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 三つ巴 ②

 ユウキが足を止めないので、他の全員がそれに合わせて移動している。なので、歩きながら紹介するという珍しい状態になっているのだが、それもできていない。


「ユウキが歩くスピードを落としてくれない……」


「興味ないんでしょう。ちなみに。私も別に興味ありません! 志乃(しの)さんの顔を立てているだけです。本当はユウキさんくらい早足で遠ざかりたいです」


「お前はもう少し興味持ってくれよ。一番多く攻撃したんだから……」


「聞いても明日には忘れますが、いいですよね?」


 さっきまでは、できれば紹介したくなかった志乃だが、今は名前すら覚えられていないのは可哀想になってきた。少年はユウキを知っているのにだ。


「はぁ……──何だ?」


 志乃がため息をついた瞬間、何か感じるものがあった。無数におびただしいくらいに。それがすぐに辺りを埋め尽くす。


「この感じはモンスターだな。タイミングがずいぶんよろしいな」


「どういうことだテ……どういう意味でしょうか?」


「オレをじゃないだろうから、優姫(ゆうき)をか。先に行かせたくないみたいだな。誰かは知らなねぇけどよ」


 確かに位置とタイミングが良すぎる。

 モンスターの出現場所の歌に、ちょうどユウキがいるのは今日3度目。これだけ重なっては偶然とは言い切れない。


「問題ありません。全て蹴散らします」


 その度にユウキは力を消耗している。意図されているなら、おそらくは目的通りにだ。

 これを繰り返すだけボスキャラとの戦闘は難しくなるだろう。


「バーカ。力の残りも大してないくせに無理すんな。オマエの目的はボスキャラじゃねぇのか? ここで無駄に力を使うことはねぇ」


 筋書きから外れるためには、どこかで意図を見抜き、それから外れなくてはならない。

 少年は少女を知っている。その価値も。その意味もだ。だから先を読める。


「誰がやっても同じでしょう。行く手を阻まれては進めないのですから」


「関係ないヤツがやりゃあ、同じじゃねぇ。予定は狂うはずだ。ここはオレがやっておいてやる。その隙に間を抜けて進め」


 ユウキは構えた刀を引き、足すら止めてしまう。

 力の残りが少ないという事実を見透かされていたから。どうして突然そんなことを言うのか分からないから。


「どうして?」


「さっきは悪かった。オマエが生きてたって分かってどうかしてた。素直に嬉しいとも言えねぇし……」


「タッくん。今、嬉しいって言ったっす。そして浮気っすか?」


「違うしややこしいから黙ってろ」


 行く手を阻むモンスターの数はこれまでで最大。

 前回より数が増えた理由は、あれでは足りなかった。ということだろう。


「シミが全部出揃うまでは動くな。追いかけられると面倒だからなぁ。合図するまでは大人しく見てろ」


「分かりました」


 地面にいくつも黒いシミが現れ、そこから同じ黒いモノが這い出てくる。広範囲に隙間のないくらいに。


「志乃。優姫のことが、どうしても気に入らないヤツがいるらしい。それも、こうしてモンスターを出せるヤツだ。覚えておけよ」


「あぁ。でも、本当に大丈夫なのか?」


「自慢じゃないが、コイツに負けたのを最後に負けた覚えはない。今ならコイツにも負けねぇけどな」


 悪態を吐くのは認めているから。

 先に進まそうとするのは後悔からだろう。

 何も知らなかった自分への。何も出来ずに、八つ当たりにしか思えないことをしたことへの。


風神 拓人(かざかみ たくと)だ。覚えてないなんて二度と言うなよ……」


「風神 拓人」「──風神?!」


 ユウキは聞いた名前を覚え、亜李栖は予想外の名前に驚きを隠せない。


「あー、そうなんだ。今ので分かったと思うけど、彼は風神 雅(かざかみ みやび)さんの弟さんだ。隣はその彼女さんだ」


 知っていた志乃だけは、ばつが悪そうだった。


「本当のことっすけど、改めて言われると照れるっす。お姉さんたちよろしくお願いします。あっ、優姫さんだけは同い年っすね。お義姉さんにも挨拶したかったんっすけど、今日はいらっしゃらないので後日ということで」


 彼女と紹介された少女だけは嬉しそうだった。


「ああ……胃が痛い。もう、いろいろ考えるほど胃が痛い。雅に何て言えば……いや、いっそのこと何も言わずにおきたい……」


 志乃は、雅に言った場合も、黙っていた場合も、黙っていて知られた場合の全部を想像し、どれも嫌だなぁと心底思っている。


「──ちょっと志乃さん! 何でもっと早く言わないんですか! 弟さんだと知っていたら──」


「知っていても変わんないだろ」


「そ、そんなことはないと思いますよ? ……たぶん」


「はいはい。胃が痛いからゆすらないでくれ」



 ♢



 モンスターが出揃うまでは数分間の時間が掛かる。

 その間に作戦会議があるわけでもなく、心構えをするとかでもなく、行列の待ち時間を待っている時のようにそれぞれが思い思いに話している。


 すでに現れたモンスターたちは襲い掛かってくるが、全て弾き飛ばされる。5人を囲う固められた空気の壁によって。


 (みやび)と同じ魔法。だが、使い方に少しの違いがある。

 拓人(たくと)が行う魔法は、ぶつかるモンスターたちはただ弾かれるだけだが。雅が同じ魔法を行なった場合、彼女はただ弾くなんてことはしないからだ。

 同じ魔法でも使い手によって異なる結果を生む。


「そろそろだな。話の続きはまた今度だ。渋谷を拠点にしてるだろうから、そこら辺のヤツに聞け。もしくは、姉ちゃんに直接連絡先を聞け」


「わかりました。ここは本当に任せていいんですか?」


「いいぜ。オレはプレイヤーじゃねぇから、モンスターを狩る意味はないけどな。裏をかいて仕掛けてきたヤツを嗤うのは悪くねぇ」


 拓人の圧がチリチリと上がっていく。

 モンスターたちは恐れることはなく、逆に引き寄せられる。より強い力に。


「うわーっ……性格の悪いやつ。お姉さんを見習うべきだと思いますわ」


「お義姉さんはタッくんと違いますか?」


「──それはもう! こんなクソ野郎とは全然違います。ねぇ、志乃さん?」


「ソウダネー」


「ほら!」「そうなんすね!」


 明らかに温度差がある会話だったが、なんだか相性がいい2人は温度差に気づかない。

 それどころか辺りがモンスターまみれの中、まるで関係ない話をしていられる胆力を備えているようだ。


「……ところで拓人。どうして雅に会いに来ない? お前、病院にも行かなかったみたいだな?」


 今の言葉に、志乃(しの)たちでも解るくらいに空気がピリつき、これまでと違いかなりの怒気を感じた。

 拓人は機嫌が悪いふうには見えても、本当に機嫌が悪いわけではないのだが、今のは本当に機嫌が悪くなる内容だった。


「オレは顔を合わせたくねぇ。それだけだ」


 雅がいたなら反応は違ったのだろうが、当人はいない。だから、何も言わず当たり障りのない返事を返す。


「……薄情な野郎ですね。こんなのと付き合うのは考えた方がいいのではないですか?」


「そんなことないっすよ。タッくんは優しいっす」


「全然そうは見えないですけどね」


「あげないっすよ?」


「──いりません!」


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