刀源郷の中で
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このままでは、ふわふわに黒ブタマンを倒されてしまう。しかし、動くと自動で刀が飛んでくる。
迂闊に動いては串刺しになるから、身動きできない。
遮蔽物を利用しての防御もダメ。
遮蔽物もだいたい鉄が使われてる。
そこからうっかり刀が生えてきたら、うっかり刺さってしまう。
街路樹とかもあるが刀が貫通すると思う。
あれを防げる鉄じゃないものか……なくね? そんなの。
あと、刀が生えてくるのも止まらないんだ。
前後左右に上と下。全方向からだ。
無尽蔵に生えてくる。これでは逃げ道もない。
生えてきた刀は動くものに自動で反応。迎撃する。
反応する距離は不明。一度に飛んでくる数も不明。
それと刀は、ふわふわの手動でも動かせるらしい。
これにより空中に逃げるのもダメ。
飛んだら黒ブタマンのように斬り刻まれ、落ちたところで蜂の巣になってしまう……。
ふわふわは立ってるだけなのに、山ほどある刀がビュンビュン飛び回って、突き刺し斬り刻む。まさに無双状態。
無論。黒ブタマンも刀をバンバン叩き落とすし、避けるけど物量差は歴然。ふわふわの魔法が、黒ブタマンの風の防御の魔法を貫通し始めている。
ヤツめ。あの場所から一歩も動きもしないとは。
もう全然、ふわふわじゃない。あれは鋼鉄の女だよ。
鳥籠と呼んだ鉄格子も、ずっと続いている。というか広がっている。外に外に向かって伸びていっている。
下から生えてきてるから、地下鉄とかを使っているんだと思う。水道管とかも材料になるだろうし。
誰だよー、街中を鉄まみれにしたのはー。
鉄も尽きないし、ふわふわの魔力も尽きない。
こいつこそ怪獣だよー。
その気なら鉄のまま動かせるよ。きっと。
打開策。対抗策……──思いつかない!
籠があるから空に上限があるし、空中を移動して逃げるのも無理。いや、逃げないけどね。
相性では勝っているはずなのに、勝てるビジョンが見えない。
『小鳥ちゃんはそこで大人しく見ていなさい』
その通りになってしまう! おまけに、黒ブタマンもふわふわにやられるでは、ミヤビちゃんの存在意義すら危うい。
何か手はないか。いい手はないものか。
ミヤビちゃんの装備は、亜李栖ちゃんへのお土産のエッグ。スマホに財布……。
──まったく役に立たない!
こんなことなら、もう1つ2つは武器を作るんだったーー。
役に立ちそうなものも周囲にはない。
鉄を含んでないものなんてなくない?!
どんだけチートなんだよ。ふわふわめーーーー!
「うぅ……情け無い。世の中には強いヤツがいっぱいいるんだね。井の中の蛙大海を知らずだった……」
「あら、難しい言葉を知ってるわね。感心。感心」
余所見して、喋っていても刀の動きが鈍ったりはしない。ふわふわの技量が半端ないと分かる。
この魔法を使った時点で、ふわふわの一人勝ちじゃん。
「バカにされているけど殴りにすらいけない」
「馬鹿になんてしてないわ。雅は蛙じゃなくて小鳥だもの。チュンチュンって鳴くね?」
「──バカにしてるじゃないか!」
バカにしやがってーー。
こうなったら、意地でも一杯食わせてやる。
黒ブタマンはふわふわに任せて、ふわふわ自体を叩く。ヤツもそう簡単には倒せない。
動きが制限されているだけでも良しと思って、攻撃方法を考えよう。
やはり空中からがいいな。黒ブタマンの風がずいぶん残っているから、しばらくは空中移動が可能。
しかし、刀に当たらずにふわふわに近づけるかな?
クソ速い黒ブタマンでも無理なのに、ずっと遅いミヤビちゃんでは刀の方が速いよな。
いや、それは向きの問題かな?
当たり前だけど、ふわふわ自身には刀は飛んでいかない。射線上に自分がいるラインには刀は飛んでいかない。
……これかな? 突くべきところは。
あと、もう一手欲しいな。
鉄じゃなくて利用できるものが……。
「あっ──、あった」
風が暴れるから空中を行ったり来たりしていたのか。
「どうしたの? ……トイレ?」
「そうやって余裕こいていられるのも今のうちだ! 吠え面かかせてやるからな!」
いいもん見っけ!
