「雅──」
「!!」
──なにぃ?! 今の声は志乃ちゃん。
マズい。そんなに近くにいるなんて思ってなかった!
ただでさえ怒られそうなのに、今のも追加されては本気でマズい。斬られたていは続けないと。
「雅さん……そんな……」
「亜李栖。いたの……か……」
目をつぶって。ピクリともしない感じで。
スマホを握ったまま事切れました感を出して。死んだふりでいこう。
「雅……雅──!」
「──貴様、よくも雅さんを!」
うわぁ……。
志乃ちゃんも亜李栖ちゃんもマジだ。
抱き寄せた志乃ちゃんの声は潤んでいる。
亜李栖ちゃんも同じく。これはバレた時が怖い……。
「いや、あのね……」
ふわふわ。言うな! 言わないで!
乗っかって! お願いだから。お願いします!
「一閃・火天」
「──ちっ」
えっ──、今のはユッキーの必殺技。
なんかものすごく熱いんだけど。
これ、あたしたちも巻き込んでないかい?
「逃がしません。四閃・陽炎」
「ユッキー……貴女……」
熱い。そして何が起きているのか気になって、思わず目を開けてしまった。
そしたら志乃ちゃんと亜李栖と目があった。あっ、怒られるやつだ。とすぐに分かりました。
「やっと目を開けたか」
「もう! 心配ばかりかけて!」
「いふぁい。いふぁいよ。ほぉっぷぇたをひっふぁらないで。いふぁいから〜」
左右の頬っぺたをそれぞれ引っ張られる。
亜李栖ちゃんは素手で。志乃ちゃんは籠手で。
籠手もマズい。ほぉっぷぇたを引き千切られそう。頬っぺたをだった。
「な、なんで死んだふりだと?」
「血が出てない」「それに薄目開いてました」
「いふぁい。いふぁいよーー」
じゃあ、今の2人のは演技? なんで?
本当かと思って、どきりとしてしまったではないか。
「治しますから寝ててください」
「えっ、亜李栖ちゃん。そんなこと出来んの?」
亜李栖ちゃんは聖剣を地面に突き立て、何故だかスマホを取り出す。
そしたら何故だか魔法陣が現れ、水の魔法が発動する。雲母さんの癒しの魔法だ。
「ええ。志乃さんは刀をお願いします」
「ああ。これで打ち止めだ」
志乃ちゃんも地面に手を当てて籠手の能力を発動させる。パリンパリンと音がして、生えていた刀が片っ端から割れていく。
「何がなんだか分かりません。説明してください。あと、お土産です」
「お前、お土産のタイミング」
「やったーー! これでスマホ無しで魔法陣が使えるように……ふふふふ……」
そういえばユッキーとふわふわは?
熱くないから離れていってしまったのかな?
♢
陽炎でも駄目か。
槍だけでなく刀の扱いも慣れている。
それに今の私では……。
「ユッキー……貴女……バテバテじゃないの」
魔力は元が少ないから仕方ないが、体力も限界に違いない。それでもここまで来た。
「はぁ……はぁ……貴女の魔法のせいです。ここまで来るのに苦労しました」
「まさかとは思うけど、撃ち落としながら進んできたの?」
「はい。シノとアリスの力を借りてですがね」
「──マジ?! それはビックリよ……」
厄介な魔法でしたが、それも終わりだ。
はっきり言うと。これ以上はこの人の相手は難しい。しかし、求めるものがその先にしかないのならやるしかない。
「今の火天。見事だったわ。2人を囮に、斬るべきものを斬った手並みはお見事でした」
「もう刀は増やせません。辺りの刀もシノが破壊しているでしょう。まだ、続けますか?」
最初の一撃が上手くいった。
魔法は斬り捨てた。これで、もう刀を増やすことは出来ない。
「続けるも何もアイツを外に出すわけにはいかない。ただ、それだけよ?」
「私が斬ります」
「それはアレを使うってことかしら?」
「はい。貴女の見たかったものが見れますよ」
先日は隠したが、あの時から持っていることは見抜かれていた。渡すつもりはないが、どの道、最初から、それしか選択肢はない。
「……使えるの? 下手したら消し炭よ」
「そんなヘマはしません」
「ならいいわ。お姫様にお譲りしましょう。満身創痍な者同士だし、大して時間も掛からないでしょうね」
満身創痍なのはお互い。
立ち会いになったら長引きはしない。
「ねぇ……雅が言っていたけどアレに何があるの? こだわる理由が今ひとつ分からないんだけど」
「答える義理はありません」
「雅のことを怒ってるならしょうがなかったのよ? あの子が言う事をまるで聞かないから。峰打ちだし、あの子は気づいてないけどあの防御力なら、まず大事はないでしょう」
「……友達を傷つけられて少しイラッとしました。陽炎はその仕返しです。こんな気持ちは知らなかった。いえ、知っていたはずなんです。守りたいものは愛しいもの。私が取り戻したいものもきっと同じものです」
「?」
雅が言った、家族を傷つけられて怒るのは当たり前だという言葉。言葉の意味は理解できても、実感はなかった。
だけどフリでも倒れている雅を見た瞬間、分かった。ああ、こんな気持ちだったんだと。
友達も家族も愛しいもの。それが傷ついているのを見て、怒るのは当たり前だと真に知った。
「──起きなさい。茜。お兄様がそこにいらっしゃいます。貴女を持つべき人が。私は追いつかなくてはいけない。だから、力を貸しなさい」
さあ行こう。
先を歩く愛しいものに追いつくために。
「飽きただと? ふん、それは負け惜しみではないのか」
虫螻如きにそんなもの有る訳が無かろう。
集る虫螻共に、変らぬ己に、世界に飽いた。
故に、死する事にした。それだけの事。
「……そんな貴様がどうして存在している」
我にもとんと解らぬ。
しかし、こうして有る。それが現実。
「生きたいだけ生き。殺したいだけ殺し。奪いたいだけ奪った。そんな貴様が存在するなど、許されるはずが無い」
異な事を言う……。
そう語る其方も永遠を得た身ではないか?
我等は同じでありながら、己だけは違うと?
「だからこそ、オレは貴様らを許さん。1人残らず世界から消し去ってくれる。それには最初に貴様を取り除かなくてはならない」
愚か。器を持たぬ我を如何様にして殺すというのか。それが叶うかどうかは別としてな。
「愚者は貴様だ。人とは理解を超えるものだ。悪意も善意もな」




