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 刀源郷の中で

♢55♢


 このままでは、ふわふわに黒ブタマンを倒されてしまう。しかし、動くと自動で刀が飛んでくる。

 迂闊に動いては串刺しになるから、身動きできない。


 遮蔽物を利用しての防御もダメ。

 遮蔽物もだいたい鉄が使われてる。

 そこからうっかり刀が生えてきたら、うっかり刺さってしまう。


 街路樹とかもあるが刀が貫通すると思う。

 あれを防げる鉄じゃないものか……なくね? そんなの。


 あと、刀が生えてくるのも止まらないんだ。

 前後左右に上と下。全方向からだ。

 無尽蔵に生えてくる。これでは逃げ道もない。


 生えてきた刀は動くものに自動で反応。迎撃する。

 反応する距離は不明。一度に飛んでくる数も不明。

 それと刀は、ふわふわの手動でも動かせるらしい。


 これにより空中に逃げるのもダメ。

 飛んだら黒ブタマンのように斬り刻まれ、落ちたところで蜂の巣になってしまう……。


 ふわふわは立ってるだけなのに、山ほどある刀がビュンビュン飛び回って、突き刺し斬り刻む。まさに無双状態。

 無論。黒ブタマンも刀をバンバン叩き落とすし、避けるけど物量差は歴然。ふわふわの魔法が、黒ブタマンの風の防御の魔法を貫通し始めている。


 ヤツめ。あの場所から一歩も動きもしないとは。

 もう全然、ふわふわじゃない。あれは鋼鉄の女だよ。


 鳥籠(とりかご)と呼んだ鉄格子も、ずっと続いている。というか広がっている。外に外に向かって伸びていっている。

 下から生えてきてるから、地下鉄とかを使っているんだと思う。水道管とかも材料になるだろうし。


 誰だよー、街中を鉄まみれにしたのはー。

 鉄も尽きないし、ふわふわの魔力も尽きない。

 こいつこそ怪獣だよー。

 その気なら鉄のまま動かせるよ。きっと。


 打開策。対抗策……──思いつかない!


 籠があるから空に上限があるし、空中を移動して逃げるのも無理。いや、逃げないけどね。

 相性では勝っているはずなのに、勝てるビジョンが見えない。


『小鳥ちゃんはそこで大人しく見ていなさい』


 その通りになってしまう! おまけに、黒ブタマンもふわふわにやられるでは、ミヤビちゃんの存在意義すら危うい。


 何か手はないか。いい手はないものか。

 ミヤビちゃんの装備は、亜李栖(ありす)ちゃんへのお土産のエッグ。スマホに財布……。


 ──まったく役に立たない!

 こんなことなら、もう1つ2つは武器を作るんだったーー。


 役に立ちそうなものも周囲にはない。

 鉄を含んでないものなんてなくない?!

 どんだけチートなんだよ。ふわふわめーーーー!


「うぅ……情け無い。世の中には強いヤツがいっぱいいるんだね。井の中の蛙大海を知らずだった……」


「あら、難しい言葉を知ってるわね。感心。感心」


 余所見して、喋っていても刀の動きが鈍ったりはしない。ふわふわの技量が半端ないと分かる。

 この魔法を使った時点で、ふわふわの一人勝ちじゃん。


「バカにされているけど殴りにすらいけない」


「馬鹿になんてしてないわ。(みやび)は蛙じゃなくて小鳥だもの。チュンチュンって鳴くね?」


「──バカにしてるじゃないか!」


 バカにしやがってーー。

 こうなったら、意地でも一杯食わせてやる。


 黒ブタマンはふわふわに任せて、ふわふわ自体を叩く。ヤツもそう簡単には倒せない。

 動きが制限されているだけでも良しと思って、攻撃方法を考えよう。


 やはり空中からがいいな。黒ブタマンの風がずいぶん残っているから、しばらくは空中移動が可能。

 しかし、刀に当たらずにふわふわに近づけるかな?

 クソ速い黒ブタマンでも無理なのに、ずっと遅いミヤビちゃんでは刀の方が速いよな。


 いや、それは向きの問題かな?


 当たり前だけど、ふわふわ自身には刀は飛んでいかない。射線上に自分がいるラインには刀は飛んでいかない。


 ……これかな? 突くべきところは。


 あと、もう一手欲しいな。

 鉄じゃなくて利用できるものが……。


「あっ──、あった」


 風が暴れるから空中を行ったり来たりしていたのか。


「どうしたの? ……トイレ?」


「そうやって余裕こいていられるのも今のうちだ! 吠え面かかせてやるからな!」


 いいもん見っけ!

