世界中でたった1人
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始まったのはいつだったのだろう。
私がそれに気づいたのはいつだったのだろう。
誰が、止まっていた時間を動かしたのだろう。
全ては空にあったゲートから始まった?
それとももっと以前から?
きっかけは?
『ユウキ。馬鹿がいない。頼みたいことがあったんだが、どこ行ったか知らないか?』
『いえ、私も分かりません』
『そうか。連絡があったらコロスから教えてくれ』
ここだろうか?
姉さんに知らないと嘘をついたところから。
『──それはどうした……。何故、お前が持っている。いや……持てるのか? それを……』
『これは私のものだと。私の手にあるべきものだと……』
『あの馬鹿がそう言ったのか? それで、馬鹿な長兄はどこにいる? 隠さず話せ。事によってはお前も同罪だ』
『分かりません』
『──ユウキ! お前がやったことは許されないことだ! この期に及んで隠すな!』
『分かりません。本当に分からないんです。ただ、ゲートの消滅と同時刻に電話がありました。姉さんによろしくと』
『あの馬鹿。まさか……』
ここではない。
今なら、この時には分からなかったことが分かっているけど。違う。もう少し先だ。
『ユウキ。馬鹿がいないし、私ではいろいろと問題がある。そんな依頼が来た。断るにも断れなくてな……。頼めないか?』
『何をするのでしょうか?』
『ゲート消滅から1日経たずして帰還者が出た。その子が、水瀬の病院に検査名目で拘束されている。その子に話を聞いてきてほしい。ゲートの向こうのことを。歳の近いお前なら、向こうの警戒心も薄れるかもしれない』
ここかもしれない。
姉さんの頼みを断れば、私は雅には出会わなかった。雅がいなければ記憶に関する出来事もなく、私の時間は止まったままだったのかもしれない。
『……キミは誰? ナースコール押すよ』
『押したければどうぞ。鍵を開けたのは貴女ですけどね』
『窓の外に誰かいるから幽霊だと思ったんだよ。見たいじゃん、幽霊! それなのに女の子だったんだよ。驚いたよー。だってさ、ここ4階だよ? どうやって登ったの? 忍者?』
『少し伺いたいことがあります。嫌ならナースコールをどうぞ』
『うーん……──暇だしいいよ! 実は退屈だったんだよ。大人はたくさん来るけどみんな同じ話。せめて同じくらいの年齢のやつを寄越せや! って思ってたからさ』
雅がナースコールを押さなかったのも。
私が姉さんの頼みを受けたのも始まりだったんだろう。
何かが違えば、結果も違っていたはずだから。
雅に出会って10日程度。でも、たったこれだけの日数で色々な変化があった。その間に目まぐるしいくらいに様々なことがあった。
始まったゲーム。無くした記憶。
これらは関係ないようで、どこかで関係している。
無くしたものは測ることすらできないけど、得たものは1つとして忘れる事なく答えられる。
もう無くさない。もう失わない。二度と。
初めてではないのだろうけど、初めての友達。
友達とは、一緒にいると疲れるけど、同じくらいに楽しい。そんなものだと知った。
1人己を鍛えた時間も楽しかったわけではないけど、意味はあった。私は強くなれた。
大事なものを守れる。その力になれる。自らの道だって切り拓ける。
『オレがオマエの事を話すのは簡単だ。もちろん、オレが知ってる事になるけどな。でもよ。そんなの望まないだろ?』
『はい。人から聞いたところで、自分では納得できないと思います。半信半疑では意味がない。私は自分の意思で、自分の信じたものを信じます。今は自分の信じたものを確かめに行きます』
『それがあのボスキャラにあるのか?』
『はい。貴方の話は日を改めて伺います』
『本当はよぉ……オレがやろうかと思ってたんだ。病弱な姉ちゃんでもなく。記憶の無いオマエじゃなく。今まで何も出来てないオレが……』
風神 拓人。彼も抱えているものがある。
短い時間では何かは分からなかったけど、それは自分と同じもののような気がした。
「この鉄格子はなんだ? どっから……って言うか、どこまで続いてんだ? 上もきっちり閉まってるし」
「──おまけに固いです! まったく斬れません」
「剣を振り回すまでが早いな。もう少し状況を見てからやろうよ」
「志乃さんは少し考え過ぎです。考えるな感じるんだ。ですわ!」
「亜李栖。お前は少し考えなさ過ぎだけどな……。もうちょっと考えてから行動しよう?」
雅はこの籠の向こうにいるのだろう。
本当は私が守らなくてはいけないはずなのに……。
そういえば……どうしてそう思ったんだろう?
あの子の身体が弱いと聞いたから?
「ユウキ、どうする?」
「私では斬れない……。ユウキさん代わってください」
私が雅を守り、雅が魔法を使う。
そんな場面を何処かで見た気がする。
でも、あれは雅と出会うより前だったのではないか?
「ユウキ。聞いてんのか? もしもーし」
「今は先へですね。2人とも離れてください。おそらくこれは再生しますから、斬ったらすぐ通りますよ」
こんな鉄に足止めされている場合ではない。
雅のことだ。私のためと言って頑張っているのだろう。
「斬るところはできるんだ」
「──流石です! 今度、私にも教えてくださいね?」
風神 拓人のおかげで後1回分の力はある。
あそこで戦闘になっていたらこの籠は越えられなかった。彼にも感謝しなくてはいけないですね。
「ドレスコード起動。焼き斬ります」
「こんなとこで魔法使って大丈夫なのか? ウチらはボスキャラとか無理だぞ?」
「悔しいですが志乃さんの仰る通り。無理です……」
「大丈夫です。切り札は最後まで切らないものですよ」
私に足りなかったもの。
それは守りたいもの。
それはこの10日間で得た。
今なら、今の私になら……使える。
待っていてください。2人とも。
私もすぐに追いつきます。必ず。