あれはかなり丈夫だ。盾に使える。
まさかヤツに助けられるとは考えもしなかった。
次会ったら、お礼を言ってから殺そう。
「クソピエロに感謝。あのシャボン玉は鉄を含んでいない」
「……シャボン玉? 確かに沢山あるけど、結局はシャボン玉よ?」
「それは使い方次第だ!」
まずは、素早くふわふわとの対角線上に移動。
これで飛んでくる刀は一方向減る。
次は足元に注意しつつ、近い風の道に飛び乗る。
あとはシャボン玉まで一直線だ。
「よっしゃー、シャボン玉ゲット! 用意ができるまで向かってくる刀は叩き落す! ──圧砕!」
おや。ふわふわから距離が離れると、刀の力は弱くなるらしい。この距離ならあたしの方が強い。
圧砕が効いてるこの間に、辺りのシャボン玉を集合させて、あたしを中心に紐付けならぬ風付け。
「完成。シャボン玉ガード!」
いいと思う。あとはこれで刀をガードしながら、ふわふわに一撃いれてやる。
「かっこ悪……」
「──なんだと?! そんなはずは……」
これだけあれば浮力を利用して飛べさえするというのに。カッコ悪いなんてことは、ないよね?
「──隙あり」
あーーっ、シャボン玉が……。
背後を見ているうちに刀が飛んできて、シャボン玉が割れてしまった。
飛んできて突き刺さるならフォローできたけど、斬られる手動の動きには対応できない。
流石のクソピエロ製のシャボン玉も、穴どころか裂かれてしまっては割れてしまう。
「貴様、騙したな!」
一瞬の隙を突かれて、せっかく集めたシャボン玉が半分くらい割られてしまった。
やっぱりアレはズルい。刀が手元を離れて動くとか。どうなってんだよ!
「結局、シャボン玉はシャボン玉だったじゃない」
「これはこう使うんだよ! 半端なのに割りやがってーー」
一気に半分になってしまったけど、予定通り乱回転させて、シャボン玉に速度を足して防御力を高める。
「貴女、完成って言ったじゃないの……」
「言ってみたんだよ。カッコつけたんだよ! 察してよ!」
「そう。なんかごめんなさい……」
謝っても遅いよ。もう割れちゃったし。
だが、シャボン玉ガードは完璧となった。
残るはふわふわに接近するだけだ。
「圧砕。両断。旋風。さらにシャボン玉ガード!」
ありったけの魔法を弾幕にして、ふわふわまで突っ込む。前方は魔法弾幕。後方ならびに防御の薄い部分はシャボン玉ガードで防御。
「何それ?」
左右からの刀は弾幕で防いだ。
下と後ろはシャボン玉ガードがある。
「1人版ミヤビちゃんスペシャル!」
よし、いける!
懐までついたら、地面に思いっきり顔を押し付けてやる。それでユッキーが来るまで、むぎゅ〜ってさせ続けてやる。
「ふーん。でも、これは避けられるの?」
しまった。手動でなら前からも刀を飛ばせる……。
ううん、ここまでやって臆するな。
たった7本だけだ。見切ってやる。
刀はどう考えても黒ブタマンより遅い。
黒ブタマンに殺されても死なないという現実と、刀が刺さったら死ぬという恐怖が恐れを生むだけだ。
言われたじゃないか、それはただの恐れだって。
止まるな。前へ出ろ。
風を見るのと同じだ。刀だって風を裂いて進む。
起こりさえ見えれば避けられる。
「──見切った!」
靴のおかげで空中でもラインを変えられる。
1回右にステップして、再び左へ。そこからもう1回左。あとは斜めに入れば抜けられる。
「お見事。七刀全て見切るとはね」
「ブッ潰れろ! 圧砕」
背中に手を回した。
手を前に出した時には、新たな刀を握っている。
自分の真後ろで新たに刀を生成していたらしい。
「まぁ、刀は八本あるのだけれど……惜しかったわね」
これはどうやっても避けらんない。
「ぐっ……はぁ……」
斬られた。
「この刀源郷は私の場よ。アイデアと勇気は評価するけど、舐めすぎよ。雅は遠距離の方が強いのに、わざわざ寄ってくるのもダメ。反省しなさい」
よもや、こんな場所にまで追うてくるとは思わなんだ。まして追いつかれるとも。実に愉快。
「──黙れ。貴様、アレに何をした?」
はて、何の事やら……。
「惚けるか。貴様にそんな反応が出来るとは知らなかった」
……我は其方を知らぬが、其方は我を知っているな。
しかし、とんと覚えがない。黒き兎にな。
「貴様が知るオレとは姿が違うからだろう」
そうであったか。益々愉快。
何故、其方は我を追うてきた?
「余計なことをするなと釘を刺しにだ」
何もしておらんと言うたではないか。
「忠告はした。余計な真似をすれば……」
其方に殺せるか?
器を持たぬ幻の如き我を。
「どつして貴様のようなモノが存在している。とうに討たれたはずの貴様が……」
討たれたには違いないが……。
どれ、追うてきた褒美だ。
ヒトの言う真実とやらを教えよう。
あれは討たれたのではない、飽いた。
それだけのことよ。