 あれはかなり丈夫だ。盾に使える。

 まさかヤツに助けられるとは考えもしなかった。

 次会ったら、お礼を言ってから殺そう。


「クソピエロに感謝。あのシャボン玉は鉄を含んでいない」


「……シャボン玉? 確かに沢山あるけど、結局はシャボン玉よ?」


「それは使い方次第だ!」


 まずは、素早くふわふわとの対角線上に移動。

 これで飛んでくる刀は一方向減る。

 次は足元に注意しつつ、近い風の道に飛び乗る。

 あとはシャボン玉まで一直線だ。


「よっしゃー、シャボン玉ゲット! 用意ができるまで向かってくる刀は叩き落す! ──圧砕(あっさい)!」


 おや。ふわふわから距離が離れると、刀の力は弱くなるらしい。この距離ならあたしの方が強い。

 圧砕が効いてるこの間に、辺りのシャボン玉を集合させて、あたしを中心に紐付けならぬ風付け。


「完成。シャボン玉ガード!」


 いいと思う。あとはこれで刀をガードしながら、ふわふわに一撃いれてやる。


「かっこ悪……」


「──なんだと?! そんなはずは……」


 これだけあれば浮力を利用して飛べさえするというのに。カッコ悪いなんてことは、ないよね?


「──隙あり」


 あーーっ、シャボン玉が……。

 背後を見ているうちに刀が飛んできて、シャボン玉が割れてしまった。


 飛んできて突き刺さるならフォローできたけど、斬られる手動の動きには対応できない。

 流石のクソピエロ製のシャボン玉も、穴どころか裂かれてしまっては割れてしまう。


「貴様、騙したな!」


 一瞬の隙を突かれて、せっかく集めたシャボン玉が半分くらい割られてしまった。

 やっぱりアレはズルい。刀が手元を離れて動くとか。どうなってんだよ!


「結局、シャボン玉はシャボン玉だったじゃない」


「これはこう使うんだよ! 半端なのに割りやがってーー」


 一気に半分になってしまったけど、予定通り乱回転させて、シャボン玉に速度を足して防御力を高める。


「貴女、完成って言ったじゃないの……」


「言ってみたんだよ。カッコつけたんだよ! 察してよ!」


「そう。なんかごめんなさい……」


 謝っても遅いよ。もう割れちゃったし。

 だが、シャボン玉ガードは完璧となった。

 残るはふわふわに接近するだけだ。


圧砕(あっさい)両断(りょうだん)旋風(つむじかぜ)。さらにシャボン玉ガード!」


 ありったけの魔法を弾幕にして、ふわふわまで突っ込む。前方は魔法弾幕。後方ならびに防御の薄い部分はシャボン玉ガードで防御。


「何それ?」


 左右からの刀は弾幕で防いだ。

 下と後ろはシャボン玉ガードがある。


「1人版ミヤビちゃんスペシャル!」


 よし、いける!

 懐までついたら、地面に思いっきり顔を押し付けてやる。それでユッキーが来るまで、むぎゅ〜ってさせ続けてやる。


「ふーん。でも、これは避けられるの?」


 しまった。手動でなら前からも刀を飛ばせる……。

 ううん、ここまでやって臆するな。

 たった7本だけだ。見切ってやる。

 刀はどう考えても黒ブタマンより遅い。


 黒ブタマンに殺されても死なないという現実と、刀が刺さったら死ぬという恐怖が恐れを生むだけだ。

 言われたじゃないか、それはただの恐れだって。


 止まるな。前へ出ろ。


 風を見るのと同じだ。刀だって風を裂いて進む。

 起こりさえ見えれば避けられる。


「──見切った!」


 靴のおかげで空中でもラインを変えられる。

 1回右にステップして、再び左へ。そこからもう1回左。あとは斜めに入れば抜けられる。


「お見事。七刀全て見切るとはね」


「ブッ潰れろ! 圧砕」


 背中に手を回した。

 手を前に出した時には、新たな刀を握っている。

 自分の真後ろで新たに刀を生成していたらしい。


「まぁ、刀は八本あるのだけれど……惜しかったわね」


 これはどうやっても避けらんない。


「ぐっ……はぁ……」


 斬られた。


「この刀源郷(とうげんきょう)は私の場よ。アイデアと勇気は評価するけど、舐めすぎよ。雅は遠距離の方が強いのに、わざわざ寄ってくるのもダメ。反省しなさい」




 よもや、こんな場所にまで追うてくるとは思わなんだ。まして追いつかれるとも。実に愉快。


「──黙れ。貴様、アレに何をした?」


 はて、何の事やら……。


「惚けるか。貴様にそんな反応が出来るとは知らなかった」


 ……我は其方を知らぬが、其方は我を知っているな。

 しかし、とんと覚えがない。黒き兎にな。


「貴様が知るオレとは姿が違うからだろう」


 そうであったか。益々愉快。

 何故、其方は我を追うてきた?


「余計なことをするなと釘を刺しにだ」


 何もしておらんと言うたではないか。


「忠告はした。余計な真似をすれば……」


 其方に殺せるか?

 器を持たぬ幻の如き我を。


「どつして貴様のようなモノが存在している。とうに討たれたはずの貴様が……」


 討たれたには違いないが……。

 どれ、追うてきた褒美だ。

 ヒトの言う真実とやらを教えよう。


 あれは討たれたのではない、飽いた。

 それだけのことよ。


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