剣筋 ③
♢51♢
無数の着信に気が付いた亜李栖は、折り返し志乃に電話したを掛け直したが、何度掛けても志乃が電話に出ることはなかった。メッセージも既読すらつかない。
しかし、マップに表示される志乃のアイコンは移動しているのだ。その事で気が気ではなくなり、歩く速さは徐々に速くなっている。
「雑魚共が、──邪魔!」
移動しながら聖剣が振るわれ、一振りでモンスターを屠る。近くには他にもモンスターが存在しているが、それらには目もくれずに志乃のアイコンを目指す。
「また、モンスターですね。構わずに行きましょう」
亜李栖たちの進行方向にもモンスターが大量に現れたらしく、そこから散らばるモンスターが行く手を阻むので、どうしても避けられないものだけは斬り捨てて進んでいる。
「──ええ、無視できるヤツは無視します。そして走りましょう! 志乃さんに何かあってからでは遅いのです!」
志乃の移動しているアイコンは、見ようによってはモンスターから逃げているようにも見えるのだが、亜李栖はそうは思わないらしい。
「あとどのくらいですか?」
「走ればすぐです。あるいは、ここを真っ直ぐにブチ抜くともっと早くなりますね……」
迂回路は確実に存在しているはずだが、気が気ではないのが影響し、絶対に正しくない判断を実行に移す。
つまり亜李栖は建物に穴を開け直線に道を作ることにしたようだ。なお、ツッコミが不在なのでこれを止める人間はいない。
「最後の1枚になってしまいました。ですが、優先するべきは今です」
雲母のくれたカードの、最後の1枚を道を作るために使用する。他にも必要になる場面はあるはずなのにだ。
「聖剣の輝きも増しました。前より今の方が、ずっと多くの力が集まっていくのも分かります。あぁ、これなら100メートルくらいは道が出来そうな気がします!」
上がったレベルは確実に魔法を上達させている。
魔力の総量は増えているし、それを扱う能力も上昇している。亜李栖は、このゲームを1から進めている見本と言っていい。
「日常の中には無いもの。それがここまで力に変わるのですね。姉さんの言った通りでした」
繰り返す実戦が成長を加速させる。
日常には存在しない戦いが、日常には存在しないものを培う。それは戦うための技術であり知識をだ。
「──唸れ聖剣。我が道を斬り拓け!」
収束した力は、望んだイメージを形にする。
思い描いたものが形を得て顕現する。
魔法が技となる。想像が現実に。
武器が魔を帯びた武器に変わる。
これは自ら生み出した魔法が、自分だけのものになる貴重な瞬間である。ただ……。
「アリス。ふと思ったんですが、直線に振るとシノを巻き込みませんか?」
2人いるのだから、どちらかはもう少し早く気付くべきだし、ユウキが言うのも遅すぎる。もう聖剣は止まらない。
「えっ? ──えぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」
「あーあ……やってしまいましたね」
間違いなく聖剣の一撃は目指す相手まで到達する。
直線上に走る青い斬撃は建物では止まらず、思った通りの結果をもたらすから。
「い、急ぎましょう! 志乃さん。どうか無事でいてください……」
♢
急速に迫る広範囲高出力の魔法を、その直線上にいる2人が感知する。しかし、感知はしたが1人は肩を貸されて歩いているので反応はできない。
「なんだぁ? ものの数秒でくんな」
「この感じは……」
「ちょっと1人で支えてろ。オマエらそこ動くなよ」
なので気づいたかつ動ける方が対処する。
肩を貸している人物も2人いる。1人を左右から支えていたのだが、左側が抜けたことにより急激に右側に傾く。
「ええっ──、このお姉さんジブンより背が高いから、タッくんに抜けられるとちょっと……。そして重いー」
「悪いな。二重に謝っておくわ。本当に悪い」
誰が何をしたのかを察した志乃は、あらかじめ謝罪を口にした。そして、タッくんと呼ばれた少年は魔法の飛んでくる方向に向き直る。
「どこの馬鹿だ。ずいぶん無茶苦茶すんなぁ」
いくつ建物をブチ抜いて来たのかは分からないが、これはまだ止まらない。だから、回避よりも防御を選択する。
「風壁……じゃ無理か。押し負けるな」
押し固めた風での防御を試みるが後ろに押される。
この魔法では駄目だと判断し、次を使用する。
守りで駄目なら攻め手しかないと判断して。
「デカい魔法は使いたくないんだが、そうも言ってらんねぇよな。女2人後ろにいたんじゃよ」
選択された魔法は指の数だけの爪の魔法。
ボスキャラと同種の風の魔法である。
「鎌鼬」
緑の風が青い水を5つに分割する。青い魔法もなくなりはしないが、方向がそれぞれに逸れて5方向に消えていく。
「被害はほどほどか。壊したのはオレじゃねぇし、他所が巻き込まれててもオレのせいじゃねぇよな?」
「お前のせいじゃないが、他にやり方はなかったのか? 絶対に誰かは被害を被ってると思う」
「文句言うなよ。防いだだけスゴいだろ」
♢
駆け抜ける聖剣の一撃がバラけるのは確認できた。
その魔法にも見覚えがあった。だから、少しだけ安堵することができたのだが、それはすぐに終わりを告げる。
「良かった。雅さんが一緒だったようです。よかったーー」
「剣筋は似ていますが違います。それに雅なら、ああはしなかったはずです。もっと周りを壊していたと思います」
「言われてみるとそうですわね。聖剣も跳ね返すとかしそうです。じゃあ今のは……」
はやる足は視界に志乃を収めるところまで近く。そこで目撃したのは後ろ姿だったが、その志乃に肩を貸し歩いている男の姿も視界に入った。
「なっ……──何をしてんだ、テメェはーー! 誰の許可を得て、そして志乃さんをどうするつもりだ!」
今しがたの一撃で力を大分消費していたから、聖剣はもう輝きを放たない。しばらく普通の剣としてしか使えない。
「──待て、亜李栖!」
「志乃さん?」
剣は途中で止められるが、元より大した威力もない。
魔力が不足しているので、エッグによる身体能力の上昇も度合いが低くなっているからだ。
剣を振り回しても大した結果にはならなかっただろう。
「こいつはいいんだ。というか、いきなり斬りかかるなよ。こっちがたいそう怯えている」
「おっかねーっす。あんな剣で斬られた日には……ガクブルっす」
「剣を下ろせ。そしてお前たちは亜李栖の方を向いてくれ」
志乃を左右から支える2人が、同時に振り返る。
背中だけだった2人が亜李栖たちの方を見た。
志乃と同じくらいの身長の少年。タッくん。
亜李栖と同じくらいの身長の、聖剣に怯える少女が。
「殺さないでほしいっす……」
「んなことさせねぇけど……志乃。これが仲間か?」
ようやく互いの顔を見た両方。志乃が支えられている理由がユウキたちは分からないから、不審がる。
しかし、志乃が普通にしているし知っているような口ぶりから不審は疑問へと変化する。
「まあ、そうだ。右が亜李栖。左が──」
そして疑問は驚愕へと変わる。
「もしかしてオマエ……優姫か?」
「「「──?!」」」
そう口にしたタッくん以外の全員が、言葉を発した少年に注目する。
「私を知っているのですか?」
「あぁ……驚いてるよ。だって、オマエは死んだことになってるからな」
「「──はぁ?!」」
志乃と亜李栖は驚きの声を上げ。
「タッくん。浮気っすか? そんな……」
少女だけは別の意味で驚いている様子だった。




