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 三つ巴

♢52♢


 険悪な2人を諌めようと、間に割って入った志乃(しの)のスマホが鳴った。その相手は(みやび)

 普段はバイブレーションに設定してあった着信音を、もし着信があってもすぐに分かるように、着信音を鳴るようにしておいた。


「雅からだ。お前ら少し静かにしてくれ」


 いがみ合う2人は、この言葉で一瞬だけ大人しくなる。


『もしもし、志乃ちゃんでしょうか?』


「何か言うことはないか?」


 言いたい事の全てを飲み込んで、志乃はこれだけ言った。この後の雅の台詞にも想像がついている。


『ごめんなさい。もうしません。許してください』


「はぁ……そのまま続けてイベントとやらは終了させろ。今そっちに向かってるから──」


 反省としては薄いが、あれは自分のためにやったことであり、あまり叱れないという思う部分も存在する。だから小言は口にせず、「お前は大丈夫なのか?」そう続くはずの志乃の台詞は、


「アホらしい。謝ったところでどうせ口だけだぜ? 明日には忘れてる」


「そんなことはありません。雅はもうしないと言った事はやらない。約束は守る人です」


「どうだかなー。そもそも、自分のこともろくに分かんねぇヤツが、人のことをどうこう言えんのか?」


「……貴方は言っていい事と、悪い事の区別もつかないらしいですね……」


「こいよ。やるなら相手になってやるぜ。何時ぞやの借りを返す、またとない機会だからな」


 と後ろでいがみ合っている2人と、


「志乃さん。その電話。雅さんからなんですか? ──ちょっと代わってください!」


 と、わざと少年を背後から蹴り飛ばすという、乱入の仕方をした亜李栖(ありす)によって阻まれる。


「あら、ごめんなさい。私ったらつい足が出てしまいました! ざまぁ(笑)!」


 すぐに立ち上がろうとする少年の手を踏んづけるおまけ付きでだ。そして踏みつけている足を上げる気はないようだ。


「痛ぇ……オマエ……」


「口の悪い野郎だな。志乃さんの知り合いのようだから手は出さないつもりだったが、やるなら相手になってやる。これは、まだ手は出してないからセーフですよね?」


「類は友を呼ぶってやつか。ろくなヤツがいねぇな……」


 少年は手を本気で踏まれているので起き上がれない。この仕返しに、亜李栖の足首を引っ張るつもりだったのだろうが先に亜李栖が動く。


「──あっ、チャンス!」


 志乃がスマホを持つ手を下げたからだ。

 亜李栖では飛びあがらないと取れない高さだったスマホが、飛びあがらなくても取れる高さになった。


「ぶっ──、おちょくりやがって……」


 足元の砂を少年にかかるように巻き上げて、スマホを奪いに動く。スマホと接触した際にも嫌な音がしたが亜李栖は気にせず、スマホを奪い取った要件を告げる。


「──雅さん。エッグを是非とも私の分も!」


 スキルを作る。それを試すのにエッグが欲しかった。

 雅がエッグを片っ端から取っているとは聞いていたので、あるなら自分の分もと思ったらしい。


『亜李栖ちゃんか。とりあえず1個はあるから。これで許してね?』


「もちろん。エッグをくださるならいくらでも許します! なので1つと言わずもっと欲しいです!」


「──返せ!」


 亜李栖の台詞は最後まで雅に聞こえていない。

 途中で志乃がスマホを奪い返しに来たからだ。


「まだ話の途中です。もう少し貸してください!」


「ふざけんな、大人しく渡せ!」


「嫌です。雅さんに頼めばあんな技や、もしかするとあの技まで? 再現できるかもしれないんです! もう少し貸してください。私のでよければ使っていいですから」


「いいから寄こせ!」


 どちらも譲らずにスマホを奪い合い、終いにはスマホを地面へと落とす。


「「あっ──」」


「何を呑気に喋ってやがんだぁ……。オマエはよぉ」


 付着した砂を落とし、女だからと手加減するのをやめ少年は立ち上がった。しかし……。


「「うるさい! 黙ってろ!」」


「なっ……」


 先に乱入してきた邪魔な奴から黙らせることにした2人から、それぞれ攻撃を受ける。

 この間に誰かが蹴ったらしく、志乃のスマホはユウキの方へと飛んでいった。


「タッくん。今のはタッくんが悪いっす。言っちゃダメなことってあると思います。ジブンも少しひどい目にあった方がいいと思うっす。お姉さんたちよろしくお願いします!」


 ユウキが雅と喋っている間に少年がどうなったのはご想像にお任せします。



 ♢



 故意に途切れた通話。それまで聞こえていた断片から、起こっていることは想像できた。

 (みやび)とアイリ。そこにボスキャラまで加わっているらしいと。


「あの男が新宿の結界を破り、雅のところに現れたようです。 ──急ぎましょう!」


「ああ」「そうですわね」


 ユウキの呼びかけに志乃(しの)亜李栖(ありす)も答え、その後に続く。何事もなかったようなは、この場を去っていこうとする。


「オマエらフザケンナよ」


「構わず行きましょう。こんな誰だかも分からない野郎になど、いつまでも構っていられません」


 執拗に足蹴にしたが、手は、出していない亜李栖。

 亜李栖が一番憎まれていそうだが、スタスタ歩いていくことから悪気はまったくないようだ。


「志乃。このクソムカつく女に自己紹介してもいいか? もしくは少し時間をくれ。名乗らずブッ殺してやるから」


 名前にも興味はないらしく亜李栖は止まらない。

 その気持ちは雅へ。雅が持つエッグへ。ボスキャラへと向かっているので、誰だかも分からない野郎への興味など存在しない。


「えぇー、どっちもやめてほしい。通りすがりのタッくんでいいじゃん。今ならそれで誤魔化せるんだし」


「誤魔化す意味が分からねぇ。オレはオレだ」


「はぁ……分かった。あたしが紹介するよ……」


 しかし、志乃が立ち止まり紹介するとまで言っては、亜李栖も立ち止まらないわけにもいかない。


「ちっ、雑魚に割く時間など無駄でしかないというのに……」


 しかし、ユウキだけは歩みを止めない。手も足も出してないし、自分を知っていたとしてもさほど興味はないようだ。


「2人ともどうしました。早く行きましょう?」


「うわぁ……流石はユウキさん。しかし、ここは志乃さんの顔を立てましょう」


「すいません。行きましょう」


「亜李栖。ユウキを止めろ!」


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