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 剣筋 ④

「記憶が無い? じゃあ、オレのことは分からないわけか……」


「はい。申し訳ない気はしますが分かりません」


「どうにもイラつくなぁ。覚えてないってところが特にな」


「知らないものは知らないとしか言いようがありませんし、私も貴方のようなタイプにはイライラします。もう少しきちんとした格好はできないのですか?」


 ユウキに関する事柄の一端を志乃(しの)たちは知っている。しかし、他人がどうこう言う事ではないと思うし、雲母(きらら)からも他言はするなと釘を刺されている。


「志乃さん。アレは止めなくていいんですか?」


 なのでユウキが話すのを聞いて、やり取りを眺めていたのだが、雲行きが怪しくなってきた。

 他の全員、そんな気がし始めた。


「なんて言って止めんだよ。それにな……あそこに割り込むのはやだよ」


「えぇー、あのままにして喧嘩に発展したらマズイですよ! あの野郎をぶち殺すことになりますよ?」


「どうしてこう好戦的なんだろうな。この癒しの魔法みたいに優しくはできないのか?」


 撃たれた志乃は亜李栖(ありす)により治療されている。

 水の力は攻撃以外にも使用できるのだ。

 亜李栖は今時の若者らしいやり方で、癒しの魔法を使用している。


「これは雲母さんの魔法です。私のではありませんわ。ですので、気にいらない野郎をぶち殺すことに変更はありません!」


「そうですか……はぁ……誰が代わってくれないかな」


 このゲーム以外の、元から存在していた技術である魔法を使用するには魔法陣が必須。だが、魔法陣を作るには技術やら才能やらが必要。


 しかし、亜李栖はこれらをどれも持ってはいないのだが、癒しの魔法はきちんと発動している。

 その方法を説明すると、魔法陣は写しを、魔法の発動には己が得物を使用している。


「お姉さん魔法使いなんすね。タッくん以外にもいるんすね。魔法使い」


「こんなのは真似事ですわ。魔法陣は写メですし」


「それでも魔法。使ってますよ? やっぱスゲーっす」


 この前、(みやび)を治すのに使用した魔法陣。

 あの時、雲母のくれたカードに組み込まれていた癒しの魔法。それを亜李栖はスマホで撮影しておいた。


 陣の意味は分からなくても、魔法を発動することはできたから。魔法を動かすのに本当に必要なのは、理論ではなく魔法陣自体なのだと考えたからだ。


 そしてそれは正解であった。

 頭の中に魔法陣が存在し、それを映す方法があれば魔法を使うことができる。


 画像を見続けることで陣は頭の中に存在し続け。それを発現させる触媒は、もう持っている。

 内から生み出した聖剣は触媒としてこの上なく上等な代物であり、無いものを補うものでもある。


「写メで魔法が使えるとは魔法使いも真っ青だな……」


 しかし、やり方としては邪道。

 それに現状。欠点が大きすぎる。


「発想の転換です。雲母さんも雅さんもバンバン魔法を使いますが、呪文を唱えたりはしていませんでした。手元に魔法陣が現れるだけ。そして、あのカードを使って雅さんを治した時に、もしやと思いました。雲母さんの手元を離れた魔法が、私の力で作用した。この事から必要なのは魔法陣自体なのでは? と」


「「おぉ──」」


「魔法陣を細部まで覚えるのは難しいので、こうしてカンペを見て行っていますがね。これ、戦いながらは絶対に無理ですわね」


 暗記できればカンペは必要ないが、暗記したものを戦いながら引き出せるかは分からない。

 魔法を使うにあたっては、知識はやはり必須ということなのだろう。或いは別のアプローチが。


「──可哀想だとか一瞬でも思ったオレが間違いだった! 思えばオマエは昔からそういうヤツだったな!」


「何も覚えていないと言いました。あと、可哀想とかやめてください。私は自分を可哀想とは思いません!」


 志乃を治療していた間に、雲行きは更に怪しくなってる。もう言い争いから喧嘩へと発展するのは時間の問題だろう。


「目を離した間にマズイことになってる。亜李栖、そろそろ止めるぞ! ユウキの方を頼む!」


「私が参加するなら、あの野郎は死にますよ? それでもいいですか?」


「──だからユウキの方を頼んでんだろ!」


「それでも最後にはあの野郎をヤります。いいですか?」


「あー、もういい! 1人で行ってくる!」


 その後、離れたところでいがみ合う声と、それを静止しようとする声が絶えず聞こえている。参加したらヤルと宣言した亜李栖は不参加なので、騒ぎから取り残された2人は魔法に関する会話を続けている。


「エッグを使ったらいいんじゃないっすかね?」


「と言いますと?」


「あれって2つ目からは武器を作らないことができるじゃないっすか。でも、エッグは使用できますよね。タッくんが言ってたんっすけど、魔法を使う時に技名を叫ぶのはカッコいいからじゃなくて、引き出すのにやってるって言ってたっす」


「……?」


「えーと……口にすることで頭の中に魔法陣が浮かぶ。ってことかなと思いました。そして、エッグを使って武器を作らない場合、スキルを作れるじゃないっすか。アレを利用して、その魔法陣を組み込めばいいんじゃないっすかね?」




♢51.5♢


 男は命令を得た。

 それは記憶の限り初めての事であった。

 命令した男は、興味が無い事柄には無関心な男だったから。


 そして望むままにと言われたが、あれは間違いなく命令であった。だから赴くままにではなく、与えられた役目としての活動を開始する。


 全てを鏖殺するために。


「?」


 疑問符を浮かべる間しかなく死ぬ。

 或いはそれすらなく死ぬ。


 建物の密集する場所であっても、通り抜けた時には何者も、1人として立っている者はない。

 ただ、風が吹き抜けただけのように感じる。


 そこには無駄な破壊など存在しない。

 しかし、屠るものは全て屠る。

 虫螻(むしけら)と自らも思うものを全て。


「うわぁ!」


 一言発した者は次の瞬間にはもういなく、近くの者も同じく消える。1秒につき1人のペースで、フィールドから消えていく。


「まさかあれは……」


 気づいた者。逃げようとする者。

 どちらとも男を振り切る事は不可能。


 足りな過ぎる。

 速さと対抗するもの。そのどちらもが。

 

「向こうから来てくれるとは!」


 勇猛も無意味。

 下位のプレイヤーたちには。

 上位のプレイヤーであっても……。


 こうして辺りを全てを鏖殺し進んでいく。

 最初に受けた命令の対象のいる場所に。

 男が通った後には静寂しか残らない。


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